4話
「白骨死体なのに寝てるわきゃないだろ。」
口出汁は梅の花の枝を無視して、ガラガラヘビの骨から出汁をとりながら、もうオレンジ色じゃない鍋の中身を口の動きで揺らした。
3人は動き出した。マリアの胃の中にそのまま入っていった。
梅星はウヌマーに口でつままれて胃の中を探索する。
「ん?さっきより上手い。」
「食うなよ。」
口出汁も料亭の女将のように丁寧に運んで貰っていた。
またも真っ暗闇に包まれたが、下方に『オレンジの太陽』があるため、生き物の胃の独特のピンク色が床だけはハッキリと発色した。
「レールを登れば良いのによ、何で梅の木からココに来たのよ。」
口出汁の疑問はすぐに解消された。
レールをそって、満員電車がどんどんと下って行く。魚がツミレになったように、今度は牛がバターになりかけの姿を車窓から覗けた。
「あれに轢かれたら全滅だわな。」
キーコキーコとペニー・ファージング(昔の自転車。有名な前輪と後輪のサイズの差がとても大きいやつ。)が一行に近寄ってきた。
片腕を上げて、手をピンと伸ばし電車と並走している。
ドケヨ!ドケヨ!ドケヨ!ドケヨ!ドケヨ!
一行が気が付かなかったが、牛がバターにされている車両には鳥のような、それともフェイシャルフィットネスの器具のような生き物がバードストライクを起こしている様だった。
気がつけたのは、カメラのフラッシュのような閃光をその生き物が放っていたからだ。
不自然に固まり危険を顧みないその姿は不気味さを醸していた。
「やぁ。あの不快なる生き物の他に久しぶりに生き物を見たよ。」
ペニー・ファージングに乗っている者は目を瞬いた。
「あれ?生き物だよね?」
梅干しにくるみ割り人形に土鍋。確かに生き物のラインナップじゃなかった。
ウヌマーは鍋を置いて梅星を口から飛ばして、まっすぐ目の前の者に襲いかかった。
気がつくとウヌマーはタコスに包まれていた。
「不覚だ。俺の方が食われるとは。」
「いやいや落ち着け。歓迎をしているのだよ。静かな者達には久しく出会っておらん。」
ウヌマーをタコスから難なく解放させると、ペニー・ファージングを走らせ始めた。
「着いてきなさい。」
ウヌマーは土鍋と梅干しを持って走り出した。
ピンク色の床を見れば、先の生き物がバードストライクで死んでいた。しかし、その死に様より多いのが自身らで揉み合った形跡だ。
鳴き声が『ドケヨ!』なのも頷ける。周りがたとえ同種であろうと敵なのだ。信じれるのは自分のみという、生き物としては欠点が大きすぎる。
「ダーウィン賞の最有力候補だな。」
口出汁は亠でこもる声で死体を言葉で蹴飛ばした。
一行はウヌマーのみが見知った小屋に辿り着いた。
〔間違いない!コイツは“制作者”の作った男女の男の方だ!〕
「かけなさい。」
小屋の中は質素を極めていた。何の作業をするにも適していない閑散ぶりだ。
ウヌマーは椅子に座り、土鍋と梅干しをテーブルの上に置いた。
「私の名はエノデン。ここ、〈エノデンの園〉を任された。」
「〈エノデンの園〉?あのヘビがヌシではないのか?」
「ああ。君たちはあのヘビに出会ったのか。そうさ。あのヘビはこの星が一筆で結べる五角形の形。要はヒトデの形の立体なのだと判明する前までは、絶大な力を持っていた。この星がただの平面であると信じられていたときだ。」
「おい!蓋を取ってくれよ!」
口出汁が亠に息を吹きかけてどかせようとしながら、ウヌマーに頼んだ。
「なぁ。俺たちはこの生き物から脱出したいのさ。方法を知らないかい?」
口出汁はエノデンに期待を込めて尋ねた。
「あるさ。車両に乗るのだ。」
「俺たちが見たあの電車か?」
「そうだ。ココは、不都合な者達が送られる流刑地だ。車両に乗せられたのは皆、国に害とされた者ばかり。」
「待て!詳しく聞かせてくれ!国とは?この生き物の外には何がある?」
エノデンは個人を上げて地図を取ってきた。
その地図を広げると、図面とも呼べないような内容を一行は目にした。
真っ白い海に中心に赤い三角形がポツリと。それだけの図だ。某有名動画配信サイトの色を反転させたようなその図を見せながらエノデンは語り出す。
「これは地図であり、そしてそのまま国旗なのだ。この国の名を【資本国】皆は通称“資本”と呼んどるな。」
「この国は1つの建物で領地が完結しておる。〈血のピラミッド〉と呼ばれる建物。昔のこの国の争いで降り注いだ血の雨がそのまま拭えずに残っているらしい。血の汚れはどんなに足掻こうと落ちないのだ。」
「外にあるのはその建物だな。」
「その通り。そして、外の事はこれ以上知らん。済まんな。」
「いや。ありがとう。」
「ここの電灯がカメラのフラッシュなのは苛つくがな!暗い方がマシだね。」
口出汁は天井に張り付くカメラを故障させようと水鉄砲を吹き出した。が、無駄撃ちのようだ。
「ハァ。車両の話に移ろうぜ。」
エノデンは頷いた。
「レールは私が作った物だ。私はこのチャリと自分のタコスを使って空中を自転車移動出来るのだ。車両も材料さえあれば作れる。作っても良いが問題が。」
「何だい?」
「君たちも見たあの生き物だ。名をシホントリテツと言う。あれが車両を駄目にするだろう。見境なく、車両と分かれば寄って来てバードストライクを起こす。」
「君たちは、〈マリアの穴最高〉に居たのだから分かるだろうが、穴の底に列車が着くと同時にブッ壊れるのを見たことがあるはず。その原因もあの生き物の仕業だ。」
ウヌマーや口出汁には分からなかったが、梅星にはその光景がありありと想像できた。
〔あの音。列車が壊れた音なのか。〕
「つまり、俺たちが上に続くあのレールを遡ろうとも、シホントリテツに邪魔されて途中で大破するって事ですね。」
ウヌマーはテーブルに俯いた。
「何か方法は無いかな?」
口出汁はぷかぷかと考えるようにこの言葉を吐いたが、小屋の中で答えられる者は居なかった。
「あの。生き物は電車しか撮らんのですよね?」
梅星は考えて答える。
「電車じゃない乗り物に乗れば良いのでは?」
エノデンは怪訝そうに答える。
「厄介なことに心当たりがあるのだ。君たちには酷だがな。」
「いえ。教えてください。」
程なくして、一行は小屋を出発した。電磁石を元に電車以上に速い乗り物……が手に入る場所へと。
その場所の名は〈トリニアの泉〉。