3話
イソ刃は、高圧力でウヌマーに襲いかかるウヌマーは土鍋の蓋を盾のように構えてイソ刃をうけきる。
口出汁が自分の鍋の中の水を口に含んでヘビに水鉄砲の要領で吹きかけた。
イソ刃と水鉄砲の西部劇のような撃ち合いだ。違うとすれば、白黒ではなく、黒一色であるが。
合流したGALは谷底に散らばる存在について考えていた。
〔コイツらは何なのだろう?この土地は何なのだろう?俺はどうしてココにいたのだろう?〕
考えても考えても分からないままだ。
谷底に住む丸っこい何かは、GALの目の前に迫ってきた。ウヌマーはGALにまとわりつく物が、ヘビの記憶の中で見たあのオレンジ色に金色の目のついた生き物だと確信してした。
「GALよソイツらは生きている!生きているのだ!急に変わる劣悪な環境にも屈さずにな。」
「ヘビの記憶の中で“制作者”という奴が作った生き物だと思う。発生したのではなく、作られた生き物だ。オレンジ色に金色の目を持っていた。」
「キミの見解は?」
「“制作者”が記憶の中で完成させたのは女性と男性だった。そして、この生き物は“制作者”が途中で作るのを放棄した存在だと思う。ちょうど、小説家が納得のいかない自分の原稿を丸めて放り出すように。」
「つまりコイツらは、『未完の蜜柑』というわけか。ならば!コイツらを!」
GALはマッチ棒を擦る容量で『未完の蜜柑』の1匹に枝を擦った。
『未完の蜜柑』は明るいフキダシに自分たちの夢を思い描く。完成した自分を。
『未完の蜜柑』たちはフキダシに吸い込まれるように集まった。
フキダシが消えて、『未完の蜜柑』たちは一体化していった!
どんどんと大きくなる!
完成したのは大きくて何より皆が求めた光の権化!
『オレンジの太陽』だった。
口出汁の目は特別で、ヘビの目と違い、急に明るくなっても大丈夫だった。元は鍋の装飾として描かれたものだからだ。
そして、そのアドバンテージを活かして一瞬でヘビを撃ち抜いた。
ヘビの名を「“うがいするヘビ”ガラガラヘビ」という。
ガラガラヘビはとぐろを巻く代わりに変わったポーズを取る。完全なるコップ状になった。何かを溜めているらしい。
「この土地には詳しいのだ。もうすぐだ!」
マリアの胃酸がガラガラヘビの作るコップに注がれた。
「ギャァァ!」
マリアの胃酸はガラガラヘビの皮を溶かしている。
「よせよ!お前の一番価値のある部位が!」
口出汁はもし自分が勝ったときに、土鍋が履くブーツになるはずのヘビの皮が溶けていく事態を惜しく思った。
ヘビはバネのように飛びあがり、体をほどいて胃酸を振りかけた。
この中で効果がありそうなのは哺乳類のGALだけだ。
「天気雨だ!」
ガラガラヘビの最後の対抗だった。
GALは梅の木の下に入った。枝のない木にGALは胃酸を防げない!
床に散乱したイソ刃の液体とマリアの胃酸が合わさった結果、ヨウ素と食塩になった。
GALはその塩に浸かるとどんどんと皺を増して、梅星に戻った。
梅星を見たガラガラヘビはすぐに這い近寄った。
「これは!梅か!」
「そう。この木は梅だよ。」
ウヌマーはガラガラヘビの記憶を食べたからこそ、その問いにきちんと答えた。
『オレンジの太陽』はどんどんとその輝きも熱量も上がっていた。
「おい!GALか?これからあの太陽はどうなる?」
「俺は梅星だ。」
「何でもいいよ!アレをどうにかしてくれ。蓋を開けたら即蒸発しちまうぞ。」
口出汁は目を見張った。
『オレンジの太陽』はマーマーレードの香りを漂わせて大きくなる。
「コイツは太陽と同じ末路を辿る。つまり限界まで大きく熱くなってから爆発して終わる。」
「完成前で良かったじゃんか!」
言いながら、蓋から出た口出汁は水鉄砲を喰らわせよとした。
ガラガラヘビが静止する。
「やめろ!水は太陽の餌みたいなモンだ。俺たちの爆発で死ぬまでのタイマーが早まるだけだぞ!」
「方法は?」
「大食いだ!アイツらが腐ったミカンのままの状態で集まる前に食うんだ!」
ガラガラヘビはヘビ特有の大きな口で『未完の蜜柑』を丸呑みしていく。
口出汁も昆布を跳ねさせて『未完の蜜柑』をキャッチして食べていく。
ウヌマーは『未完の蜜柑』を噛む。記憶が流れ混んでくるが、ほとんどが“制作者”と呼ぶ者の手で丸め込まれるところで終わっていた。
梅星は腐った蜜柑の腐食成分で、更に発酵が進み、高級な梅干しになった。相互作用で腐った蜜柑も発酵して、肥料となった。
梅の木が更に大きく育つ。今度も梅の木の枝をつけた。
マッチ棒に似た枝を梅星はまた回収した。
「フー。フン!お願いだぁ!一枝で良い。花を咲かせてくれ!頼む!」
ガラガラヘビは蜜柑の早食いの為に、秘技〈ガム噛み〉を発動していた。
〈ガム噛み〉の割には、ガラガラヘビの方こそフーセンの様だった。
太陽は成長を止めた。が、無限に出てくる『未完の蜜柑』に全員が限界を迎えようとしていた。
「終わりだ。俺たちは良くやった。」
ウヌマーは梅の木に寄りかかる。
「ごちそうさん!も、ムリ!」
口出汁も亠を閉じた。
陽気に当てられて、残っていた梅の木の枝は花が咲いた。
「まだまだ!俺は……あの枝を……もう一度あの子に……」
ガラガラヘビは破裂寸前だった。
そのとき、今度は先程とは違う、滝のような胃液が谷底に降り注いだ。
梅星は伸びた梅の木を登り、たちまちマリアの胃に開いた穴から胃の中に飛び込んだ。
梅星は高級な梅干しになっていた。その効能すさまじく、消化に良く、“唾液に胃液を積極的に分泌させる”この効果を普通の梅干しの比にならない程に発揮させた。
蜜柑はどんどんとマリアの胃酸に飲み込まれていく。この土地にこの量の胃液は始めての事態だった。
程なくして、ちょうど良いサイズに落ち着いた。『オレンジの太陽』の他に一切の柑橘は消えた。
梅星は流れ星となってウヌマーと口出汁の元に戻ってきた。梅の枝を持ってきた。
「あれ?あのヘビは?」
「ここだ。」
完全に溶けて、骨だけになったヘビが転がった蜜柑の周りに置かれていた。
「死んだんかい!」
口出汁がオレンジ色になった水に浮かんで無遠慮に言葉を放つ。
梅星はこの姿を見た。そして、梅の花の枝を供えた。
「フフ。まるで眠っているみたい。これはアレね。〈悶惰眠〉。」