25話
戦いが終わってもヒンコンカンコン総裁のチャイムは鳴らなかった。
体育座りでうなだれていた。
「コイツ、メンタル弱いな。」
「やめときなさいって。」
役に立ってない主人公たちが5メートルくらい離れて話している。
カササギたちは落橋した。
黒と青と白。レインボーブリッジよりも美しい景色を作っていた。
「メンタルは弱いさ。真面目に世界平和について考えてる奴だぜ。」
モジャハートの言葉はすぐ隣でヒンコンカンコン総裁にあえて聞こえるように。
「世界平和……最強の正義。……最強の士気源。……最強の力。」
「最強の力のカササギもあっさり倒されたぜ。“当たれば死ぬ”みたいな能力はな、当たらなけりゃどうということはないんだぜ。赤い人が言ってたぜ。戦争屋だけどな。」
「私はまた、ただの連絡係に戻るだけだ。自分の昔の役職にな。鳥をまとめるなんてガラじゃなかったんだよ。」
「略して鶏ガラだな。」
口出汁は元気よく口出しした。
「何言ってんの。鶏じゃないし。」
「そうだ。エレベーターを見てくるよ。もうここに僕たちを邪魔する存在はいないからね。」
モジャハートは自分の毛を5本取ってヒンコンカンコン総裁に渡した。
「これを弦にしてくれ。あと、紙とペンあるか?」
「あぁ。保管庫にあるよ。ハハハ。早速パシリかい?」
ヒンコンカンコン総裁は保管庫からこれまでの会議の記録の帳簿の中で最新の物を持ってきた。
「音楽とか分かんないだろうからよ、楽譜じゃなくて、どのタイミングでどこを弾けば良いかを書くな。」
モジャハートは自分の静脈をGALにリードとして首につけて引っ張ってきて、腕にまとわりつき、帳簿に言った通りのことを書いた。
「出来たぜ。」
モジャハートはヒンコンカンコン総裁が背負っていたスピーカーの網網を取り外して、そこに、渡した髪の毛を巻きつけさせた。
「この通りに弾くとどうなる?」
「音がでる。」
モジャハートは、ヒンコンカンコン総裁の突き出た頬骨に自分のスライム体を当てて振動させた。
骨振動でヒンコンカンコン総裁の鼓膜に直接音が響いた。あの、チャイムの音が。
「音なんてのは、モチベーションとか、理由とかで出すもんじゃなくて、心臓と血と心で出すもんだ。」
「カササギも元はと言えば、無意識に私が能力で支配していただけだ。このチャイムの音を自力で出せても、意味などないじゃないか。」
「自力で音を出せる?上等じゃんかそれで。ジャンカジャンカじゃんかこれで。」
「ロックンローラーは最強の魔神だぜ?お前が願ってもないことを叶えてやる。そんで、ロックンローラーを増やしてくんだよ。な?だから俺の世界では言われてたんだ。“音楽が世界を救う”って。」
「無茶苦茶だ。」
「それはお前が体制側だからだよ。」
スピーカーで出来たハープのような物を弾いてみると、不細工な音が出た。
カササギの黒と青と白のうち、白がドロドロと溶け出した。腐り落ちたようだった。
羽毛とチーズの混ざったようなその物体はヒンコンカンコン総裁が頑張って弾いた音に反応して近付いてきたようだ。
「私の能力は無くなったはず。」
「それは条件反射だね。」
「みんなぁ。エレベーターね、またメンテナンスが必要だ。ちょっと待っててよ。」
「どんだけ壊れるんだよ。」
「またなきゃね。」
「条件反射?」
「いつもチャイムの音で戦いの合図になってたんだ。今もカササギたちの体はそれを覚えていて、無意識に体が動き出したんだ。」
「へぇ。」
カササギの白い物体はヒンコンカンコン総裁の前に迫ってきた。
「君たちが私のために働いてくれたことは確かだ。私にはもう必要も資格もないこいつをせめて送ろう。」
総裁の証の勲章。
それはオリーブの枝のブローチだった。
カササギだった白いモノは鳥の形に戻っていった。
それは大きな一羽の白鳩だった。
鳩はオリーブのブローチを咥えていた。
「君の名前は?」
モジャハートはGALの方を向いて、そして言った。
「モジャハート。実はハートフルな男だぜ。」
「あんたはハートフルじゃ無くて、ハートフルボディでしょ。」
「モジャハート。今、私は自分の地位を失った。部下も失った。残ったのは、芳しくない音しか出ない私の楽器の腕と、チャイムの弾き方の書かれた紙だけ。まさしく貧困だ。そんなときに、世界平和の象徴が私の前にいる。」
「世界平和っていうのはそんなもんだぜ。」
口出汁は水鉄砲でGALとモジャハートを白鳩にのせた。
白鳩は羽ばたき始めた。
「さよならだ。」
ヒンコンカンコン総裁はそう言って、会議室ではなく、保管庫の上の方の資料を取るための踏み台を持って来て腰掛けた。
白鳩は195階層に向けて飛んでいった。
GALたちが下を見ると残ったカササギの黒と青は、綺麗な夜空を連想させた。
下に広がる景色の中に天の河は無かったが。




