24話
レインボーブリッジはその光を上下に循環させて、カーニバルのような陽気さのまま、一行を轢き殺そうとしていた。
レインボーは当たれば即死の無敵の力と相場で決まっている。
「俺は、戦いたくない。」
戦闘体勢を崩した口出汁は特にGALに話しかけた。
「そうかそうか。じゃあ、いっちょ災いを起こそうか。」
無慈悲な催促はエレベータージェントルマンから漏れ出た。
「分かってる。敵わなそうだからとか、落ちそうなのを助けてくれたとか、そんなんで戦わないって言ってるわけじゃない。平和のお願いをコイツらは力にしてるだろ。だからさ。」
「何を言ってるんだい。平和を望む願いを戦う力に変えてるんだ。自己矛盾もいいところだぞあの連中は!」
「でも、願いを力にしてくれるって素敵なことだと思わないか?」
「世界平和の願いも、一瞬人の心を温めるだけの笹の装飾品だからな。その後は……」
「その後は?」
「捨てられる。」
モジャハートは七夕のことを思い出した。
ゴミ箱の中の願いは皺だらけになっていた。
「アレに当たったらさ、死ぬんだよ?ぐずっている場合じゃないだろう!」
「戦わないためには?相手が軍隊なら司令を叩く!」
GALはヒンコンカンコン総裁を指差した。
ヒンコンカンコン総裁は、胸元のスイッチを手にかけた。
「世界平和だ。それだけを追い求めてきた。戦争が無くなれば平和?貧困が終われば平和?皆でユートピアを想像すれば平和?」
「これらは全て正しい!当たり前だ!平和は間違いないのだ!平和は間違えないのだ!」
「風呂敷がデカすぎだぜ!」
口出汁は水鉄砲で先手を取った。
「GAL!僕をマッチングマッチで擦れ!勝たせてやるから。」
エレベータージェントルマンは迫り来るカササギのレインボーブリッジに危機感を高め、珍しく焦りを表面に出した。
「戦いのモチベーションは“正しさ”だ!私はモチベーションMAXだぁ!負ける気がしないね。」
ヒンコンカンコン総裁のチャイム音が炸裂すると、水鉄砲は下校する子供達のように蜘蛛の子を散らした。
「正しさを胸に抱く限り、このチャイムで私の邪魔をする全ては終わる。」
「“世界平和は正しい”か。当たり前じゃないかよ!」
GALはエレベータージェントルマンにマッチングマッチを擦りつけようとした。
「そうさ。その当たり前に反発すんのがロックンロールだ。」
モジャハートはマッチングマッチを無理矢理自分に擦り付けた。
モジャハートの求める幸せ。
……何も、出てこなかった。
「貴重な、マッチがぁ!」
GALとエレベータージェントルマンがハモるくらいの無駄な時間だった。
「聞け!カササギ!俺は!この建物の最下層に居たらしい!自分じゃ最下層とも気が付かなかった。貧困てのを体現してるだろう。」
「前の生では貧乏だった。願いは1つも叶わなかった。だから願うことをやめた。歌に願いも乗せなかった。」
カササギたちは向きを変えて、モジャハートに近づくように進路を変えた。
「この世界で、ギターもマイクも持てなくなった。今も歌いたいとか、作曲したいとかは考えてない。俺にやりたいことはない。このまま轢き殺される運命を受け入れることしか出来なさそうだ。」
「そこのチャイムのお前も!カササギも!これが貧困を終わらせるってことなのか?貧困を殺すことが世界平和への道のりか?辞書から貧困を削除すれば満足か?」
ヒンコンカンコン総裁は口を結んだ。
「クッ……!このスライムは殺すな。あくまで土鍋がヤバいんだ!土鍋を壊せ!」
「アイツ!自分だけ助かる道を選びやがったぞ!ふざけやがって!」
「そんな……」
「こうなったらいよいよカササギとも戦うしかない!覚悟を決めよう2人とも!」
「俺は殺さないんだよな?その言葉が聞きたかった。」
ヒンコンカンコン総裁は自分の右心房と右心室と左心室を3人に付けた。
「ここからだぜ。お前を否定するのはよぉ。モチベーションを生ハムの原木のように、ケバブのように削ぎ落としてやるぜ!」
カササギたちは動きを止めた。命令遂行のために膠着状態だ。
「やってみろ!誰もが世界平和を求める。願い事の時に、善良なものは皆、世界平和を胸に抱くのだ。」
「いや。違うな。良いか?世界平和の正体を教えてやるよ。」
「世界平和の正体はネタ切れだ。」
「ネタ切れ?」
「そうだ。お前たちはずーっと無意味な会議してたんだ。」
「世界平和の願いがどうだの。正しさがどうだの。実行に移すのがどうだの。前提から違うんだよ。」
「挑発は説得にならないぞ。」
「俺は前世がこことは違う世界だからよく分かるんだよ。ここの世界のことがより良く分かる。」
「そして、世界平和が正しくて、高尚なものならどうしてもっと上の階層に居ないんだ?」
ヒンコンカンコン総裁は下っ端根性が染み付いていた。元々、中くらいの戦争の時には下っ端だったから。
「話を終わらせてやる!チャイムを!」
ヒンコンカンコン総裁の胸元のスイッチを押すも、音は鳴らなかった。
「ネタ切れに邪魔もクソもあるわけ無いだろ?」
「最下層のカスのくせにぃ!」
ヒンコンカンコン総裁の無力化の事実の直後。
カササギのレインボーブリッジはまた動き出した。
「まだ戦うのか?止まれ!」
「俺は命令してないぞ?」
カササギたちは一斉に話した。怖いくらいにピッタリの寸分の音ズレもなかった。
「私たちは世界平和を邪魔する者ですよ。」
「?何が言いたい。」
「私たちはあなたの部下ではなかったのですよ。」
「ただし、私たちもまた、あなたのチャイムによって攻撃の終了や開始を操られていたのです。あなたは気がついていなかったが。チャイムは終了の象徴のだけでなく、開始の象徴でもある。」
「裏切り者だったと?会議にも参加していた仲じゃないか。」
カササギは傘詐欺。よって傘下詐欺で会議に参加詐欺をずっとしていた。
「私たちは願いの無敵の力を得ることが目的だった。それだけです。だが、チャイムによる命令はもう使えない!」
レインボーブリッジはまた突進してきた。
今度は皆殺しにするつもりだ!
「ハハハ!なぁ!あんた名前は?」
「我が名はヒンコンカンコン総裁。」
「話せて良かったよ。」
「鍋のアンタは?」
「……口出汁だ。」
「そうか。右心房返してな。」
「なぁ?この中でさ、吊り橋効果って知ってるか?」
カササギのレインボーブリッジの産む陰は大きく、暗く。
GALも口出汁もエレベータージェントルマンもヒンコンカンコン総裁もキョトンとした。
「人間の心臓に関する理論でな。吊り橋の危険さで起こる鼓動の増加が、恋で起こる鼓動の増加だと勘違いすることなんだが、これが全くの嘘っぱちなんだぜ。」
「でも俺は、吊り橋を目の前にしてかつてないほど鼓動してる。激しくエネルギーを持ってる。体が震えて止まらない!毛先から体の芯まで揺れて揺れて興奮して止まらない!」
モジャハートは、少し体を膨らませると、自分に生えた毛を、カササギのレインボーブリッジに向かってハリネズミのマシンガンのように放たれた。
モジャハートの揺れる毛は、カササギたちの心臓に食い込むと、そのカササギたちのハツに巻きついた。
カササギの鼓動を打ち消すように、モジャハートの毛は振動する。カササギたちは運動機能を失い、モジャハートに心停止させられた。
前話とは立場が逆転したのだ。




