19話
ご朱印帳はクレメンス大吉行によって、骸寺の御朱印を表紙に書かれているところだった。
貰った吉骸はニコニコだった。
クレメンス大吉行は爽やかなウインクをした。
「完全にサインと間違えてるねぇ。」
「急な改宗だから、分からないルールもあるんだろうね。」
「普通に書いてもらった時にキレて、何で今は怒らないんだよ?」
「あ!成功したんだ。馬鹿になってるんだったら納得出来るよね。」
「そうだな。よし!奴からご朱印帳を奪おう。」
歩み寄る2人に吉骸は全く気が付かなかった。
わざとかなと思う、「ほえ〜〜」という溜め息なのか、相槌なのかわからない声を発していた。発する必要もないのにだ。
「また会えたな。」
「前よりマシ?ていうか、植物のようなおおらかさがあるというか。」
「お前ら、ワイになんか用か?」
GALは両手でご朱印帳を持つ吉骸と握手した。吉骸は条件反射的にその手を握り、そのままご朱印帳は自由落下の餌食となった。
落下先には口出汁が待ち構えており、犬が木の棒を咥えるようにご朱印帳を咥えると、GALはハンマー投げの要領で掴んだ手を振り回して吉骸を遠くに投げた。
GALはチンパンジーだから、中々のパワーがあるし、吉骸も唯のおかしな形の黄色いスケルトンで軽いので、見事に吹き飛んだ。
「ここまでやる必要あった?」
GALの手の骨粉をはたく姿はアスリートの面影を感じた。
「ん〜しゅみっ!」
口出汁はそう言うと、GALにご朱印帳を渡した。
中を覗くと、そこには……ご朱印があった。
何も……おかしくは……ない。
「あった!“サワーオブテラー”めちゃくちゃ凝ってるぅ。おぉテーマパークみたい。みんなで同じポーズしてる写真まで付いてる。」
「コイツらみんな肉がついてるじゃねぇか。」
「生前の写真ってことか。」
「1番間抜けな面のコイツがあの吉骸かな?」
「結局、ここまでの成果はこのくだらない写真だけか。197階層には行けそうにない!」
ご朱印に特殊な力などなかったのだ。
ここにあるのは、寺と骨だけ。
GALはご朱印帳を投げ捨てそうになった。
で、投げ捨てた。
御朱印には力はない。だが、ご朱印帳には?
ご朱印帳はGAL(女性)のフルパワーな扱いに電動で開き始めた。
それは、85階建てのマンションになった。
しかも、それは骨壺マンションだった。骨も一軒家から洋風の共同住居に住む時代だ。
マンションだから自治会とかやるのかな?上層階の方が地位が高そうだった。
骸寺音頭は動きを止めた。吉骸たちはどんどんと骨壺マンションに迫ってきた。
マンションのフロントには部屋の割り当てを決定する係がいた。
GALと口出汁もまた、フロントの内部で係と同じ格好で座っていた。
「お静かに!今からあなた方を審査します。アピールをお願いします」
吉骸は協調性なく口を動かした。最悪の聖歌隊のような有様に係の溜め息は大きく深かった。
「ワイサイコパスや。」
「ワイは英語の試験で942点を取った。」
「1日を分刻みで家族と幸せに過ごしとる。」
「交通系カードには10万を入れて改札を壊したやで。」
「ワイ慶応やで。やっぱりワイ早稲田だったわ。」
「ん?二郎の店舗の話か?女は二郎にく!る!な!」
「ワイ税理士一発合格。ちな中学時代ひと殺したことある。」
係は深く曇った顔。GALと口出汁は口をポカンと開けて雑音に耐えていた。
全員の供述が終わると、係はメガネをストンと置いて向き直る。
それは恐ろしく強欲な笑顔だった。
「このマンションには回線が繋がっておりまして、全7チャンネル。私は6チャンネルの『強欲テレビショッピング』の担当者で、只今放送休止でここにおります。」
「あなた方は、ここに辿り着く運命にあったのです。探していたのです。2チャンネルの『傲慢トークショー』。貴方たちは番組を持つのです。」
「マンションに住めるんやないんか?」
強欲な笑いはそのまま自分の体を壺の形にすると、口上を始めた。
「この箒、ハキハキはしません!スイッチひとつで、スーッと!」
口出汁とGALは思った。
(それは掃除機では?)
壺の中に吉骸はどんどんと吸い込まれていく。
皆が等しく「グエーー」というリアクションだった。
「あなた方は協力してくださりました。何か報酬を。」
「強欲の割に慎ましいんだね。」
「報酬を下さい。」
「慎ましくないね。」
「いや!俺たちが197階層に行きたいんだ!それぐらいはやってもらうぜ。じゃなきゃこのマンションをぶっ壊す!」
しぶしぶ壺は2人と一緒にマンションのデッキに移動してきた。
寺が豆のサイズだった。
「このデッキから2枚ひいてください。」
「2枚引く?」
「そうです。2枚引くんです。」
ホテルのデッキには、ベンチや植物、テーブルなどがあった。だが、引くものなどない。
GALはデッキから外してはいけない床板を2枚引っこ抜いた。
この骨壺マンション、骸寺と同じで寄木造りである。木が2枚抜けただけで、簡単に壊れる。
マンションは骸寺を踏み潰した。
崩れる少し前に、壺はあのツボ笑いをしていた。
壺には生命保険がGALと口出汁にかけられた紙があった。
GALと口出汁はこんなセリフを聞いた。
「もう一坪土地が買えるぅ。」
2人は瓦礫の下敷きで、救急搬送された。197階層に。




