16話
2人は、コレクソヨーゲンの車をハイジャックして198階層に飛んでいった。人類の夢の乗り心地は悪いようだった。つまりは悪夢ってことだ。
階段で上がらないのがお約束になってきたところで、まぁ当然だがチンパンジーに運転は早かった。
198階層に着くと、車が動かなくなった。パーキングになっただけなのだが、頭がパーの中のキングたる2人には気がつく術もなくしょうがなく降りた。
コレクソヨーゲンはドライブレコーダーを買う決心を固めると共に、未来よりも記録の方が生きる時には役に立つと思ったのだった。
2人が198階層にて眼前に広がるのは、凶の漢字のメが、天使の輪によって飛んでいき、凵だけになって行く姿だった。
「こんなのしかないのかな?」
「うん。」
「ヤァヤァ諸君。こんにちは〜。いいよいいよ、土下座しなくて楽になさいな。」
白髪で逆モヒカンの老人が白ににカラフルなボールの装飾のローブ姿で現れた。
「君たち。生は罰であり、死は罪だよ。」
「長い苗字だね。は罰であり、死は罪か。名刺とか見てみたいね。」
GALは人の名前を覚える自分自身の優しさに歯ぎしりした。
「うん。これは誰のせい?彼の姓?」
と口出汁。
「この子たちは今までと違うと思ったら、知能も今までと違うのだな。」
「我が名はクレメンス凶行。免罪符ばら撒きおじさんだ。」
「それで?」
「死は罪だ。この免罪符は死をキャンセル出来るんだ。」
「ハェーそうなんか。」
「何で関西弁なんや?」
「凵な。アレは“神の啓示板”と呼ばれていてな、吉骸が集まってな、自分のおみくじを貼り合うのじゃ。」
「おみくじは開示して良いもんじゃない。」
口出汁は標準語で口出しした。
「啓示板は運勢が盛り上がると“神スレスレの啓示”略して“神スレ”。そうじゃない場合は“火葬されてスレてる”略して“かそスレ”と呼ばれる。」
「詳しいね。」
「当たり前じゃ。吉骸が興味の失せた凵に寿命が来たら凶になる。そいつに免罪符を売りつけて凶を唯の凵に戻すのがわしの役割じゃ。」
「戻った凵は?」
「また吉骸が戻ってきて、荒らしていく。」
「それって無限地獄じゃない?」
「無限地獄か。それがどうした。生は罰である。分かりきっておる。」
「まぁ。とにかく上に行こう。」
「階段は?」
「無いぞ。ここに来たら、“神の啓示”にのめり込むしか無い。他人の運勢を思考を思想を現実を楽しむしかないのだ。」
開運グッズみたいなスケルトンがいつの間にか2人を掴んでいた。
黄色い骨に出っ張りのある口蓋、近すぎる目の間隔、不恰好な骨格は肉が着こうと間抜けな見た目のままなのだと容易に想像出来た。
「それみろ吉骸もお前たちと“神の啓示板”に貼り込みをしたいようじゃぞ。」
「クレメンス凶行とか言ったな。コイツらのおみくじの出所も……」
「そうとも!ハハハ。知能の低い者達だと思っておったが、中々やるな。免罪符は表が凶を凵にするお札で、裏面はおみくじになっておるのじゃ。初回ログインサービスじゃ!無料で200連みくじをさせてやるぞ!」
黄色い骨はクレメンス凶行ににじり寄る。
「免罪符をクレメンス。」
口々に発する。
「哀れな光景だ。」
「本当じゃ。なんとも哀れじゃ。吉骸も、神の啓示板も。わしの贅沢の養分となりて存在し続けのじや。」
「いや。貴方も哀れだ。今の貴方がずっと続くのだ。レンアイも、スポーツも、バトルも経験しない。免罪符ばら撒きの無限地獄だ。」
「同じだよ。貴方も無限地獄の住人なのだから。」
「わしが?ふざけるな。どうして……」
「何故って?生は罰だから。死は罪だから。貴方も同じく罰を受ける。」
この世界を回す存在であろう。権力、富はクレメンス凶行に集中している。彼は、彼自身が無限地獄を創り出し、その中に自分も囚われる事に気がついた。
「わしは。どうすれば?どうするのじゃ。」
「口出汁。チンパンジー的観察で気がついたよ。ここにいる全ての存在は、死んでいるんだ。骸に、凶に、凶行。」
「あなた方全員が、{罰と罪}を背負い、同じことを繰り返しては罰をより長く、罪をより大きくしている。」
「どうすれば…どうすればぁ…どうすれば…」
うずくまり、ずっとこう呟く。
「成仏して!クレメンス。」
「ここの仕組みを作った貴方が成仏すれば、この地獄は終わる。」
「そうは言ってもな。わしにはわしの作った免罪符は効かないのじゃ。効き目が有れば、今頃わしはここにおらん。」
GALはマッチングマッチを取り出して、クレメンス凶行のローブに擦り付けた。
温かいフキダシが現れて、その中から生き仏セットが現れた。
「これは……?」
「千日解放行だ!お前にはここにいる吉骸と、“神の啓示板”をこの階層、この地獄より解放してもらう!」
クレメンス凶行は白装束を身に纏った。
本来なら覚悟の表れを意味する死装束も、クレメンス凶行は死んでいるので、唯の事実確認の意味だけだった。
GALと口出汁はクレメンス凶行の前よりも凛々しさのある背中を見送った。




