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出稽古 11

 次の月、颯玄とサキは紹介された知念のところに赴いた。


 こちらも青空道場だが、地面の上には畳が敷いてある。祖父の道場でたまに見る光景だが、どういう技を主体に教えているかがよく分かる状態だ。


 2人は少し稽古の様子を見学していたが、弟子の1人が家の中に入るように言った。2人の来訪を知念に伝えた人だった。


 緊張の面持ちで部屋に入ったが、知念の表情は大変柔和で、とても武術の達人といった雰囲気ではない。


「よく来たね。まあ、お茶でも飲みなさい」


 知念はそう言って奥さんにお茶を運ばせた。2人はすぐに教えてもらえると思っていただけに少し拍子抜けした表情だったが、歓待されて悪い気はしない。この道場の流儀と考え、運ばれたお茶に口を付けた。その前に自己紹介をしたが、知念は2人のことは知っていた。


「颯玄君、君は掛け試しで活躍しているね。わしの耳にも聞こえていたよ。サキさんも並み居る男性空手家を次々に破り、颯玄君に負けたため久米先生の道場に押し掛けたそうだね。2人とも若いだけあって行動力がある。将来が楽しみだ。実はわしと久米先生にも因縁があってね。今では2人とも好々爺(こうこうや)といったところもあるが、昔は君たち同様、血の気が多かった。強い人がいると聞くと、矢も楯もたまらず、試合を申し込んだ。その内の一人が久米先生だった。そこからの縁で今に至っている」


 颯玄とサキは2人にそういう過去があったということを初めて聞いたが、その分、その話に興味津々という顔になっていた。


 実は昔、外間がここに訪れた時も同じ話を聞いており、出稽古の前日、意味深なことを言っていたことを思い出した。その時の2人には何のことか分からなかったが、このことだったのか、ということで腑に落ちた。


 となると、ある意味、稽古以上に興味が湧いた。


「どうだったのですか?」


 2人はほぼ同時に尋ねた。


「おぉ、気が合うねえ。良いことだ」


 ちょっとはぐらかされたような感じがしたが、2人は知念の目を見て真剣な顔になっていた。


「2人とも20歳を少し過ぎた頃だった。わしも久米先生もそれなりに実戦経験を積んでいるつもりだったが、なかなか掛け試しの場で顔を合わせることが無かった。もし、そこで会っていたら掛け試しということでやっていただろうな。しかし偶然、守礼の門のところで会った。その時、互いの顔は知らなかったが、共に武術家だ。相手の気は感じる。ただならぬ実力者ということは雰囲気や眼光で分かったが、いきなり戦いを始めれば単なる喧嘩だ。それは互いの信条に反する。そこで自分の名前を名乗った。久米先生もそうした。2人とも互いの名前は耳にしていたので、一気に意識が高まった。だが、ここは駆け試しが行なわれるような場所ではないし、自分たちは了解済みでも外から見れば別だ。改めて辻で会う約束をして別れても良かったのだろうが、そこが若さだ。今、ここで戦いたいという気持ちが勝っていた。おそらく、久米先生も同じだったと思う。近くを歩いている人に声をかけ、立会人をお願いした。するとその人は快く引き受けてくれたが、証人は多いほうが良いということで他の人にも声をかけてくれ、10人くらいが集まった。これで場が整ったと思った」


 そこまで言うと、知念も喉が渇いたので、お茶を一口すすった。



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