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WAKARE  作者: 佳穏
哀しみの連鎖
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大切なもの13

あの夜以来雅和は自分から佐知にかける電話に躊躇していたが、今日は大事な要件を伝えるため繋がらない電話に業を煮やしながら何度もかけ直していた


こんなこと今までなかった 俺がかける電話が繋がらない、電話に出ないなんて一度も無かった こんなことで佐知に苛立つのは俺の驕りなのか・・・


雅和に理解しがたい感情が湧き上がっていた。愛情の裏返しにも似たそれは初めて味わうものだった。



雅和は飲みかけのカップを手にして空席のカウンターに移動した。


田鶴子はすかさず淹れたての珈琲を雅和の前に置いた。



「どうぞサービスよ 佐知さんどうしたのかしらね 井川君が帰って来ているのに今日は来ないのかしら」



「佐知はもう前とちがうから」



独り言のように呟いた雅和に田鶴子が言葉を返した。



「彼女はいま恋をしているんじゃないかな」



「佐知が恋?それは爆弾発言だね」



「人を変えてしまうは恋のなせる業でもあるのよ」



「だからって決めつけるのはどうかな ママは佐知からなにか聞いてそれでそんな事を」



「佐知さんからは何にも聞いていないけど 井川君ちょっと心配になった?」



「俺は心配なんかしてないよ この前佐知が言ったんだ お互いに恋人が出来たら隠しっこは無しにしようって 彼氏が出来たのなら話してくれたっていいのにあいつ水臭いなぁ」



「話せないのは佐知さんの思いが一方通行で 相手の気持ちがわからないから話せないのかもしれないわ」



「・・・・」



「佐知さんが恋をしているとして井川君はそれを喜んであげられるのかしら それが出来ないならもう一度自分の気持ちに向き合ってみることね 今ならまだ間に合うわよ」



「霊感のあるママに何が見えようと佐知と俺は昔の関係には戻れないよ 俺はこれからも美香さん以外に心惹かれることはないし美香さんを忘れないと誓ったんだ」



「井川君は美香さんを忘れないではなくて忘れたくないのよね あの日から時間が止まり未来に進めない訳を貴方はわかっているはずだわ 今ある記憶がいつかは薄れ忘れ去られるのを恐れてもいるのでしょう」



「確かに記憶や感情ははいつしか薄れてしまうのかもしれない、だからといって佐知との復活愛なんて俺には考えられないよ 俺の気持ちを度外視したママの話は無茶苦茶すぎるよ ママ俺は彼女の再三の思いを蹴ってきたひどい男なんだ  昔に戻りたいと懇願する佐知の思いに答えてやれなかった 涙する彼女に手を伸べることも優しい言葉をかけることも出来なかった あの時の悲痛な彼女の顔はもう見たくないんだ 親父が願ったように俺も佐知には幸せになってほしい 佐知が過去を葬り新たな愛を見つけたのなら俺は心から祝福したい」



「井川君がいま話したことは佐知さんの気持ちと符号しているわ 貴方の幸せを願いその笑顔を見るのが佐知さんの喜びだった くすぶり続ける愛を隠して貴方を支えてきた そうまでした彼女の思いを少しは汲んでほしいわ 井川君は美香さん同様に佐知さんのことも忘れてはいけないと思う 失ってその大きさに気づくのは愚か者のすることよ 冷たいかもしれないけど美香さんは私たちが生活しているこの世界にはもう存在しない人でもあなたと佐知さんは・・もうこの話はここまでにしておきましょう とにかくこれだけは覚えておいてちょうだい あなたと佐知さん二人の人生はこれからも波乱にみちた道のりだけど必ず光差す日が来るわ どんなことがあろうと乗り越えた先に幸せが待っているという事を信じていてほしいの 井川君はまた私のこと気味が悪いって思うでしょうけど・・井川君運転には気をつけて 絶対に無理はしないでね 約束よ」



「ママに真顔で約束よなんていわれるとなんだか怖いな でも安全運転厳守約束するから心配しないで」



「約束よ井川君」



また見えてしまったわ・・


田鶴子は雅和を見つめながら予感が気のせいであってほしい的中しないで欲しいと願わずにはいられなかった。



「ママ、佐知のことはいつか冷静に自分と向き合える日がきたときに考えてみます ママいままでありがとうございました ここで受けたご恩を忘れず明日香と生きてゆきます 明日香を育てていただいて本当にありがとうございました」



「もうすぐお別れね、淋しくなるわ つらい別れだけど生きてさえいれば又いつか会えるもう会えないわけじゃないんだもの笑ってお別れしましょう」



「必ずまた会いにきます 明日香をつれて帰ってきます 成長した明日香をママに見せにきます約束します」



「ありがとう井川君、あらたな門出に涙はご法度だから最後のお別れの日は飛びっきりの笑顔でおくるわね」



「ママ本当にお世話になりました」



遠くの親戚より近くの他人、その言葉通りここは雅和にとって故郷になっていた 込みあがる熱いものが雅和の体中を駆け巡っていた。


微笑む田鶴子の顔が、今は亡き母と重なって見えた雅和の目は潤んでいた。



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