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WAKARE  作者: 佳穏
さよならの予感
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君を忘れはしない3

「井川くんに連絡しようと思ったのよ でも出張は口実で病気のお母さんに付き添っているとママから聞かされてママに止められてそれで私・・ごめんなさい」



「それはいいよ それで美香さんは」

 


「今日・・・手術を受けたわ」



「あんなに拒み続けた手術をしたのか」



「腫瘍からの出血が原因で意識不明になって緊急だったみたい」



「・・・ 」



「今も危険な状態は変わっていないの 赤ちゃんは保育器の中で懸命に頑張っているわ 美香さんが命をかけて守った井川君の子供よ」



「子供は無事に生まれたんだね よかった話してくれてありがとう 急いでそっちに向うよ」



「でも入院しているお母さんは?手術を終えたばかりなのでしょう」


「手術は成功したから母さんの世話は事務所の泉さんに頼んでみるよ 泉さんは父が事務所を立ち上げた時からのスタッフなんだ 母さんとは歳も近いし気の合う仲だからきっと引き受けてくれると思う」



「美香さんのこと井川君に早く伝えたくて悩んでいたの だから電話をもらってこうして話せて良かった 井川君との約束を破りたくなかったから、どんな時も真実を隠さず話すあの約束だけ守りたかった・・ママには悪いけどこれでやっと胸の痞えがとれたわ」



「佐知、いつもごめんな これから急いで車飛ばしていくよ」



「夜道の運転気をつけてね」



肩の荷を下ろし安堵した佐知は久しぶりの深い眠りにおちていった。



民家にうっすらと赤い光が見え出した早朝、佐知は手紙を書いていた。開店前のSIGNPOSTの郵便受けにその手紙を落とし佐知は仕事に向った。



店を開けた田鶴子は新聞と一緒に封書を手に取っていた。カウンターに腰をかけ不思議そうに封をあけた。



ママお早うございます 差出人のない手紙に驚かれたでしょうご免なさい 昨夕、美香さんのお父さんが亡くなったことを知りました 井川君も私も信じられずただただ驚くばかりでした 私は井川君に美香さんが手術した事を話してしまいました、ごめんなさい 叔母と姪だった美香さんとママの関係も聞きました 身内だとわかったママにお願いがあります すべてを美香さんに話してほしいのです ママは言いましたね美香さんにはすべてが見えていると、だとしてもこのまま真実を告げず隠し通してもいいのでしょうか それを美香さんが望んでいると私には思えないのです 最期のとき私は真実のなかで命をとじたい、人はそう願うのではないでしょうか 偽りや嘘も愛になるとママは言いました でもそれは生きている側の身勝手な言分のような気がするのです 残された人生を懸命に生きようとしている人がそれを望むでしょうか 胸を張り生きてきた美香さんが喜んでくれるとは思えないのです 人の奥底にある計り知れない気持ちは語らなければ誰にもわからない それを勝手な解釈や思い入れで片付けてしまってもいいのでしょうか 嘘や偽りのなかに愛などあるはずがない、どんな理由をこじつけようともそれは紛れもなく偽りの愛、真実のなかにこそ愛は生まれるのだと私は思いたい ママが言う嘘、偽りも愛、そんな愛と、たとえ傷つき涙したとしても偽りのない愛、美香さんがどちらを望み選ぶかママにわかりますか 私にはわかります 何を伝えようとしているのか分からなくなってきました 自分でも理解不能な手紙を送る失礼をお許しください ママ約束をやぶってごめんなさい 今日井川君が病院にきます    



接客中も田鶴子は手紙の内容が頭から離れなかった。



 

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