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WAKARE  作者: 佳穏
縁は異なもの
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揺らぐ心2

「忘れてしまったかも知れないけれど井川君わたしに君を守る強い男になれるといいなって言ってくれたのよ だから今度こそ本物の強い男になって、美香さんを守ってあげて」



「・・・ごめん・・佐知」



「責めているんじゃないから謝らないで 私の素直な気持ちなの 井川君と美香さんをわたし応援したいの」



「佐知、ありがとう」



其のとき雅和のお腹がグゥーっと大きく鳴った。



「井川君、今日お昼食べた?」



「そういえば病院で口にしたのは缶コーヒーだけ」



「それじゃ早くなにかお腹に入れてあげないと」



「一緒にどこかで食事して帰らないか」



「ごめんなさい これから陶芸教室なの」



「そうか、それじゃ一人で食べて帰るよ」



「それはだめ、龍一君と真砂子が夕飯準備して待っているわ」



「わかっているんだけど、新婚の二人を見ると身の置き所なくて、どうも落着かなくてさ」



「でも今日は帰って真砂子の料理を食べて お昼に真砂子から電話がきたの 美香さんと井川君を心配してかけてきたのよ 井川君のために腕によりかけて料理を作って待ってるわ 今日はスタミナ料理にするって真砂子張り切っていたんだから だから今日は寄り道しないでまっすぐ帰って」



「なら急いで帰らないとまずいな」



「じゃ又あしたね」



「あっ佐知まって」



「え、なぁに」



「俺になにか隠してないか て言うか俺に何か言いたいことがあるんじゃないのかなって」



「・・急にどうしたの」



「目の前にいる佐知が俺が見た病院にいた佐知とは様子が少し違って見えるから それに会話中、佐知は俺から何度も目をそらした そんなこと今までなかっただろ」



「・・・・・」



佐知は返す言葉を失っていた。



「・・何もないわ、井川君の勘ぐりすぎよ」



「ならいいけれど、でも俺に嘘はつかないでくれ、たとえ俺が絶望に悲しもうとも佐知だけは真実を伝えてくれ 約束してくれるよね佐知」



「ええ・・約束するわ でも今は余計なこと考えないで美香さんが良くなることだけを願いましょう」



「おれ今度こそ強い男になって美香さんを守っていくよ 佐知には申し訳ないけど・・」



「そうよ、それでこそ私が惚れた井川君だわ」



「喜んでいいのか、なんか複雑な気分だな」



「こういう時はさらっと聞き流してありがとうって言えばいいのよ」



「そっか」



「今日は本当にお疲れ様、真砂子によろしくね」



「ああ、じゃまたあした」



美香さんの病状がもし最悪なものであったら隠さず話すなんて私には無理だわ 雅和とした約束も・・・

安易に約束したことを佐知は悔いていた。



雅和が今も佐知の大切な男ひとであるように美香も大切な忘れられない女ひとになろうとはこの時の佐知は夢にも思わなかった。



雅和からのメールに気づいたのは漆黒の闇に覆われた夜半だった。


美香さんの意識が戻ったよ


佐知はすぐさま返信メールを送った。


井川君の祈りが届いたのね 本当によかったね


雅和からの電話が入ったのはそれからすぐだった。



「夜遅くごめん、俺うれしくて誰かと話したくて真っ先に思い出したのが佐知、君だった」



「わかるわ井川君の気持ち 私が飛び上がるほどうれしいんだもの、その何十倍も嬉しい井川君の気持ちすごくわかる」



「一緒に喜んでもらえてうれしいよ ありがとう」



「井川君わたし嬉しい 美香さんの回復を私に一番に伝えて一緒に喜びを分かち合おうと電話をくれたんだよね これからも協力するから遠慮しないでなんでも言ってね」



「慣れない病院で俺は佐知に助けてもらった 美香さんも俺と同じように必ず君の助けが必要になると思うんだ 男の俺に言えないことも君になら言えるかもしれない だから佐知頼む、美香さんの力になってくれないか」



「美香さんが入院してから何故だかわからないけどわたし美香さんを支えてあげたいと思ったの だから私からもお願いするわ 井川君と一緒に美香さんを見守らせて、お役に立てるかわからないけど話し相手くらいなら出来ると思うから」



「佐知がいてくれたら美香さんきっと心強いよ 勿論俺もだけど」



翌日、病院で雅和は担当看護士の姿を探していた。



「おはようございます 木内さんの意識が戻ったと連絡もらいましたがいま彼女と会えますか」



「えぇ会えますよ」



「話しは出来ますか」



「相手の話すことは分るようだけど木内さんは頷くだけで言葉はまだ でも大丈夫です 必ず話せるようになりますから ご心配でしょうけど焦らず待ちましょう」



「はい、ありがとうございます」



雅和は開け放たれた窓からの雲ひとつない空を見つめる美香に声をかけた。 



「美香さん、おはよう」



「・・・・」



「驚いただろう どうして俺がいるんだって」



美香は静かに頷いて見せた。



「美香さんが倒れてからずっと付き添ってたんだ 心配しないでいいよ仕事は大丈夫だから」



美香の手が口に物を運ぶ仕草を見せた



「食べる?心配ないよ ちゃんと食べているから こっちに来てから龍一夫婦のお世話になってるんだ、だから大丈夫」



美香の顔が綻んだ。


「美香さんには俺がついてるから安心して」



美香は不自由そうな手で感謝の合掌を作ろうとしていた。



「まだ思うように動かないんだね でも必ずよくなる、会話もいま出ない声も必ず戻る、これ看護士さんの言葉だから間違いないよ」



美香は大きく頷いて微笑みを見せた 背後に人の気配がした雅和は立ち上がって振り返った。



「おしゃべりはそのくらいにしてね、患者さんが疲れますよ」



「すみません」



「この日を待っていたあなたの気持ちはわかるけど木内さんは今日検査の予定が入ってるの 患者さんにとって検査はとても疲れるのよ 木内さんも出来るだけ安静にして体を休ませなきょだめよ あなたは付添い人なのよね その付添いが患者を疲れさせてどうするの」



「すみません」



美香は看護士と筆談をしていた。笑い声を上げていた看護士がそのメモを雅和に握らせ出て行った。



「飲み物買って来るけど美香さんは ✕か、いらないんだね」



美香が看護士に書いたメモを見ながら雅和は売店へと歩いていた。


看護師さん、私の大切な付き添い人をいじめないで 確かに空気を読めない所あるけど純粋で子供のまま大人になったような人なの 私にはこの世で一番大切な人だからお手柔らかにお願いします


雅和の顔は恥ずかしさで火照りだしていた。ふと佐知の言葉を思い出した。



今度こそ本物の強い男になって美香さんを守ってあげて



そうだよな、美香さんが元気になったらプロポーズしよう



雅和は美香が自分の子を宿している事実その命が消えようとしている現実も知らず幸せな未来設計に思いを巡らしていた。



検査に向う美香は笑顔で手をふっていた。直立不動で厳しい顔の雅和に看護士が言った。



「木内さんは大丈夫よ あなたが緊張してどうするの、そんなに情けない顔してないでほら笑ってあげなさい 木内さんが戻るまで時間があるから肩の力抜いて待っていて、まるであなたの方が患者みたいね」



看護師は豪快に笑い美香の車椅子を押して出て行った。



あの看護士のおばさん、すごいキャラだな 明らかに俺をいじって楽しんでるって感じ 年配者の目には若輩の俺なんか子供で頼りなく映って見えるんだろうな



気を取り直し携帯電話を持って院外にでた。毎日欠かさず事務所にかける電話は雅和の日課だった。



「てっちゃんお疲れさまです 仕事は順調ですか」



「お前の仕事は俺が責任もってやってるから心配するな ただ昨夕困ったことがおきた 佐伯さんから依頼された土地相続の件だがうちの担当者がとんでもないミスをしでかした 俺にもチェックの甘さがあったが100%こっちの落ち度だ」



「それで事態は収拾できそう」



「ああなんとかなりそうだ 言いにくいんだが責任者であるがお前が顔を出さないわけにはな」



「わかった、事務所の代表としてきちんと謝罪すべきだな いまから事務所に戻るよ 話はそっちで詳しく聞くよ」



病室に戻ろうとした雅和は偶然佐知と鉢合わせした。



「あっ、井川君来てたの」



「いいタイミングで会えてよかったよ 仕事でいまから静岡に戻るんだ 美香さんのこと君に頼んでもいいかな 仕事が終わったら急いで帰ってくるからそれまで美香さんを」



「了解よ、心配しないで仕事に行って」


「じゃ頼んだよ」



病室に美香の姿はなかった。検査はいつ終わるのだろうと見上げた先の時計を見た雅和はメモをおいて病室を出た。



美香さんへ

急な仕事で静岡に戻る。仕事が済んだら急いで帰るから寂しいだろうけど我慢して待っててくれ。 美香さんのことは佐知に頼んである。力になってくれるよ。じゃ俺は仕事モードに切り替えて男の戦場に行って来ます雅和より






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