出会い4
「そんなこと聞きたくない あなたが何して生きていこうが私には関係ないけど・・でも欲望のおもむくまま行動する男には嫌悪さえ覚えるわ 酔って女を抱くのは本能だから仕方ないなんて卑怯な男は正当化するけど心はそこにあるの存在しているの 女の人と寝ることが何かから逃れるため・・それだけの理由なら許せない私はそんな男は絶対許さないわ」
「俺は君の言う許せない男の一人だな 心なんてこれっぽっちも考えられなかったから」
「心が一つになって恋人達は初めてスタートラインに立てる 男と女二人だけの物語がそこから始まっていく それが愛じゃないのかなって私は思ってるの いま笑ったわね夢見る夢子さんみたいでおかしい?そうね、貴方みたいな人にはおかしいわよね」
男には目の前にいる女が月光に照らされた女神のように見えた。
女ってこんなに美しい生き物だったのか・・
男は雷の電流が体中を走り行く衝撃だった。澄んだ空気が汚れた心に流れ込んできた。
「俺、心から女を抱きたい思ったのは今日・今夜・今・君だ」
「あなた・・また怒らせたいの 本当に男の性がみえて吐きそうになるわ」
「あぁ~あ君が好きだって素直な気持ち、俺の心の叫びを正直に伝えたのにな」
「ブゥブゥーッ!あなたのその心の伝え方は間違っているわ 大間違いよ 残念でした」
二人は顔を見合わせ吹き出していた。佐知がおなかを抱えて笑うのは久しぶりだった。二人の散歩はここまで。その先の道は暗闇に覆われ行く末を阻んでいるかのようだった。
「今日は無理を言ってごめん、楽しかったよ ありがとう」
「こちらこそ さようなら」
男がタクシーを止めてくれた。窓越しに握手した手が離れるとタクシーは走り去った。男の手に一粒のキャンディーが握られていた。別れ際そっと渡された小さな塊はミントのキャンディーだった。飴玉を口に含むんだ男は一緒の時間がやけに恋しくなった。
まさか、俺あいつに惚れた
佐知は久しぶりの遅い帰宅に両親からきついお灸を据えられた。母が言った言葉が頭から離れなかった。
「もう学生じゃないからプラトニックの交際から大人のお付き合いになってもおかしくはないわ でも自分を見失うような交際は賛成できない、それだけは忘れないで 多くの男性と係わると女の体には異常がでるのよ、女と男は違うからね 本当に愛する人特定な人と自分を大切に出来る交際をしてね お母さんは佐知を信じているから」
看護士だった母は生理になった頃から女の体について話し聞かせてくれた。遅い帰宅を心配し起きて待っていた両親にごめんなさいと詫びながら佐知は布団にもぐりこんだ。
あれからお盆休みの佐知は墓参りや雑用やらに追われていた。
「そういえばあの時の彼まだいるのかな」
真砂子からの電話が入ったのはそれからすぐだった。
「私たち明日東京に戻るの 又連絡するから会おうね あぁ、それとあの日佐知を送っていった雅和を覚えている あいつ私のアルバムから佐知の写真を持っていったんだよ そう、あのピンボケの写真 佐知ひとりの写真がそれしかなくて でもそれがいいって離さないの 笑っちゃったわ」
受話器をおいた佐知は一抹の寂しさを隠し切れずにいた。
あの人も東京に戻ってしまうのか・・
囁いた佐知になんだかとっても寂しいねと心の声が返ってきた。
佐知が電話を切り西日差す部屋でひとり本を読んでいた時だった。カツン・カツンとガラス窓を突く音が繰り返し聞こえた。レースのカーテンの隙間から外を見るとそこに男の姿があった。意味もなく懐かしさが湧き上がり居てもたっても居られなくなった。
ダ・ダ・ダァーッ
佐知は地響きをたて階段を下りていた。気持ちばかりが焦って足が縺れスニーカーがうまく履けなかった。
「おかあさーん、コンビニに行って来るね」
自宅が見えなくなった頃、二人は体を寄せ歩いていた。
「真砂子が電話で言っていたわ あなたが写真を持っていったって」
「あいつ、おしゃべりだな」
「あの日の私を覚えていてくれて嬉しかった ありがとう」
この人といると素直になれる
ありがとうの言葉が素直に言えた
佐知はそんな自分に驚いていた。
「俺もありがとう 君に出会えて大切なものをきずかされた 東京に戻ったら気持ちを入れ替えて再出発しようと思っている でないと君に相手してもらえない気がするし君の言った嫌いな男にもなりたくないから 俺・・俺は君を守る強い男になりたいって思っている」
恥ずかしそうに笑う男の瞳に頬を赤く染めた佐知が映っていた。
「ありがとう」
男は佐知の体をひき寄せた。厚い胸元に頬を埋め相手の心臓の音に呼吸を合わせていた。
このまま一緒にいたい
出会った日、男が言った言葉がいま佐知の心の声になっていた。何かがいま始まろうとしていた。二人は今スタートラインに立ったばかり。擁きあう二人はスタートラインをいま踏み出そうとしていた。