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WAKARE  作者: 佳穏
縁は異なもの
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不思議な三角関係のはじまり

出張に出かけた美香の日程表には水~金愛知県直帰、出社報告月曜と書かれていた。



出張を終えた美香は土日の休日を利用してすぐさま名古屋に移動していた。コンビニでおにぎりを買って予約していたホテルに入った。コンビニ袋を華奢な楕円形のテーブルに置き美香はベッドに倒れこんでいた。



体がおかしい 自分の体じゃないみたい ここ数日食欲も湧かない 妊娠のせいじゃない何かが起きているのかも・・



何度も眠りから覚めた美香はベッドを離れ窓べに佇んだ。



佐知さんにまた会えるといいな



夜明け前の暗闇に浮かび上がる民家の明かりを見つめていた。



美香は昨夜から体調に一抹の不安はあったが佐知が勤務する病院に向かっていた。診察時間にはまだ20分もあるというのにすでに賑わう待合室。美香は隅のイスに隠れるように座り受付を見続けた。食い入るように見つめる先にお目当ての佐知の姿はなかった。診察が始まると人は益々溢れんばかりに膨れ上がっていた。立ったまま診察を待つ人の多さに美香は席を立たざる得なかった。そのとき男の子の大きな声が聞こえた。



「さっちゃ~ん、はい僕の診察券」



「喉はもう大丈夫みたいね」



「うんもう痛くないよ」



受付で男の子と会話しているのは間違いなく佐知だった。



入院先のエレベーターでぶつかったあの人 間違いない 私やっぱりあの人のこと嫌いじゃないかも



佐知を見つめる美香の顔に笑顔がこぼれた。頃合を見計らってまた出直そうと美香は病院を出た。



時間を持て余す美香は見知らぬ町並みを彷徨っていた。どれくらい歩いたのだろう。遠方に神殿のような建造物が見えた。寺院は地元では三大観音の一つと言われていた。信仰深いわけではないが美香は何故か手を合わせたい気持ちになった。不調の体と気弱になった心が救いを求めていた。お参りを済ませた美香は参道に通じる商店街に迷い込んでいた。そこは一度だけ行ったことがある東京の浅草の雰囲気と似ていた。ふと見上げたアートのようなアーケードの屋根に足を止め見入っていた。一画ごとにその絵柄も様式もがらりと変わり訪れる人を楽しくさせた。



美香は前方から歩いてくる女性に釘付けになった。大きな袋を抱え颯爽と闊歩するその女性は雅和が話してくれたある人にそっくりだった、足を止めた雑貨店で買い物客を装いながらその人が過ぎるのを待った。美香は自分の直感を信じ探偵のように後をつけた。十字路を二つ越してすぐのところで姿が忽然と消えた。付近を見渡したが見失った姿を探す術もなく途方にくれていた。カラカラと音のするほうに目をやると看板が風に揺れていた。



あの人はやっぱり雅和が話していた「SIGNPOST」のママ、



雅和が佐知さんと愛を育んだお店がここなのね 恋人だった二人が時間を共有したお店、そして再び二人が再会し語り合ったお店 ここがSIGNPOST



美香は意を決してドアを開けた。



店内はステンドグラスのランプが方々に配され昭和の時代を思わせた。椅子も母が愛用していた年代ものと似ていて懐かしかった。辺りを見渡す美香にママが声をかけた。



「いらっしゃいませ はじめての方はみんなあなたと同じ呆然と立ちすくむの このお店にはじめての人はこないからあなたも誰かの紹介かしら」



「はい、お店まだ開店前でしたか」



「この時間はいつも閑古鳥こんな状態なの 常連さんはもう少し後にやってくるのよ あっごめんなさい、座って頂戴カウンターでいいかしら」



「はい」



「このお店分かりにくいし入りづらいでしょ でも長いことやってるから常連さんだけで十分成り立ってるのよ あなたは久しぶりの新客なの あなたなんだかさっきから落ちつかない様子ね 遠慮しないでいやなら出て行っても構わないのよ」



「いいえ私このお店気に入りました」



「そんな気遣いここではノウサンキューよ あっごめんなさいね、ご注文まだでしたね」



「コーヒーをお願いします」



カウンターの壁一面に貼られた写真に気がついた美香はママに尋ねた。



「後ろに張られた写真はすべてお客さんですか」



「ああこれ、そうよすごい枚数でしょう でも私が好きになれない客はカメラには収めないわ 見境なく誰でもってわけじゃないのよ ここ張られるのは私に選ばれし人たちなの」



「・・・・・」



「ちょっと面倒くさいママかもなんて思ったでしょ」



「いいえそんなこと・・」



「はい珈琲どうぞ、ゆっくりしていってね」



ママは黙々と果物や野菜を切る作業を始めていた。手帳を捲る美香に仕込みを終えたママが声をかけた。



「さっき誰かにこのお店を聞いたって言ったけどその人はあなたの恋人なんじゃないそうでしょ」



「えっ・・・・・」



「私のこと気味悪がっているみたいね」



「・・・」



「私ねこれでも知る人ぞ知る霊能者占い師なのよ 常連さんしか知らない秘密だけど今日は特別よ」



「霊能者ですか・・」



「怖がらないで聞いてね 私ね好きになった客だと見えてしまうの、いやでも色んなことが分かってしまう、だからあなたのことも見えた、見えてしまったの」



美香は身震いしながらママの顔を凝視していた。



「あなたの彼は真剣にあなたを思っているようね だから心配は無用よ いらぬ心配で神経使うのはおやめなさい あなたが心配しなければならないのはごめんなさい はっきり言わせてもらうわね あなたは自分の体を大切にしないとだめ 命がひとつの命・小さな命が見えるわ あなたもしかして妊娠しているの?」



「初対面なのに・・そんなことまで」



「不思議でしょ自分でも恐ろしくなるわ でもこの力が人の役にたったりするから捨てたものじゃないのよ」



「人を救えるなんてすてきですね」



「そう言ってもらえて嬉しいわ 初めての客に胡散臭い店の偏屈ママなんて思われるのいやだもの」



「そんなことわたし思っていません 本当に少しも思っていません、ママは飾らない性格で明るくてファンになりました」



「初めて笑顔を見せたわね ねぇもうひとつだけいいかしら 言いにくいんだけどあなた病院に行きなさい それも早急に何も聞かず病院で一度しっかり体を診て貰いなさい 特に上半身・首より上が気になるわ」



「・・・・・」



「怖がらせてしまってごめんなさい 透視するのはもうおしまいにしましょう 気を悪くしたら許してね」



「いいえありがとうございました」



美香は体調のすぐれない自分の体のことをもっと聞きたかった。



私の体は病気に蝕まれているのですか

美香は口からでかかったその言葉をコップの水と一緒に飲み干していた。



「ママ~ おはよう」



ドアが開き常連らしき賑やかな客が団体で入ってきて店は賑わいを見せ始めた。





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