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WAKARE  作者: 佳穏
父 柳木沢の日記
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忘れられない人4

雅和は父柳木沢の日記に書かれた真相を確かめずにはいられなかった。雅和が頼りきっているてっちゃん(手塚)は事務所の重鎮で父とは大学からの親友だった。父が司法書士をとったのは司法書士だったてっちゃんの後押しもあったからだった。父同様に由里子をゆりちゃんと呼んで親しくしていたのがてっちゃんだった。雅和はこのてっちゃんに由里子の調査を頼んでいた。



「てっちゃん、なにか分った」



「ああ、雅和も知っての通りゆりちゃんは柳木沢の学生時代の恋人で三重県出身。大学卒業後も三重には帰らず柳木沢と愛を育んでいた 思えばあの時二人の愛は最高潮に達していたよ あのまま付き合っていたら二人は結婚していただろうな 父親が亡くなった知らせを聞いたゆりちゃんは実家に帰った そのままゆりちゃんは戻らず二人は疎遠になった 小学校の教師になったゆりちゃんが同じ教職の人と結婚したことを風の便りで聞かされた あの時の柳木沢は肩を落としてそれはもう見ていられなかったよ 友人達には幸せそうな親子写真が貼られた年賀状が来たそうだ でもその幸せも長くは続かなかった・・

ゆりちゃんは子供を残し突然旅立った 神も仏もないってこう言う時に使うのだろうな」



「死んだ・・由里子さんが」



「旦那さんと一緒に帰宅途中の交通事故だったらしい 信号無視の車に衝突されて二人とも即死だったそうだ」



「それで子供は」



「当時の年齢は定かでないが女の子が一人残された ゆりちゃんの母親はとうに亡くなっていて弟妹の消息はわからずじまい、御主人の親族は引き取り拒否で結局その子は施設に入った。現在その子は養子先で幸せに暮らしている」



「その子供の名前は」



「あぁ名前はさち、ゆりちゃんは堺由里子だから堺さち いや結婚して石坂になったのだから石坂さちか」



「でも養子に出されたってことは今は石坂じゃないないよね」



「そうそう今は皆井姓だから皆井さちだ」



雅和がかつて愛した女性、皆井佐知と同姓同名だった。


まさか彼女が・・


そんな小説みたいな話があるわけないよな


あり得ないと思いながらも雅和の顔はどんどん蒼白になっていた。



「てっちゃん、親父はどこまで知っていたのかな」



「柳木沢は別れたゆりちゃんのことは話したがらなかった だから俺にもわからない まてよ、ゆりちゃんの子供の事を気にしていた時期があったな そう言えば亡くなるすこし前、病室で柳木沢が言っていたな 由里子の子供のこと何か知っているかって」



「親父がそんなことを・・てっちゃん親父は郷里に戻った由里子さんと別れてその後一度も会わなかったのかな」



「いや一度だけ柳木沢が京都出張の時に確かに二人は会っている 柳木沢がゆりちゃんを呼び出したそうだ 二人は由里ちゃんの住んでいる三重で再会した 余ほど嬉しかったのだろうな柳木沢自らが話してくれたよ」



「二人は再会していたのか」



「二人は別れたといっても愛し合った男と女だ 男女の関係は一つ間違えば理性を失わせる 人生の歯車さえ狂わせてしまう事だって有り得るからな 雅和、お前は覚えていないだろうな、むかし柳木沢が美紗子さんを泣かせたときに言った言葉 パパはママを好きじゃないのか、どうしてママにやさしくしないのかって涙をいっぱい溜めお前は小さい体で柳木沢の体を叩いていたよ 柳木沢が家を出る原因の一つはゆりちゃんの非命だ そしてお前の言葉が柳木沢の背を押したんだよ 

[手塚、僕は由里子を亡くしてから夜毎咽び泣き悲しみに暮れている 僕は何も知らぬ美紗子と雅和の笑顔に答えてやれそうにない 苦しい苦しくてたまらないよ 僕は結婚すべきではなかったのだ〕柳木沢はそう言って家を出た 悩んだ末の別居だった このくらいでもういいだろ以上だ」



「てっちゃん、ありがとう 今月の給料すこし色つけておくよ」



「そんな事しなくていい 今はどこも大変なご時勢だ 現状は厳しいが頑張っていこうな雅和」



「てっちゃん、これからもご指導宜しくお願いします」



「ビシビシいくから覚悟しとけよ」



てっちゃんが帰宅した後も雅和はひとり事務所に残っていた。



「親父、おやじは死んでなおどうして俺を苦しめるんだ 今になってなぜ佐知の名前が、なぜ何故なんだ親父」



雅和は壁に掛けられた父・柳木沢の肖像画を険しい顔で凝視していた。



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