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WAKARE  作者: 佳穏
終りのあとの始まり
184/192

心の赴くままに15

「泉さんに俺誓うよ、泉さんの願いを俺が成就させる 今後も進展のない俺と佐知の関係にヤキモキするだろうけど見守っていて下さい」



「はい、これからは雅和さんを信じ見守ることにいたしましょう 突き進むだけが人生ではございませんものね わたくしにも歩みを忘れ立ち往生したそんな日々がございました それでも不思議なもので人は前へと再び歩みを進めるものでございます そんな繰り返しでわたくしは今日まで生き延びてきた様な気がいたします」



「そうですね 私も泉さんと同じ気持ちです 行きつ戻りつしながら最良な道を探り私たちは生きているのかもしれませんね」



「先を急ぐ人生も選択のひとつでしょうけれど立ち止まりひと休みして振り返る人生も味わい深いものではないでしょうか 人の数だけ人生があり各々が歩まれる人生はこの世にたった一つのものでございますからねぇ」



「そうだな この世にはひとつとして同じ人生はないそう考えると感慨深いね」



「たった一人だけの自分を、たった一度しかない人生を生かさなければ生まれてきた甲斐がないではないか これは祖父の部屋に掛っていた額に書いてあった言葉 人生いかすも殺すも自分しだいなんですよね」



「その通りでございます ときに人生には決断を強いられる時が来るものでございます そのとき人は誰しもその岐路に立ち思案に暮れましょう しかしどの道を選ぼうとご自身が選んだ道は全て最良の人生に繋がっているのでございましょう わたくしはそのように信じて生きてきました 違う道を選んでいればなどと一切悔む必要などないのではないでしょうか」



「人生におけるすべての責任は誰でもない自分だけが担っているんだからね」




「最良の人生を手にするには失敗を恐れない事でございます たった一度の失敗のために一生を棒に振ってしまうか、もしくは失敗を発憤の起爆剤にするか どちらにせよ大切なのはその失敗を生かす道はないかと考える事なのではないでしょうか どんなに足掻いても過去を取り返す事など出来きはしないのですから失敗を成功の母とするしかないのでございます 人生においての最悪な失敗はその失敗を将来に役立てないことだと若い頃に目にした本に書いてございました 孰れにせよ失敗を恐れ嘆いていては命がいくつあっても足りませんものね 生きている限り失敗は避けられないものと開き直って生きるのが一番でございましょう 生きていれば悩みはつきませんが苦痛を伴わない人生を送った人のお話などわたくしは一度たりとも聞いたことはありません 万が一そんな方がいらしたとしてもわたくしはちっとも羨ましくはございません」



「苦悩のない人生だったらと思った時期もあったけどいっぱい悩んでもがき苦しんで男泣きしてそれがあったから今の俺が存在する そう思うと人生に無駄な出来事なんてないんだって思うよ」



「他の子にしたら親がいる家庭は当たり前でしょうけれど私には肉親家族がいない施設が唯一の家庭だった 親の愛や家族愛、家庭の温かさどれも絵本や本でしか知りえない私には無縁のものだったわ でも今の両親と出会ってそのすべてを体感できた感動は忘れられない 今も鮮明によみがえってくるの そんな人生が一変した夢のような日々は周りにしたら当たり前の日常なんでしょうけれど・・

私は家族にしてくれた皆井家の人たちの優しさと温もりのひとつひとつに感動し神様にありがとうございますって毎日手を合わせていたの 恵まれた幸せ溢れる環境だったら気づけなかった幸せを沢山知ったわ 天涯孤独の私に降って湧いた優しい家族と温かい家庭を手に入れた私は毎晩布団に入って一人になるとこんなに幸せになっていいの?夢じゃないよね消えて無くなったりしないよねって神様に何度も問いかけていた・・」



「佐知今日は泣くな 昨日いっぱい泣いて過去にさよならした そうだろ」



「大丈夫もう泣かないわ 雅和わたしね、幸せを一人占めしているようで・・恐い」



「佐知が流した涙の分だけ幸せもそこらじゅうに落ちて散らばっているんだ だから佐知は遠慮しないでぜんぶ掴み取ればいいんだ」



「そうでございますよ 佐知さんの幸せはこれからも沢山ございましょうからいっぱい掴んで宜しいのですよ」



優しく微笑む泉と雅和に佐知は悪戯を注意された子供のように肩をすくめ笑みを返した。



「やっぱり佐知は笑顔が一番だね」



「雅和さん、佐知さんの笑顔が一番だねではなくて笑顔の佐知さんがいちばん好きと仰りたいのでございましょう」



「泉さんわたしわかってるからいいのよ 雅和のことは何でもわかるの だからいいの」



「雅和さんをこんなに理解していらっしゃる佐知さんにならわたくしがたすきをお渡しする日も、ちこうございましょうね」



「それは受け取れないわ 泉さんにはまだまだ現役でいてもらわないと」



「そうだよ 万が一家族がふえたら佐知ひとりじゃ切り盛りできないよ」



「もしやお二人はもうお子さまの誕生も考えていらっしゃる・・ まぁまぁそれでしたらわたくしはまだまだ夫の元へはまいれませんね これからも現役で限界まで頑張ろうと思いましたら身体中にパワーが漲ってまいりました」



「よかった いつもの泉さんに戻って」



「俺の子供は泉さんの孫も同然だから泉さんはお婆ちゃまって呼ばれるのかな 婆さん扱いは嫌だろうけど泉さん嬉しいよね」



「はい大変嬉しゅうございます 叶わぬ夢見ていた孫をこの手に抱けるなんて想像もしておりませんでしたから」



夫に先立たれ子供を授からなかった泉は孫の話に及ぶとたいそう喜び涙を見せた。佐知と雅和にとってこの家を仕切る泉は母親同然の掛け替えのない存在になっていた





あとがき

次回いよいよ最終章、のこり数話で最終回となります。最終回までお付き合い下さい ありがとうございました

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