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WAKARE  作者: 佳穏
終りのあとの始まり
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心の赴くままに13

「おはようございます 佐知さん御目覚めでございましたか もしや昨晩はお部屋に戻らずソファーでお休みになったのございますか」



「泉さんおはようございます わたし達いつの間にかここで眠ってしまったみたいです」



「昨夜はお二人遅くまでお話を」



「えぇ」



「それで雅和さんは佐知さんに肝心なお話をなされたのでしょうか」



「肝心な話?」



「佐知さんへの愛の告白と申しましょうか、佐知さんに抱いている雅和さんのお気持ちの事でございます」



「あぁ~まったく頭の上でピーチクパーチクやられたらうるさくて寝てられないよ」



「まぁいつから御目覚めで」



「泉さん、俺は俺なりに考えているって言ったはずだ だから俺達のことには口を挟まないでって頼んだよね」



「それは十分に承知いたしておりますよ しかしながらお二人にはたっぷりのお時間とお命がございましょうが、わたくしには・・ですから老婆心ながら懸念して申し上げているのでございます」  



「血気盛んな泉さんがそんな弱気になっちゃ困るよ」



「そうよ、泉さんにはずっと元気でいてもらわないと困るわ」



「泉さん、今の段階ではまだ断言できないんだけど・・まぁいいか

泉さんが願う夢は夢で終わらない、叶うかもしれないよ」



「本当に本当でございますか 佐知さん信じてもよろしいのでございますね」



「佐知、泉さんが信じてもいいのかって」



「泉さん私ねいつか泉さんが願っているその日が来るといいなって思っているの」



「佐知さんそれでその日とはいつでございましょう」



「御免なさい、それはまだ・・」



「泉さん早急すぎだよ 俺達はその日のためにちゃんと向き合っていこうって決めたんだ 泉さんの要望に応えられる日はまだまだ先になりそうだけど」



「泉さんごめんなさいもうしばらくこのままでいましょうこれが私達が話し合って出した結論なの 泉さんがそれでいいと言ってくれた心赴くまま互いの気持ちが熟すのを待つことにしたの」



「わたくしの喜びはつかの間でございました これでは一生お二人はこのままかもしれませんねぇ」



「泉さんそれも無きにしも有らずかも・・・だよね佐知」



「えぇ泉さんが言ったようにこのままかも」



「お二人して何を呑気にクスクスお笑いになっているのですか わたくしそれでは困ります 佐知さんには一刻も早くここでお暮しになって頂きとうございます」



「泉さんが言っていた困るってこの事だったのか」



「泉さん、私がここに帰ってくるまで雅和をびしびし鍛えてやって下さいね」



「佐知さんお任せください ぼんくら雅和さんを見違えるほどいい男にして佐知さんを驚かせて差し上げます」



「泉さん雅和をよろしくお願いします」  



「どうなることかと心配しておりましたが安心いたしました 雅和さんは男をあげなさいましたねぇ よくぞ佐知さんの心を射止めてくださいました わたくしは涙がちょんちょん、ちょん切れるほど嬉しゅうございますよ」



「ちょん切れって相変わらず泉さんらしい難解な表現力だね ともかく泉さんに感激してもらえて俺は恐悦至極でございます」



泉と雅和の会話に佐知は思わず声をあげて笑っていた。泉と雅和も釣られるように笑いだした。ベッドの秀和は大人たちの笑い声に玩具で遊んでいる時のように目を輝かせキャッキャッと手を叩きご嫌な様子を見せていた。


みんなしてただ笑っているだけなのに幸せな気持ちに満たされていた 今ある幸せが永遠であれと互いに愛する人を亡くした佐知と雅和は心の底から思った


小さな笑いが連鎖して膨らんだ大きな笑いの渦に佐知は何とも言いがたい幸せを感じていた。ここで生まれ出る感情はどれもこれも本物だった。愛に満ちた雅和と泉の前で素の自分でいられる心地よさに佐知は心の重石になっていたものすべてが取りはらわれていくような気がした。


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