心の赴くままに10
「私たちはずっと向き合ってきたわ」
「それはどうかな 美香さんと俺を支えてくれた君、西條先生と佐知の幸せを願った俺 俺たちは自分の感情なんて挟む余地もなかった そうだろ」
「私はあなたと別れてからずっと未練を断ち切れなかった でも美香さんとあなたの前ではそんな感情を一蹴してきたわ だって互いを思いやり愛し合っているあなたたちの間に割り入る余地なんて悲しいけれどこれっぽっちもなかったから 万が一に割り込んだとしてそれで幸せになれたと思う?私には無理出来っこないわ」
「なぁ佐知、お互い相手の幸せを願うそんな関係はそろそろ終わらせて自分の幸せも考慮した関係にしていけたらなって思うんだ 佐知の反応からするとそう思っているのは俺だけみたいだけど、それでもこれからは佐知がどう思おうと俺は心のまま君と向き合って行くそう決めたんだ」
「雅和に二人の関係をもう一度考えてくれって言われて私なりに考えたわ でも考えれば考えるほど訳が分からなくなって今の関係の何がいけないのって思ったわ 今さらずっと押さえつけてきた感情を掘り起こしてしまったらうまくいっているこの関係が崩れていくような気がして怖いの 私はもう大切なものを失くしたくない だからわたしは今まで通りこのままでいたい 駄目かな」
「俺だって大切なものを亡くすのは二度とごめんだよ だから佐知のその気持ちはわかるけど・・」
「ねぇ私たちが再会した時のこと覚えている 私は嬉しくて昔のあなたへの気持ちがいっぱい溢れてきたわ でも私と別れたあなたは愛する美香さんと私の知らない人生を歩んでいた それでも昔と同じ感情があなたにも残っていると信じ疑わなかった私はもう一度あなたとやり直したいって思ったの でもあなたに愛されている美香さんと親しくなればなるほどそれは私の独りよがりの幻想にすぎないってことを痛いほど知らされたわ いまの私にはあの出会いは元カレとの再会なんかじゃなくて新たな出会いだったような気がする そう考えるとあの夜ホテルで朝まで語り合っていたのも頷けるわ あの時の私たちにもし昔と同じ感情が残っていたなら間違いを犯していたかもしれない」
「もし過ちを犯していたら今の俺たちは存在しなかったんだろうな」
「えぇきっとそうね 私は再会しなければ良かったと後悔していたと思う 雅和だって同じだったはず だってあの時すでにあなたには美香さんという大切な人がいたんだもの」
「・・・・・」
「何もなかったけど私たちがホテルに泊まったこと美香さんには話さなかったのよね」
「話せなかったけど 美香さんは何もかも知っていたんじゃないかって思うんだ 俺の中に住み続ける佐知のこと、俺自身が気づけなかった君への断ち切れない気持ち・・すべて美香さんには見えていたんじゃないかな」
「そういえば美香さん私に貴女は今も雅和を愛しているわよねって聞いてきたことがあったわ」
「・・・・」
「あのとき私はまるで裁判に立たされたようだった 付き合っていたのは昔のことで私とあなたとの関係は終わっていることやあなたがいま愛しているのは美香さんだけと私は何度も何度も同じ事を繰り返し答えたわ 思えば美香さんにはあなたのことだけでなく私の心まで見えていたのかも・・
美香さんに嘘は通じない逃れられないと思った私はあの時洗いざらいあなたへの気持ちを美香さんにぶつけてしまったの」
「気持ち・・」
「これ以上は美香さんと私だけの秘密だから言えないけど・・」
「そうか、二人にそんなことあったなんて驚きだな」
「そんなやりとりがあったおかげで美香さんと私は急速に仲良しになれたのよ 美香さんは腹を割って話せる親友と呼べる人ができたってものすごく喜んでくれて私もお姉さんができたみたいでとっても嬉しかった」
「美香さんは佐知と同じ一人っ子だったから佐知のことは妹みたいに可愛かったんじゃないかな 今だから言うけど新旧恋人が仲良しっていうのは俺には結構きつかったけどね」
「話がそれちゃったけど元にもどしましょう」
「もうしばらくはこのままで、ここからだね」
「私達・・このままじゃいけないの」
「佐知がそうしたいなら俺もこのままでいいよ 佐知がさっき言った再会でなく新たな出会いというなら俺たちはもうその新たな出会いを歩いていることになる だったら佐知と俺の関係は俺たち二人次第で変わっていくってことだから」
「本当にそれでいいの」
「あぁ今度は俺が待つ番だ 佐知が俺と泉さんが住むこの家に帰ってくるのを気長に待つよ」
「雅和は待つ辛さを知らないから簡単に待つなんて言えるんだわ」
「佐知きみはつらくなるほど俺を待たせる訳がない 俺にはそれが分かるから言えるのかもな」
「いつからそんなうぬぼれ屋さんになったの」
「前に佐知が俺のことならは何でもわかるって言ったように俺も君のことが何でもわかるようになりたいと思っている」
「このまま少しずつ歩み寄っていけたら私たちの関係はどんなふうに変わっていくのかしら」
「もし、もしもなんだけど俺が昔みたいに佐知を抱きたいと言ったら佐知は俺に体を委ねられる」
「どうしてそんなこと聞くの・・」




