心の赴くままに9
俺は長い間なくしたものに執着しすぎてきたのかも知れないな」
「大切な人を失った喪失感とか、その大切な人への思いを執着といっているのならそれは仕方ないと思う その気持ち分かるわ」
「俺はこのまま生涯引きずって行くのかな」
「雅和が引きずっているのはすべて過去よね 私もそうだけど・・だけどね生きている私たちが大切にしなければならないのは過去なの?違うよね」
「俺だってそんなことは百も承知わかっているよ それでも俺は手放せず、ずっと過去と共に生きてきた 過去への執着が薄れる時が来ることを信じて今は機が熟すのを待つしかないのかな」
「ねぇ、こんな言葉聞いたことない 心変われば行動が変わる 行動変われば習慣が変わる 習慣変われば人格変わる 人格変われば運が変わるって」
「何かが変われば面白いほど人生は好転するってこと?だけど心、気持ちを変えるってそんなに簡単な事じゃないむずかしいよ」
「そうね、例えば忘れられない人を嫌いになれたらどんなに楽だろうって思ってもそう簡単に気持ちは変わってはくれないものね」
「心はコロコロ変わるからココロというんだなんて言った人がいたな」
「確かに流行や情報に惑わされるといった観点でいうならそれも当てはまるかもしれないけど、いま私たちが話しているのとはちょっと違うんじゃないかしら」
「そうだな」
「私ね中学生のころ祖父に佐知は幸せかって聞かれたことがあったの」
「それで佐知はなんて」
「私が孤児施設にいたの雅和も知ってるでしょ だからおじちゃんおばあちゃんお父さんお母さんに出会えたおかげで私は毎日幸せだよって答えたの そしたら祖父が目に涙を浮かべ私の手を優しく握りしめながら、佐知の幸せは誰かのおかげなんかじゃなく佐知自らで掴んだ幸せなんだよ 佐知が皆井家の家族になってくれておじいちゃんは嬉しいよって」
「優しいおじいちゃんだったんだな」
「両親の顔も知らない身寄りのない私は暗い子だった 孤児施設のみんながトランプしたりテレビをみて笑っている部屋の隅っこで一人本を読んでいるような子供だったのよ ある日大好きな先生からさっちゃんの夢は何か聞きたいなって言われの わたし夢なんて、一度も考えたことなかったから黙り込んでしまったの そしたら先生がさっちゃん自分の心に聞いてごらんなさい 自分が何を望んでどんなふうになりたいのか いつかきっとわかる答えがでるわって 施設でいつも一人でいる私にその先生はいろんなことを話してくれた 『さっちゃん見てて今に心と書くとね ほら念という字になるの 望みや願いを強く心に念じればそれを引き寄せることもできるって本に書いてあったのよ 夢は思い描いた瞬間から実現できると信じて邁進して行けば形を成してくれるのもしれないわね』って あっ私わかったかも これだわ そうよこれだったのよ」
「わかったって何が」
「あのね、心を変えてくれるのは夢、希望なのよ 私が明るく活発な子になれたのは先生が私の夢を聞いてくれたから・・こうなりたいって思う気持ちが私を変えてくれたんだわ」
「夢と希望か 昔のように熱く燃えたぎるものは確かになくなったな」
「だから私たちはその情熱を取り戻せばいいのよ」
「そういう事だったら俺は佐知にもう一度情熱を注いでみようかな」
「それは駄目、それで過去から逃れようなんて思っているなら間違っているわ」
「誤解しないでくれ 過去じゃなく俺は現実と向き合おうとしてるんだ 目の前にいる佐知、君に・・」




