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再編 WAKARE  作者: 佳穏
人生の機微
153/161

我が子と歩む未来9

「佐知がここを去る日が近づくにつれ俺は君との関係を改めて考えてみたんだ 昔のような愛を語る関係はすっかり姿を消したけれど一緒に暮らす日々でふと湧き上がるあの時と似た感情に戸惑う自分がいた 亡くした人をどんなに偲び思い焦がれても月日がその思いを少しずつ持ち去っていく・・愛する人を亡くしてから馬車馬のように働く以外何もすべがなかった俺に、最近笑うようになったねってみんなが嬉しそうに声かけてくれる 佐知きみがここに来てから俺はいい意味で変われたと思っているんだ」



「そう言えばいつだったか泉さんが雅和が笑ったって驚いていたわね 私も同じ、この家でいつも笑っていられたのは雅和あなたと一緒だったからだわ」



「思えば不思議だな、一人っ子だった俺と君は共通の兄の存在を知った」



「そう、私たちにはあなたのお父様・柳木沢さんと記憶にない私の実母の間に生まれた由和兄さんがいた その由和兄さんも私と雅和の大切な家族なのよね」



「両親、愛する人に去られた俺にいま家族と呼べる人がいるというのは嬉しいものだな 泉さん、佐知、秀和、そして由和兄さん」



「雅和がいつかまた美香さんのような人に巡り逢えたら楽しい家族をもっと増やして行けるわね」



「俺・・新しい出会いはもういいよ」



「そんなこと言っているから押しがきかないって言われるのよ」



「泉さんが言いたかったのはそういうことか」



「どうして雅和は出会いはもういいなんて言うの」



「俺は今この手にしている大切なものを守ってゆくことで精いっぱいなんだ 欲張りすぎてどっちも虻蜂取らずになるのはいやだからね」



「雅和が手にした大切なものに私は入っているの・・かな」



「それはどうかな」



「教えて勿体つけないで早く教えなさいよぉ~」



「それはよくよく考えたうえでアメリカから帰国した時に話すよ」



「そんなに長く待てない」



「なぁ佐知、こんど会う時まで俺たちの関係をどうすべきか、お互いもう一度よく考えてみないか」



「俺たちの関係って?私はこのままで何も問題ないと思うけど」



「そうなんだけど本当にこのままでいいのか、君にも真剣に考えてほしいんだ」



「良くわからないけどいいわ、雅和を思い出した時に考えるわ でもふたりの考えが食い違っていたら」



「互いに歩み寄って納得出来る答えに持っていくしかないだろう」



「歩み寄るとか納得とか、なんだか面倒くさいなぁ 今の関係で私は十分満足なのよ」



「俺たちは・・今の佐知は昔の佐知じゃない、そして俺も 成長した今の俺たちだからこそお互いにもう一度考えてみたいんだ」



「別れてからあなたへの思いを引きずり前に進めなかった私は秀行さんと出会い子供を授かった 雅和も最愛の美香さんに出逢った でも互いに出会えた大切な愛する人を亡くし誰より互いが分かる関係を育んできた その関係を繋がりを考えるって・・それは私たちが昔の関係に戻ることも含めてのことなの、ねぇそうなの」



「・・それは視野に入れてなかったけど それも考慮していいんじゃないかな」




「今更そんなこと・・雅和らしくない」



「俺達はしばらく会えなくなる 佐知との絆だっていつまでも続くか、先のことは分からないだろう だから離れ離れになっても俺たちの絆だけは確かなものだって確信したかったのかも・・」



「雅和と会えない一年もの間こんな事でぎくしゃくするの、わたしいや」



「俺達ぎくしゃくなんかしない 絶対そんなことにはならない 佐知は俺のことなら何でも分かるって言ったよね なら君が俺の気持ちの変化に気づかない訳がない わかっていたはず・・」



「もうやめて、私たちには互いに秀行さん美香さんという大切な人が・・忘れてはいけない人がいるのよ」



「生前西條先生は言ったんだ 僕がいなくなったら佐知と秀和の家族になってくれと」



「だから雅和は私に俺たちの関係を考えてほしいなんて言ったのね」



「いやそうじゃない 俺は本当に佐知のことが心配なんだ」



「やめましょう 雅和との絆を壊したくないわ もう遅いから休みます」



背を向けた佐知の肩越しに雅和が立っていた。



「佐知そのままで聞いてくれ 俺は泉さんと佐知、秀和との生活を生涯のものにしたくなった 俺が美香さんと明日香で築くはずだった温かい家庭、家族がそこにはあった 山ほどにあった明日香にしてやれなかった事を秀和にしてやりたいそう思った 俺は夢見たあの幸せをもう一度つかみたいと心から願うようになっていた むかし守ってやれなかった君を今度こそ俺は最後まで守りぬきたい・・最後の晩にいやな思いをさせて済まなかった お休み」



雅和をひとり残しリビングを去ろうとしていた佐知の足が止まった。気まずいままこの家を出てゆく事は本意ではなかった 失語症のように今の思いを口にできないもどかしさに佐知は思わず雅和の胸に飛び込んでいた。



「佐知・・」



「わたし・・ちゃんと考えて雅和と会う日を待っている約束する 一年間大変でしょうけど体に気を付けて無事に帰ってきて」



雅和に飛び込んだ胸のぬくもりは氷のごとく封印したはずの終わった愛を溶かし始めていた。体に残る雅和のかすかな香りが忘れていた慕情を呼び覚ました。この家を去る寂しさは一層つのり今宵の寂夜は耐えがたいものだった 人は一人では決して生きて行けないと言った先人の思いを深く感じながら佐知は眠りについた。



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