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WAKARE  作者: 佳穏
追憶
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男女の機微2

節分寒波も過ぎて少しずつ寒さも緩み始めていた。朝晩はまだまだ寒さが厳しかったが日差しに春の到来を感じながら佐知は雅和の連絡を待ち続けていた。その日は山のように積まれたカルテの整理に追われていた。



「すみませんがいま話せますか」



「少しお待ちください」



頭を上げると受付に立っていたのは雅和だった。



「いつ戻ったの」



「さっき着いたばかり 佐知の顔が見たくて駅から真っ直ぐここにきた」



「今日は残業なの 遅くなるけど」



「無理しないでいいよ 佐知の顔を見たかっただけだから 改めて時間つくってゆっくり会おう また電話するよ」



「分かった 電話待ってるね」



「じゃあな」



佐知はそれきりなんの音沙汰もない雅和のことばかり考えていた。おでこに出来た小さなニキビとにらめっこしていると電話が鳴った。待望の雅和からだった。 



「すべて解決したよ 詳しい事は会ったその時に話すから」



お気に入りの空色のシャツワンピースで約束の場所へ急いでいた。



「さち~」



道を挟んだ歩道に大きく手を振る雅和がいた。



だれかに似ている 確かこんな風に歩いてくる人どこかで見たような・・


それが誰なのかこの時の佐知はその正体をあぶり出す事が出来なかった。


行きかう車を避けながら雅和が駆けてきた。



「この前は仕事中ごめん」



「いいの、会いたかったからうれしかったわ」



「おれもスゴく会いたかった」



目と目を交わすだけで気持ちは通じ合えた。会話など必要なかった。


二人はホテルの一室で灼熱の肌を重ね合わせていた。佐知は雅和を追ってきたという元カノのことがまだ気にかかっていた。



この大きな胸の中に元カノも・・



過去の女たちの影を蹴散らすように雅和の体を激しく求め続けた。久しぶりの逢瀬に二人は触れ合う肌を離そうとしなかった。



「雅和にお願いがあるんだけど」



「俺に出来ることなら」



「ならOKね 昔、付き合った人たちのこと聞かせて」



「過去のことはお互い知らないほうがいいよ」



「知りたいの 聞くのは今日が最後、だから教えて」



「気が乗らないけどそこまで言うなら話すよ 俺が付き合ってきた女は佐知とはまったくタイプが違う」



「違うってどんなふうに」



「どんなふうって聞かれても」



「今まで付き合った人の外見とかなら簡単でしょう」



「肉感的 そそられる色気がある 欲求を満たしてくれる年上 男なれして後腐れない うーん、こんな感じかな 納得した」



「そんなあなたと付き合った人たちみんな可哀想だわ 出会う前の雅和はやっぱり私が嫌いな男だったのね」



「ほらね こうなるから聞かない方がいいって言ったんだ 昔の俺は愛ある付き合いなんてしてこなかった最低男だよ」



「違う最低なのは私よね 意地悪なこと聞いてごめんなさい もう昔の事は聞かないわ」



「その話は忘れて 俺の話し聞きたくない」



「うん 聞きたい」



「しばらく会えなかったのは憔悴した母の事が心配で目が離せなかったからなんだ」



「肉親だもの心配よね」



「病気じゃないから大丈夫なんだけど色々あって心が折れてしまったんだと思う」



「だったらお母さんの側にいてあげないと 急いで帰って」



「いいんだ 原因を排除して解決したから」



「よくわからないけど上手くいったってことなの」



「すべての原因は親父なんだ」 



「排除って、まさかお父さんを排除した、そんな事してないわよね」


「俺は親父を・・ともかくあいつ出ていったから問題は解決した」



「あいつなんて言いかた止めて 雅和のお父さんでしょ」



「いいんだよあいつで あいつは母さんを殴ったんだ。口で負かされ分が悪くなるとすぐ感情をむき出し威圧する あいつはいつもそうだった」



「どんな理由があっても女に手をあげるのだけは許せないわ」



「君もそう思うだろう」



「雅和はお母さんを苦しめるお父さんが許せなかったのね」



「あいつは母さんの事なんかどうでもいいんだよ 母さんの目の色 好きな色 好きな曲 ほくろ 癖、何十年も夫婦だったのにあいつは母さんのこと何ひとつ知らない 知ろうとしなかった それじゃ悲しすぎるだろ 母さんはそれが一番悲しいんだ 親父の一方的な、してやってる感の愛、うまく言えないけどそういう愛じゃない愛がほしいんだと思う 母さんはその愛をずっと待っていたんだ」



「・・・・」



「大学もあと少しで卒業だし 母さんは俺が支え守る 母さんをいたぶるあいつは不要廃棄物、だから排除したんだ」



「お父さんがそんなに憎い?許してあげられない?お父さんと家族でもう一度話せないの」



「もう終わったんだよ 気に入らないと手を出すような男とは話し合う価値もないんだ 親父の言う権力やお金それが何だって言うんだ 人として駄目な奴はただのクズ人間だ 最悪最低なな親父は人間失格なんだ」



「もうやめましょう お父さんをそんな風に言う雅和を私は見たくないわ」 



「ごめん親父の話になると俺はいつもこうなるんだ 母さんにも佐知と同じこと言われたよ」



「だけどご両親は本当にこのままでいいのかな」



「母さんはあんな親父でもまだ夫婦でいたいんだよ 俺が母さんを助けるから別れてしまえって言っても絶対首を縦にはしない 母さんの親父に対する気持ちは俺とは違うって分かってたんだ 親父をずっと愛しているんだってね あんな親父でも今も気持ちは変わっていない 今も愛しているんだ ひどい目に何度もあわされているのに何で今も愛せるのか俺には分からない 夫婦って複雑すぎるよ」



「夫婦の世界は私達にはまだ分からないけど夫婦の事は当事者の二人以外には到底理解できないんじゃないかな だから雅和はそっと見守るしかないんじゃない 夫婦が下した結果を受け入れるしかないわ 始まりの後には終わりがあるようにそれがどんな終わりになろうとそれを決めるのは雅和じゃなくお父さんとお母さん そう思わない」



「佐知のいうとおりだな 母さんの人生は母さんのものだ 母さんは俺の母さんだけど人生は俺のものじゃない」



一人で支え守ってきた母を思う雅和の苦悩に胸が痛んだ。佐知は雅和を抱きしめた。



「俺、佐知と出会って自分が変わっていくのがわかるんだ 君に出会えて本当に良かった 君が大好きだ 愛おしくてたまらないんだ」



「わたしもよ」



燃えたぎる熱情にかられ互いを狂おしいまでに求めあった。



翌日雅和は東京へ帰って行った。



「佐知ありがとう また会おうな」



「うん、また会えるのを楽しみに待ってるわ」



佐知の笑顔がみるみる泣きべそ顔になっていた。遠ざかる電車を見つめそっとつぶやいた。



早く帰ってきて

また優しくいっぱい抱きしめて・・・


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