愛は陽炎3
「誤解しないで欲しい僕は君にやましい事は何一つない 本当だ信じてほしい 僕は誰の手も借りず一人で生きて行くと明るく振舞う彼女の姿が偽物のような気がしてたまらなかった 医師としてこのままなら彼女は身体どころか精神さえもやられてしまうと思った 佐知さん、すまないが僕のプロポーズを一度撤回させて欲しい 落ち着いたらあらためて君にプロポーズする、それまで僕を信じ待ってほしい」
「彼女のことが心配なんですね わかりました 信じて待っています 秀行さんは彼女の力になってあげて下さい」
「わかってもらえて良かった 佐知さん本当にごめん」
もう少し一緒に居たいという秀行をひとり部屋に残し佐知は病院を出た。
二人は三日間ずっと一緒だった・・・
ひとつ屋根の下でどんな会話をして どんなふうに過ごしていたのだろう 雅和が事故で重傷を負い明日香ちゃんが亡くなったとき秀行さんは優しく私に寄り添ってくれた・・
あの時の私と同じように秀行さんは彼女を
襲いくる不安を消し去ろうと佐知は頭を左右に振り続けた。結婚は先延ばしになったが秀行を信じる佐知の気持ちは何ひとつも変わらなかった。
秀行は事故で心身総弱になった彼女のために時間を費やすようになっていた。
「秀行さん今度のお休み時間とれますか 来月父の誕生日だから一緒にシャツを見立ててほしいの」
「今週は彼女のリハビリにつきあう約束してるから来週でもいいかな」
「秀行さん・・質問してもいいですか」
「え質問・・なにかな」
「秀行さんはいつまで彼女を・・私はあとどのくらい待てばいいの」
「前に待つ身の辛さは佐知さんが一番知っていると話してくれたよね 僕はそのつらい思いを君にさせているんだよね 本当にすまないと思っている」
「そのつらさも愛だと秀行さんは言いました そして私にはそんな思いはさせないって言ってくれました」
「僕を信じて待ってくれ、それが僕の答えだ いまはそれしか・・佐知さんの気持ちは痛いほどわかっているのに・・本当にごめん」
佐知は詫びる秀行に抱きつき唇を重ね合わせた。むさぼるように舌を絡め狂おしいまでに秀行の体にしがみついていた。
あれ以来、秀行は佐知の前で彼女の話を一切しなくなり以前のように佐知だけのために休日の時間を費やしていた。休日は佐知の気持ちを優先し彼女に会いに行けなくなった秀行は出張を利用して彼女と合うようになっていた。これまで佐知に包み隠さず何でも話してきた秀行は何か悪いことでもしているような後ろめたさを感じ始めていた。佐知と接する態度にもその思いが反映してかどこかぎくしゃくしだしていた。そんな秀行の変化に佐知は気づいていたがその訳をあえて問うことはしなかった。佐知宛ての差出人の名前がない手紙が病院に送られてきたのはそんな時だった。