時を止めて2
ある日を境に二人の逢瀬はピタリと途絶えた。佐知は会えない日々に口を尖らせ爪を弾く毎日を送っていた。
思い起こせば二人でクリスマスを過ごした後、何度か会っていたのだが・・
最後に会ったあの日、雅和の携帯に何度もメールが入ってきていた。そしてごめんと言って佐知を一人残し帰って行った。佐知はあの日の雅和を思い出していた。
「ごめん 本当にごめん 今度たっぷり埋め合わせするから今日はごめん」
作り笑いとわかる雅和の目に笑みはなかった。
あの時の電話 メールは・・
いったい何があったの?
あの日の雅和の只ならぬ様子を思い出すと電話をする気にはなれなかった。今日もまた手にした携帯をテーブルに置いた。気分を紛らそうと吐く息が部屋の空気をいっそう重くしていた。
佐知は気分を変えようとひとり冬の町へ出かけた。夕刻の町は久しぶりだった。顔を突き刺す風は元気をなくした心と体には堪えた。気がつくとクリスマスを過ごしたホテルへと足が向かっていた。ホテルの喫茶ラウンジに入り読みかけの本をとろうとバッグに手を伸ばしたときだった。
「あっははは」
聞き覚えのある豪快な笑い声に佐知は思わず辺りを見渡した。
柳木沢さんだ・・
数人の男たちと談笑している柳木沢がそこにいた。佐知の青白かった顔に赤みが射し始めていた。後ろ髪ひかれながらも読みかけの本に目を移した。同じ空気を共有している只それだけの事なのに嬉しかった。本に夢中になっていた佐知は柳木沢の存在を忘れかけていた。
「皆井くん、皆井君じゃないか」
コーヒーカップを手にして立っていたのは柳木沢だった。呆然と柳木沢を見つめていた佐知は柳木沢のカップを指で弾く音に我に返った。柳木沢は挙げた右手を出口に振ってみせた。なにかの合図なのか出口で待っていた男達は姿を消した。
「少し、いいかな」
「はい一人ですから 柳木沢さんはこのホテルによくいらっしゃるのですか」
「ああ、僕にとってここは曰くありのホテルだからね」
「お体は大丈夫ですか 少しお痩せになったような」
「鋭いんだな 君には隠し事は通用しないようだ」
「何か隠しているのですね」
「あっ、いや何もない 君の勘ぐりすぎだ」
「ならいいのですが あれからご家族とどんな生活をなさっているかと心配で」
「僕を心配していた君が それが本心なら嬉しいね」
「私は真面目にお話しているのですよ 柳木沢さんあの時嬉しい顔を一度もなさらなかった どちらかと言えばお辛そうでした だからご家族とどしているのだろうと」
「君は何でも知りたがるようだがひとつ忠告しておく、あまり人の心に立ち入るのは止めることだ 僕と話す時はこの事を覚えておきなさい」
佐知は柳木沢の身に何か起きたのだと確信した。




