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WAKARE  作者: 佳穏
哀しみの連鎖
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大切なもの22

雅和の安否を気遣う車中の佐知は無言だった。落胆の色を隠せない佐知に秀行が優しく手を差し出してきた。



「さぁ僕の手を強く握って、少しは落ち着くと思うから」



手を握り秀行の肩越しに佐知は体をあずた。



「秀行さん、暫らくこうして居てもいいですか」



「ああ目を閉じて休んだほうがいい」



静岡の県境に差し掛かった秀行は時計を気にしていた。サービスエリアで休憩を取った二人は今晩泊まるホテルを探していた。7件目でやっと空きを見付けたホテルはシングルが満室でツインの部屋一室だけが残っていた。



「今夜はここで休んで明朝早めに出よう」



「秀行さんが一緒でよかったです 有難うございました。今日は急患が入って緊急手術があっていつも以上にお疲れなのに本当にありがとうございました」



「僕のことより僕は君の事が心配なんだ とにかく今日は早く休もう 明日はハードスケジュールになりそうだからね」



「あっ私、病院のコピー送ってもらったのに家に忘れてきたみたいです」



「あの病院なら医大仲間が何人か勤務しているから大丈夫、明日確認とってみるよ」



シャワーを済ませ二人はベッドに体を休めた。灯りの落ちた部屋で佐知は隣のベッドの秀行を見つめていた。



「秀行さん、もうお休みですか」



「佐知さんは眠れないようだね」



「秀行さんの・・ベッドに・・行ってもいいですか あっごめんなさい そういうことじゃなくて・・」



「気にしないでわかっているから」



秀行は体を移動し掛け布団を開けて佐知を招きいれた。佐知は秀行の体に子供のようにしがみ付きこらえきれず震えながら嗚咽していた



「体が震えるほど佐知さんは彼のことが心配なんだね」



「わたし朝を迎えるのがこわいなんてこんな事はじめてなの、昨日までは明日が待ち遠しかったのに 今日は秀行さんが一緒でよかった 秀行さんのベッド暖かくて気持ちが落ちつきました」



「佐知さんが眠りに落ちるまでずっとこうしているからもう何も考えないで目を閉じてお休み」



「こんなときの温もりって凍えた心も溶かしてくれるのですね」



「君を癒すものが温もりだけじゃなく僕の愛も・・だといいんだけどな」



「そうですね、いま私を癒してくれているのは秀行さんの愛ですよね 秀行さん、わたし最近自分の気持に戸惑う事があるんです 彼と秀行さん二人のことを冷静に考えられなくて・・」



「冷静でいられる愛なんてこの世にあるのかな 愛はいつだってミステリアスでスリリングなものだろう 望む愛を手中にするまではサスペンスフルな展開の連続なのかもね 僕は平和なハッピーエンドが一番なんだけど」



「これまでもいろんなことがいっぱいあったけどやっとみんなが幸せになろうとしていた矢先井川君と明日香ちゃんがこんなことに わたしこれから先どんなことが待ち受けているのか恐くてたまらないの」



「どんなことがあろうと逃げずに立ち向かうしか、冷たく聞こえるだろうけどそれしかないんじゃないかな」



「これ迄もいろんなことが起きすぎて涙も枯れてしまうくらい泣いてきたのに・・神様は私たちに非情すぎる」



「そんな悲しい顔しないで、大丈夫、君には僕がいる僕が守るって約束しただろう」



「秀行さんありがとうもう一人で大丈夫です おやすみなさい」



ベッドを離れようとした佐知を秀行が制止した。



「佐知さん今夜はここで一緒に眠ろう その方か眠れるだろう」



「でも狭くて秀行さん疲れているのにゆっくり休めないわ」



「構わないよ 僕と一緒のほうが眠りにつけるのなら、このままここで一緒に休もう」



秀行の優しさ包まれ安堵した佐知は秀行のベッドで眠りについた。



「佐知さん眠れそうかん・・もう夢の中か 今にも泣きそうな顔して眠っている君は夢の中でも彼のこと・・ きみは心底愛しているんだね・・彼を」



寝顔を見つめる秀行にはどうしても解せないものがあった。それは井川という男と佐知の別れた後も続く関係だった。秀行は隣で眠る佐知との将来を真剣に見据え始めていた。




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