カレー 大ブームに その他
【大ブームその1 カレーライス】
海外貿易品の値段が下がることで一大ブームをおこしたのが、カレーだ。
王国での香辛料の多くは貿易品である。
遠くより運んでくるために非常に高価であった。
胡椒など、黄金なみと言われたほどだ。
一般庶民が手にすることは難しく、貴族や富裕層のみが使用できる贅沢品だった。
その香辛料が一般庶民にも手の届く価格になった。
そこで俺が開発を進めたのがカレーである。
カレー粉には何種類も香辛料を混ぜることになる。
が、主要な香辛料は次の4種類である。
◎ターメリック
ウコンとも言われる。
鮮やかな黄色が特徴的な根茎。
消化や肝機能の促進、抗アレルギー作用や
殺菌作用がある。
カレーの色付けの主役でもある。
◎クミン
カレーの香りの中心はこれ。
独特の芳香があり、スパイシーな香り。
整腸効果や風邪の予防、利尿効果がある。
カレーの風味づけに欠かせない。
◎コリアンダー
パクチー。
乾燥させた種子はかんきつ類のような香り。
整腸や消化促進、デトックス効果。
カレーの香りを爽やかにまとめる役割。
◎唐辛子
カレーの辛さを決めるのはこのスパイス。
辛味成分のカプサイシンには
新陳代謝を上げる効果がある。
カレー粉を調合したのは、ジャイニーである。
俺は材料を用意しただけ。
あとはジャイニーの舌にまかせた。
ジャイニーはシェフスキルがどんどん向上している。
師匠であるゲレオンもお墨付きをあたえているぐらいだ。
米は輸入である。
いわゆる長粒米になる。
熱帯でしか育たず、王国では生産が難しい。
パラパラとした食感が特徴で、カレーとの相性は抜群だ。
「おおお、この味だよ、ジャイニー!」
「なんだよ、前に食べたことのあるような口ぶりだな」
「女神様が俺に知識を授けたのさ」
「ふーん。坊っちゃんにはかなわんな。でも、いい味だろ? オレとしても会心の出来だぜ」
「ああ。最上級の味だな!」
決め手はカレー粉の複雑な香りということになるが、それだけじゃない。
出汁がすごすぎるんだ。
いわゆる欧風カレー。
デミグラスソースをベースにしているため、味に深みがある。
牛や豚の骨、野菜をじっくり煮込んで作った出汁はカレーの味を何倍にも引き立てる。
「ジャイニー、最初は香りに違和感を感じましたが、慣れたらスプーンが止まりません」
「へへへ、スキニー。なかなかやるだろ」
さっそく、父ちゃんズ、兵士、館の人、教会関係、次々と食べてもらった。
違和感を持った人が多いが、それでも慣れるとスキニー同様に虜になる人が続出した。
特に香辛料の健康効果を説明すると、興味を示す人が多かった。
「香りもそうだが、問題は辛さだな。もう少し辛味を落としたのもほしいな」
「この辛さがいいんだが……仕方がない。子ども舌のために、マイルドバージョンも作るぜ!」
最終的にマイルド・スタンダード・ホットの3種類で辛さを選べるようにした。
マイルドは子供や辛いものが苦手な人向け。
スタンダードは一般向けの程よい辛さ。
ホットは辛い物好きのための特別版だ。
これで女神教会門前街にカレー専門店をオープン。
当初は客足が伸びなかった。
が、健康効果を宣伝にいれるようにしたこともあり、ゆっくりと確実にファンを作り始めた。
数ヶ月もすると、昼飯時に行列ができるようになった。
何しろ、少し前までは香辛料は超高級品だった。
その香辛料がふんだんに使われ、ベースはデミグラスソース。
非常に手間暇のかかった高級食だ。
それが手の届く価格で提供される。
一般庶民でも贅沢な味を楽しめるようになったのだ。
【大ブームその2 無人島を砂糖畑に】
熱帯地方の産品を開拓する。
欲しいものが山程ある。
その一つが砂糖だ。
サトウキビは温暖な土地で雨季と乾季のある気候が最適とされている。
王国では南の方でも栽培に適しているとは言い難い。
しかし、もっと南に行けばいくらでも最適地は見つかる。
そこで、いくつか無人島にサトウキビを栽培してみた。
気候さえあえば、さほど難しい植物ではない。
栽培から収穫、製糖までの一貫した生産体制を整えた。
砂糖も転移魔法陣で直接王国に持ち込める。
輸送費がかからないから砂糖の価格が大幅に下落した。
これでスィーツの価格を大幅に下げることができる。
一般庶民でも甘いお菓子を楽しめるようになった。
あとは、カカオ。
これも原産地から直で王国に持ち込む。
チョコレートの原料となるカカオ豆は、熱帯雨林気候でしか育たない貴重な作物だ。
或いは南国産の果物。
マンゴーやパイナップル、バナナなど、王国では見たことのない珍しい果物を次々と導入。
スィーツのバリエーションがどんどん広がる。
パティシエたちは新しい素材との出会いに歓喜した。
【大ブームその3 自家製万能うま味調味料】
王国ではあまり魚を食べない。
だから、漁業はあまり活発ではない。
内陸部では特に魚料理は珍しい存在だった。
ただ、俺はうま味調味料がほしかった。
うま味調味料の材料候補としては、
■昆布:グルタミン酸
海藻の一種で、だしの基本。
うま味の代表格。
■かつお節:イノシン酸
または鰹節もどき
魚を燻製にして削ったもの。
深い旨味が特徴。
■ドライトマト:グアニル酸
または干しキノコ
乾燥させることで旨味が凝縮される。
野菜系の旨味を担当。
これらを集めて粉にする。
うま味調味料の出来上がりだ。
この調味料は簡単に料理を美味しくできるとして王国中で人気となった。
特に、肉料理との相性が抜群で、
料理人たちの間で重宝されるようになった。
以上の三品目が公爵家経済を大いに潤すことになる。
逆に、第1王妃家は経営基盤を大いに損なうことになった。
貿易の主導権が完全に公爵家に移ったのだ。




