表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/117

公爵令嬢を追放

【エレーナ視点】


 さて、学院を征した私。

 生徒も職員も私の思うまま。

 蠱惑スキルを使って、全員を私の意のままにしたのだ。

 誰一人として私に逆らう者はいない。

 私の言葉に従い、私の望むように動く。

 完璧な支配者となった。


 次は、王国の主要な王族や貴族、聖職者ね。

 入学式のときに主賓で来てた奴らには蠱惑を及ぼしてやった。

 王族の面々、貴族たち、そして高位聖職者たち。

 全員が私のスキルの虜となった。


 そして、前期の生徒対抗戦。

 学院の全生徒が魔法力を闘わせるイベント。

 予選を経た生徒の決勝トーナメントが6月と11月にある。

 学院の伝統行事で多数の観客を集める。

 王族やら貴族やらも続々と見に来る。

 見世物としても面白いし、将来のエリートだからね。

 リクルートも兼ねている。

 各家が優秀な人材を見出す機会でもある。


 観客である王国の指導者層。

 私はそこに蠱惑をかける。

 一人一人に、確実に、着実に。

 これからのことに文句が言われないように。

 つまり、第1王子とブランシュの婚約破棄。

 それを第1王子から実行させる。

 学院主催の舞踏会の真っ只中で。

 大勢の目の前で、公然と。


 王家と公爵家の取り決めた婚約。

 それを当人であるとはいえ一個人が破棄する。

 許されるはずがない。

 普通なら大問題となるはず。

 

 それに違和感を感じさせないようにする。

 破棄して当たり前とのコンセンサスを事前に植え込んでいく。

 少しずつ、着実に、確実に。


 これには王国の対立構造も織り込んである。

 王家は王族中心に王国を運営したい。

 中央集権的な統治を望んでいる。

 公爵家は貴族中心に王国を運営したい。

 分権的な統治体制を望んでいる。

 つまり、王族派と貴族派はいがみ合っている。

 それを解消させるために二人が婚約した。

 100%政略結婚のわけ。

 それを良く思わない人が王国には多い。

 純粋な恋愛結婚を望む声も根強い。


 それと公爵家と第1王妃の実家。

 両方とも王国では名うての商売人。

 特に、海外貿易で財をなしている。

 貿易品目も被っているのよね。

 珍しい食品。

 胡椒とか紅茶とかその他諸々。

 高級香辛料や希少な茶葉など。

 当然、第1王妃の実家としては王家と公爵家が接近するのは好ましくない。


 結構、単純な構図なのよ。

 それを私が蠱惑でコントロールする。

 ただ、じっくりと蠱惑をかけ続けるわけにはいかない。

 行事の最中にスキルを施すだけになる。

 流石の私でも蠱惑の強さは限定的になる。

 

 でも、私には確信がある。

 きっと上手くいくという。

 この手応えを感じたとき、私ははずしたことがない。

 今までの経験が、そう告げている。

 

 ◇


 ふふふ。

 私はやりきった。

 学院舞踏会で婚約破棄騒動。

 第1王子がブランシェに対して婚約破棄を宣言する。

 華やかな舞踏会の真っ最中に。


 それを誰もおかしいとは思われていない。

 その場にいた全員の敵意がブランシェに向かった。

 非難の目、蔑みの視線、嘲笑の声。

 

 いたたまれないブランシェは真っ青な顔をして退場したわ。

 涙を堪えながら、よろめきながら。

 わかってるわよ。

 王都にある公爵邸にかけこんで公爵に直訴するのよね。


 でも、公爵でさえもどうしようもなくなっている。

 公爵家包囲網ががっちり決まっている。

 王族、貴族、商人、全てが敵に回っている。

 公爵家存続のため、そしてブランシェのため、公爵は泣く泣く彼女を修道院に送り込むしかなくなる。

 それが唯一の選択肢。


 私は追撃するけど。

 修道院に逃げ込むルートはわかっている。

 待ち伏せ部隊を配置して。

 山道の途中、人目につかない場所で。

 はずしても、修道院にも人を配置した。

 確実にブランシェを始末する。

 きっちりととどめをさせておかないと。

 完全に消し去らないと。



 この女、本当にしつこい。

 ちょっとしたスキマを見つけて復活してくる。

 何度でも這い上がってくる。

 ほっとくと勝手に大聖女認定されるからね。

 聖女じゃない。

 その上の大聖女。

 500年間空席だった称号。

 それがブランシェに与えられる。

 それを阻止し、私が大聖女となって王国に君臨する。

 それがゲームの根幹なのよ。

 私こそが大聖女に相応しい。


 本当に嫌味な女。

 座学も魔法も剣も100%。

 全ての科目で満点。

 性格も真面目で温厚で思いやりがあって。

 誰に対しても優しく接する。

 ルックスも最高レベル。

 金髪碧眼の完璧な美貌。

 まあ、私には全然及ばないいけど。

 私の黒髪と瞳の輝きには敵わない。


 特に腹立つのは聖魔法の回復魔法。

 私にも発現しているこの魔法。

 聖女の称号を得るには最低限必要なこの魔法。

 誰でも使えるわけじゃない特別な力。


 習熟するのが大変。

 生真面目に訓練しなくちゃいけない。

 毎日毎日、地道な努力が必要。


 特に気色悪いのが、解剖。

 回復魔法の訓練って、日本の医者と同じ。

 人体の構造を知ることでより細密な魔法を行使できるってわけ。

 骨、筋肉、内臓、全てを理解しないといけない。

 

 その他にも努力の積み重ねで魔法の習熟度をあげる。

 ブランシェは幼少期から努力を積み重ねてきた。

 毎日欠かさず訓練を重ねてきた。

 学院入学時点で回復魔法は上級に達していたのだ。


 私?

 努力なんてまっぴらごめん。

 解剖なんてとんでもない。

 気持ち悪すぎる。

 吐き気がする。


 それに私には最短ルートが用意されている。

 いろいろなガジェットがあって、それを使えば私は一直線に上級魔法使い。

 努力なんて必要ない。

 私は特別な存在なのだから。


 まあ、何かの間違いで私は初級のままだけど。

 きっと不具合があるのよ。


 でも、この女は公爵令嬢のくせに死体を切り刻んでいたのよ。

 高貴な身分でありながら。

 信じられない。

 根本的にこの女は野蛮人ということ。

 私のような繊細な人にはとても真似できない。

 こんな野蛮人をのさばらせておくのはダメでしょ?

 社会の害悪以外の何物でもない。


 ゲームの強制力が働いているはずだから上手くいくとは思っていた。

 ただ、いろいろゲームの進行がおかしくなっている。

 想定外の展開が多すぎる。


 だから、ここは徹底的に慎重に確実にやる。

 上手くいっていないのは間違いなくあのシスターのせい。

 あれは転生者だ。

 私と同じように前世の記憶を持つ者。

 しかもこの世界をよく知っている。

 ゲームの展開を把握している。

 だから、私の先回りをしてどんどんとイベントを潰していっている。

 邪魔な存在。


 でも、さすがに学院には入学できないだろう。

 どうみてもおばさんだしね。

 年齢制限がある。

 介入はないと信じていた。


 そして、私はやりきった。

 今、眼の前でブランシェは会場を出ていくところだ。

 泣きながら!

 はは、ざまーみろ!

 あの優等生ヅラした顔が歪んでいる。

 化粧が涙で崩れている。


 思えば、辺境伯領でのスタンピード。

 辺境伯邸になぜかブランシェも登場した。

 手助けをさせてほしいと言って。

 治療魔法で負傷者を助けると言って。


 本当に承認欲求の強い女なんだわ。

 地方のそんな一事件に顔を出してポイントを稼ごうとする。

 浅ましい。

 辺境伯邸でみんなに囲まれて醜い笑顔を振りまく彼女。

 オゾケボロが立ったわ。

 吐き気を催す光景だった。


 入学式。

 彼女は首席合格をした。

 満点での合格。

 生徒代表として挨拶をした。

 全校生徒から感嘆のため息があがった。

 賞賛の声が響き渡った。

 

 本当なら私がそこにいるはずなのに。

 私が首席として称賛をあびるはずだったのに。

 確かに、私は解答欄を間違えたかもしれない。

 でも、そんなことは些末なこと。

 あの女こそ、邪な方法で首席を勝ち取ったに違いないわ。


 まあ、私は順位にこだわりはなかったけど。

 でも、あの女、きっと不正を働いている。


 彼女を追い落とすための蠱惑はなかなか大変だった。

 彼女への称賛が強かったから。

 みんなが彼女を慕っていた。

 でも、じっくりと彼女の評判を落としていった。

 一日一日、確実に。

 毎日のように私は蠱惑を振りまくことができる。

 強い牙城だった生徒たちの心境もやがては私に傾いていった。

 そして、逆ハの連中。

 完全に私の思うままになった。

 私の手駒として動いてくれる。


 全く、私の手際に惚れ惚れするわ。

 完璧な采配。

 あの憎たらしい御局連中。

 そうよ。

 日本で私が勤めていたあの会社のバカ女ども。

 私をいじめたあのハラスメント女たちにこの光景を見せてやりたい。

 私は称賛されるべき存在。

 軽々に扱っていいわけがない。

 あの女たちはこの光景を何度でも見て大反省すべきだわ。



 ところで、ルートに配置した部隊。

 ちゃんとあの女を処分してくれるわよね?

 まあ、失敗しても修道院にも人員を配置しているけど。

 私は完璧なのよ。

 抜かりなく準備している。

 最後の最後まで気を緩めないわ。

 完全な勝利を手に入れるまで。


 ふふふ。

 私の勝利は目前に迫っている。

 ブランシェは消え去り、私が大聖女となる。

 王国の頂点に立つのは私。

 誰もが私を崇拝する。

 誰もが私を称える。

 私こそが真の支配者。

 完璧な勝利者。


 あとは、あの女の死を確認するだけ。

 そう、もうすぐ連絡が入るはず。

 待ち伏せ部隊からの吉報を。

 ブランシェ抹殺の報告を。


 楽しみ。

 とても楽しみ。

 ああ、待ちきれない。

 早く知らせが欲しい。

 早く聞きたい。

 ブランシェの最期を。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ