エレーヌ王立高等学院入学、いきなり王子にかます
【エレーヌ視点】
ふふふ。
目論見通り、王立高等学院に入学した。
チョロかったわね。
実技テストは試験管に蠱惑を掛けて、簡単に合格点を取れた。
座学テストはあらかじめテスト用紙を盗んだ。
ジェレ子爵は盗賊家系だから、代々伝わる忍び込みの技術がある。
忍び込み用の魔道具も充実している。
夜陰に紛れて試験官室に侵入するのは朝飯前だった。
ただ、どうやら解答欄を間違えて記入したみたい。
解答を丸暗記していったんだけど、どこに解答すればいいか混乱した。
だって、そもそも問題の内容が理解できない。
問題数だって多すぎる。
違う解答欄を埋めても自分の誤りに気づけない。
だから、座学テストは満点は取れなかったのかも。
まあ、いいわ。
多少の混乱があったにせよ、学院には2位で合格できた。
順位にこだわってるわけじゃないし、目的は達成できたから。
さあて、長かったけどようやくCOFの本編突入よ。
ここから私は王国の大聖女にまで上り詰める。
その第一歩がこの学院で逆ハーレムを作ること。
対象者は全て選び抜かれた貴族の子息たち。
第一王子 フェルナンド・カールマン。
金髪碧眼の王族の誇りを持つ美少年。
宰相子息 ダリオ・ワイスマン。
銀髪紫眼の知的な雰囲気を纏う秀才。
騎士団長子息 アーサー・ランス。
茶髪茶眼の凛々しい剣術の天才。
真実教会大司教子息 デュドネ・ガブリエル。
黒髪金眼の神秘的な聖職者。
全員チョロすぎて、攻略するのが楽しみ。
例えば、第1王子。
彼は自分が残念王子だって知ってる。
学力も剣術も並以下、王族としての才能に恵まれなかった。
それがコンプレックスになっている。
そのうえ、フィアンセが完璧令嬢ブランシェ。
優等生で美人で魔法の才能も抜群。
そんな彼女と比べられて、煙たくてたまらないわけ。
だから、王子の前ではドジっ子作戦を採用。
最初の出会いは学院の中庭。
私は王子の前で盛大に転んでみせた。
それだけで簡単に釣れた。
自分よりダメそうな人を見つけて安心したのね。
すぐに、得意の甘い喋り方で最大限の蠱惑を仕掛けた。
「ごめんなさい。私、本当にドジでして…」
すぐに王子の瞳が丸く光って、顔を赤らめた。
かかったわ。完璧。
その後のフォローもばっちり。
徹底したぶりっ子戦術で攻める。
知識のないふりをして、王子に教えを請う。
天然のふりをして、失敗を可愛らしく見せる。
たいしたことがなくても盛大に褒めちぎる。
「王子様って本当に賢いんですね!」なんて。
すぐに甘えてお願いする。
「王子様、これ教えてください~」
ボディタッチを頻繁にする。
腕に触れたり、肩にもたれかかったり。
そのうえで蠱惑スキルを全開。
王子は完全に私の虜となった。
もう私から目が離せないみたい。
この作戦は他の取り巻きにも驚くほど有効だった。
そもそも貴族社会では政略結婚ばかりで、恋愛経験が皆無。
そこに前世で自由恋愛を経験した私が現れたのだから、勝負にならない。
女子校だったから、男子校生徒を落とすテクニックも完璧に身につけている。
だからといって、前世と同じ要領でははしたないと気をつけている。
塩梅はゲームで散々やり尽くして、完璧に把握済み。
この世界でギリギリの積極性を保ちながら。
これを攻略対象にぶつけていく。
彼らは女性との付き合いに慣れていない。
純情君ばかりで、恋愛経験なんて皆無。
ホント、ちょろくて可愛い。
餌を垂らせば簡単に食いついてくる。
例えば、パーソナルエリアの見切りをして。
そしてさりげないボディタッチを仕掛ける。
みんな、ビクッと身体を震わせて、顔を真っ赤にする。
どんだけ純情なのよ?可愛すぎ。
あとは、向こうが勝手に盛り上がってくれる。
「私は貴方の騎士となろう」
「まあ、私の騎士様」
なんて甘いセリフを交わしたり。
「貴方のためなら死ねる」
「私のために死んじゃだめぇ」
なんて大げさな誓いを立てたり。
もうね、私の反応は完全に脳死状態。
馬鹿臭くて真面目に対応してられっか。
でも、上手く演技はこなしている。
攻略対象者だけじゃない。
学院全体に蠱惑スキルは行き渡らせている。
男子生徒、女子生徒、職員全員に魅了効果を掛けて。
学院では私が絶対的な頂点に立っているのよ。
あ、でも蠱惑を掛けられなかったのが一人いる。
ブサイク・ブランシェ。
腹立つことに、彼女は首席で入学してきた。
実技も座学も満点を取って、私の上に立った。
なんてこと。
彼女も私と同様、蠱惑スキルを持っているということ?
或いはカンニング・スキルを使ったとか。
まさか、彼女も私と同じシーフ属性の持ち主?
その彼女は私の蠱惑をまるではね返した。
私の魔力が通用しない唯一の存在。
まあ、いいわ。
彼女はこれからドツボに叩き落とす予定だから。
徹底して信用を失墜させてやる。
再起不能なまでに追い込んで、最後は森の中で魔物に襲われて死亡。
それが貴方の確定した未来よ、ブランシェ。
あっ、そういえばディオン。
「エレーヌ様と離れたくない」って泣いて縋った勇者候補。
今は『元』勇者候補に転落したわ。
なんと、彼は学院入学試験に見事に落ちたのよ。
それも実技も座学も赤点という惨めな成績で。
私の蠱惑に溺れて勉強を疎かにした結果ね。
それで辺境伯閣下が大激怒した。
勇者候補の推薦を即座に取り下げた。
養子縁組も解消して、屋敷から追放処分。
今は単なる平民となって地元の村に戻ったのかな?
正直、関心ないから、その後の消息は追ってない。
でも、COFのゲームではディオンは私の護衛として重要な役割を果たすのよね。
どうしようかしら。
ゲームの記憶にはない展開で進んでるみたいだけど。
私はこの世界に転生してから新たなシナリオが実装されたんじゃないかと分析している。
その一つが間違いなくレナルド。
私の分析では彼はディオンの代わりになる存在なんじゃないかしら。
だって、ディオン以上の端正なルックスを持っている。
ディオン以上の圧倒的な武力も備えている。
そしてディオンには決定的に欠けていた政治的な才覚まである。
彼を攻略するというのがCOFの新たな台本として追加されたのよ。
COFで最低の評価しか得られなかった登場人物の彼に、突如スポットライトが当たったのね。
それは私が厳しい現実を突きつけて、彼を成長させたから。
私への一途な愛情が彼を変えた結果。
先日は彼が疲れていたのか、それとも恥ずかしかったのか、予想外の反応を示していたけど。
でも、許してあげる。
私は寛大な女性だから。
これから王国の大聖女になるのだから。
レナルドは来年、必ず学院に入学してくるわ。
それまでに私も蠱惑スキルをさらに磨き上げて、完璧な支配者になってみせる。
さて、そろそろ授業が始まるわね。
今日は魔法実技の授業。
私の蠱惑スキルを存分に活かせる時間よ。
先生も生徒も、みんな私の虜。
完璧な学院生活を送れそう。
ブランシェ以外は、ね。
でも、彼女のことは気にしない。
私の計画通り、すぐに消えてもらうから。
ふふふ。
私の支配下で、この学院はとても楽しい場所になりそう。
全てが私の思い通り。
これこそが、私の望んだ世界。




