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桃園の誓い2

「では、次の話に移るぞ。むしろ、ここからが本番だ」


「なんだよ。脅すなよ」


「あのさ。ディオンに殴られて、俺、惨めにも失神しただろ。実はあのとき俺はとんでもない夢をみてたんだ」


「ああ、坊っちゃん、あのあと変だったんだよな。今まで謝ったことなんてないのに、ごめん、って。ディオンもオレ達もまごついたよ」


「それに真っ青な顔をしてフラフラと離脱してしまうんですから」


「俺はさ、周囲を見渡す余裕なんてなかったよ。あのとき、俺は火炙りにされる夢を見たからな。しかも、すごくリアルな」


「「火炙り?」」


「ああ。今から八年後、俺たちが二十歳になる年、両親と俺は火炙りに処せられる。刑を執行するのは領民だ」


「は? 一揆にでもなったのか?」


「そうだ。おまえらは一揆が起きたときに討ち取られている」


「うわっ。マジか」


「でな、俺はびっくりして目が覚めてから部屋に戻ったわけ。で、ボーとしていると辺境伯家の図書室に来いっていわれているような気がして、疑うこともなく図書室にむかったんだ」


「辺境伯家の図書室は有名だよな。蔵書の多さで」


「広い部屋だったよ。で、図書室で読むべき本はすぐわかった。光ってたんだ」


「奇々怪々な」


「俺がその本の前に立つと、そこで現れたのが女神様だ」


「そこで女神様か」


「ああ、俺は何故かすぐに女神様だってわかった。眩しいオーラのために俺は女神様を直視できなかったが、なんというか、清らかというか神聖さを感じるというか、俺は眼の前に現れた人物が女神様だ、ってことを微塵みじんも疑わなかったな」


「はあ」


「で、俺は図書室にある古代書というか神聖書で様々なスキルを学んだ。というか、本を開いたら自動的にスキルが頭に刻み込まれた」


「じゃあ、坊っちゃん、大量のスキルを保有してるってことか」


「いや、殆どは発現していない。必要になったら表に出てくるらしい。それと、すぐには強力なスキルにはならない。それなりに訓練する必要がある」


「訓練っていってもよ、体験した限りじゃ即効じゃねえか?」


「ですよね。魔力を増やすのって、地道な訓練で長年にわたって努力する必要があるっていいますけど」


「それもポイントの一つだな。努力がすぐに実感できる。だから訓練が楽しいんだ」


「ああ、わかるぜ。努力って感じじゃないもんな」


「ですね。温かい風に囲まれてほんわりした気分になりますから」


「まあ、そのうち訓練する場所を見つけてくる必要があるかもな」


「なるほど。魔法が強力になればなるほど、訓練場所を探してこなくちゃいけませんね」


「どこまで俺達の魔法が強化されるかわからんが、ひょっとしたら、上級魔法も発動できるかもしれん。そうなると、森の奥とかで訓練する必要があるよな」


「そっか。目立ちすぎるのも困りもんか」


「そのへんはゆっくり考えようぜ」


「ですね」「だな」


「問題はだ。その時の女神様の言葉だ」


「ふむ」


「俺達は八年後、一揆で命を落とすって話はしたよな」


「こんな強力なスキルがあってもか」


「いや、話は逆だ。命を落とすことにならないように、強力なスキルを授けたってことだ」


「なるほど。でも、女神様がそうする理由があるのですか?」


「俺達に世の中を変えろって言われた」


「「は?」」


「待てよ、坊っちゃん。オレたちってただのガキだぜ?」


「そうですよ。仮に多少魔法とか使えるからってたかが田舎の子どもが世の中を変えるって、無茶すぎでしょ?」


「ああ、当然、俺もそう言ったさ。でもな、女神はこう言った。個人でできることは限られる。仲間を増やせ、と」


「えー、つまり大人数で波を起こせ、と」


「そんなこと、できるんかよ」


「できるか、じゃなくて、やらなくちゃいけないみたいだ」


「無理筋感がハンパないんですが」


「女神様によるとだな、女神様のお眼鏡にかなったのは俺達らしい。というか、俺達しかいないようだ」


「何度も言うけどよ、オレたちってただの悪ガキだぜ?」


「まあ、そう言うな。女神様の御神託なんだ」


「はあ」


「でな、結局のところ、女神様の言いたいことは、『女神教会』をもり立ててほしいみたいだ」


「『女神教会』? そんなのありましたっけ」


「教会って言ったら、普通『真実教会』だよな」


「そうですよ。子どもなら真実教会で勉強を教えてもらうし、病気になったら真実教会で治してもらうし、相談事とかも真実教会へ行くのが普通ですよね。まあ、一定以上の階級クラスに限られますが」


「街の市場なんかでも教会の産物って結構売ってるぜ。ぶどう関連なら教会の独占だろ」


「女神が言うには、本来は『女神教会』が正統なんだと」


「へえ? まあ、女神様が言うならそうなんでしょうけど、でも真実教会に対抗しろってこと?」


「いやいや、それこそ、無理だぜ。真実教会って下手すると王国より強力な組織だぜ?」


「現状では無理だわな。鼻にもかけてもらえないか、下手すると危険分子として処分されるかもしれん」


「坊ちゃま、どうするんですか?」


「どうするも何も、女神様の言うことを聞かざるを得ない。じゃないと、このスキルは消えるってさ」


 というか、俺は次元の狭間に逆戻りらしいからな。


「いや、そりゃナシだぜ。こんな力をもらったら、もう元には戻りたくない。言う事聞かざるを得ないな」


「ですね」


「とにかくだ。『女神教会』に行ってみるか」


「「おー」」



 俺達『桃園の誓い』別名ガッキーズが発進した。


 俺は前世で親友と婚約者に裏切られた。

 それはチクチクと俺の心の奥底に刺さっている。

 その中で仲間を増やせ、という女神の指令。

 抵抗感がないわけではない。


 だが、レナルドの記憶によればこいつらは最後まで俺に付き従った。

 その生命を賭して、だ。

 これに報いるべきだろう。

 彼らを信じるというよりも、彼らに不信をいただかせない。

 俺はそう前向きにとらえることにした。


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