スタンピード1
翌々日、ダンジョンに向かう。
これはダンジョン観測の結果だ。
スタンピード直前となるとダンジョンから濃厚な魔素が漏れ出す。
その魔素を観測したということだ。
十~二十時間後にスタンピードが起こる。
ダンジョンは辺境伯邸から徒歩で約5時間ほどの場所にある。
森を抜けると、いきなり広大な荒野。
森を切り開いた結果らしい。
その荒野にそびえ立つ何層もの擁壁。
俺達はどんどんと中に向かい、打ち合わせ通りの配置についた。
最内周の擁壁のトップに陣取ったのだ。
俺達だけじゃない。
寄り子たちの精鋭魔導師がずらりと並んだ。
千人以上はいるだろうか。
外周にも魔導師だけではなく、近接戦闘用の兵士やら救護部隊やら兵站部隊が詰めている。
「しかし、例のご令嬢様には驚いたな」
「ああ、ブランシェ様、俺達について来たがってたからな」
「お付きのものや辺境伯閣下が必死に止めてましたよね」
「そりゃそうだ。それにしても、根性あるな。ただのご令嬢じゃないってか」
「回復魔法を習熟しただけはあるぞ。俺達だって人体の解剖なんてちょっと困るだろ」
「てか、やだぜ。飯が食えなくなりそうだ」
「しかし、激昂するわけでもなくなんだかおっとりした調子で話してたよな」
「ああ。いかにも上流階級って感じだったな」
「俺も一応上流階級の一員だが、ああはならんぞ」
「根本的に違うな」「かなり違いますね」
「ま、おまえらと同族ってことよ」
「それにしてもキレイだったな」
「ああ、けっこう間近で観察したが、肌の綺麗なこと」
「なんだ、そのオヤジのような意見は」
「いいじゃねえか。本心なんだから。それにオーラが凄いよな」
「あれは何なんですかね。暖色系と寒色系の2つが混じったオーラ?」
「透き通ったオレンジ系っていうか、硬質なオレンジ系っていうか」
「穏やかなんだけど、筋が通っているっていうか」
「ああ。あのソフトな感じの裏に揺るぎないものを感じたぜ」
「シスターとは対象的だな」
「シスターは寒色系に見えて緩いっていうか」
「おぼろげな寒色系っていうか」
「彼女が将来は国母となるか。ふさわしいが」
「話によると次期国王があれなんだよな」
「うむ。王子を知らずに言うのもなんだが、もったいない感じはするな」
「二人共、不敬ですよ」
「おお、声を潜めようぜ」
「おーい! 魔物が出てきたぞ!」
「よし! 注目!」
レポルト司令官の大声が響き渡る。
緊張感が全員を支配する。
「おい、見ろよ! 続々と黒いものが出てきたぞ!」
「儂が一発景気づけをぶっ放す。全員、計画通りに構え。随時、攻撃せよ!」
司令官はそういうと魔道具を構えぶっ放した。
「エクスプロージョン!」『ズガガーン!』
激しい閃光、轟音、暴風が一気に俺達を襲ってきた。
みるみるうちに立ち上る爆雲。
近距離であるため、威力は落としてある。
それでも構える盾への衝撃は凄まじいものがある。
飛空系の魔物も飛び出した。
「これはワシの出番ですかな」
アレオン副司令官が魔道具を構えた。
「ブラストストーム!」『ゴオオオ!』
凄まじい竜巻が湧き上がり、空を飛ぶ魔物を巻き込んでいく。
司令官と副司令官の攻撃で数多の魔物が吹き飛んでいく。
「俺達も乗り遅れるな!」
『ドガガッ!』『ブシュッ!』『バリバリ!』
司令官・副司令官以外からもすかさず攻撃がくわえられる。
しかし、魔物の数は減らない。
洪水のようにダンジョンから魔物が吐き出されていく。
激戦が続く。
「おおお……!」
戦闘が開始されてから30分ほど。
魔物は勢いを減じない。
こちらはへばり始める魔導師・兵士が目立ち始めている。
魔力回復薬も矢もつきかけているのだ。
その中で、フェーブル領の面々は継戦能力を保ったままだ。
「なんだ、あいつら。司令官をはじめとして一般魔導師も勢いが落ちんぞ」
フェーブル領の兵士は魔導師ではない。
魔道具が凄すぎるのだ。
魔力が枯渇しても魔石を交換するだけで継戦できる。
端から見ると、無尽蔵な魔力に驚くばかりだ。
さらに30分がたった。
もうこの頃にはフェーブル領の面々のみで攻撃していた。
「魔物が現れなくなったぞ!」
「よし、ダンジョンに突撃するぞ!」
ここからは近接戦闘を得意とする兵士の出番だ。
ダンジョンにはまだ魔物が蔓延っている。
まだまだ間引いていく必要があるのだ。
「どうだ、魔素濃度は?」
「うむ。多少濃い程度だ。突撃できるぞ!」
「ウシッ!」
「ジャイニー、スキニー、俺達も突撃するぞ!」
「待ってたぜ!」「行きましょう!」




