スタンピード注意報2 ブランシェ
『パカパカパカ』
俺達がいつものように馬鹿話をしていると、やけに華麗な馬車がやってきた。
「「「!!」」」
その馬車から降りてきたご令嬢。
「おいおい、なんだあの美形は」
「年はオレ達より少し上か? でも、美形度はシスターとタメをはるな」
「なんていうか、極上の完成品じゃないですか。彼女を見たら、ロザリーやセリーヌはただの美少女ですね」
「ああ、スキニー。ロザリーに言いつけるぞ」
「あ、あ、あ、あ、ちょっと口を滑らしました! 今のノーカン!」
そばの人に聞いてみた。
「あの方はルサージュ公爵家の長女であらせられるブランシェ様です」
「そのご令嬢様がどうしてここに? 危ないじゃないですか」
「辺境伯閣下と公爵閣下は仲が宜しくてですね、ブランシェ様が辺境伯閣下の別邸に招かれていたんですね」
「はあ。じゃあ、すぐに公爵領にもどったほうが」
「ブランシェ様が望まれたのですよ。彼女は類稀な聖魔法の持ち主。しかも研鑽を重ねられて実力は王国有数と称えられています」
「聖魔法ですか。するとまさか後方支援ということですか? 公爵家のご令嬢様が?」
「まさしくその通りです。救急医療班の一員として後方を支えたいということなのでしょう」
「だってよ」
「オレたちとは住む世界の違う人じゃねえか」
「おまえら知らんのか。ブランシェ様を」
「なんだよ、父ちゃん。そんなに有名なんか」
「聖魔法使いで次世代の聖女様って言われてるお方だぞ」
「は? シスター以外にも聖女様がいたんか」
「王国的にはブランシェ様が聖女筆頭候補だな。シスターは我が領の外ではそこまで評判が広がっておらん」
「へえ。でも、聖魔法、つまり回復魔法の使い手ってことだろ? 過酷な修練をくぐり抜けたんか?」
「その通り。知っての通り、聖魔法の回復魔法を習熟するには人体の構造を知る必要がある。つまり、解剖実習を何度も繰り返すことが必修となる。ブランシェ様はその鍛錬を修められたのだ」
「俺達とそんなに年が違わんだろ?」
「確か、おまえらの一個上だな」
「凄いな。小さいときから人体を切り刻んでいたのか。公爵家のご令嬢様が」
「そういうことだ」
「みあげたもんだな」
「それだけじゃないぞ。座学全般も満点。剣技も満点。礼儀作法も満点。かといって偉ぶることもなく、冷たくもなく、いつも笑顔を絶やさん」
「できすぎじゃねえか」
「欠点のないことが欠点と言われるぐらいのスーパーレディだ。だから、次世代の聖女様として有名なんだ」
「その話聞くと、うちのシスターより上だな」
「うむ。うちのシスターは自分で服も着れないし、料理をすると台所が黒焦げになるし、アイタタ聖女様だからな」
「そう聞くと、うちのシスター、むしろ可愛い感じがするな」
「可愛いって、彼女二十歳を越えてるだろ」
「いや、年は関係ないだろ。可愛いオバアチャンとかっていうじゃんか」
「ただなあ、ブランシェ様には一つ微妙な点があってな」
「微妙な点?」
「これは大声では言えんし、他にはもらすなよ。彼女は王室第1王子のフィアンセなんだ」
「誉じゃんか。それのどこが微妙なんだ?」
「彼女自体の話じゃない。第1王子はブランシェ様と同年齢なんだが、王子が少しばかり微妙なんだよ。まあ、はっきり言えば出自と容姿以外ブランシェ様といろいろと釣り合いが取れておらん」
「ああ、残念王子ってことか」
「まあ、そういうことだ。でな、一つ違いの第2王子が優秀なんだ」
「あー」
「しかもな、第1王子と第2王子は母親が違う」
「あー」
「王家はな、王になった人物の母親が正統性を持つことになっておる。だから、母親同士の火花も激しいと言われている」
「なんだよ。導火線に火がついてるじゃねえか」
「まあ、第2王子ができた人でな。今のところは波風が立っておらん」
「ふーむ、じゃあ取り巻きが余計にヤキモキしそうだな」
「こうして坊っちゃん達に情報を与えたのはだな、あんまり彼女に近づくなってことだよ。下手すると巻き込まれるぞ」
「しねえよ。そもそも天上の人じゃねえか」
「いや、伯爵家の長男であるレナルド様ならそこまで釣り合いがとれておらん、というわけではない。公爵には2種類あるの知ってるよな?」
「「「知らん」」」
「バカ。偉そうにいうんじゃない。公爵には王家の親戚に対して与える場合と優秀な功績を残したものに与えられる場合の2つがある」
「全然違うじゃねえか」
「ああ。前者はルプランと言って王家の親類派閥を増やす意味合いが強い。後者はドュックと言って貴族階級のトップって感じだな」
「ルサージュ公爵は?」
「ドュックだ。つまり、叩き上げの公爵だ」
「なるほど。まさしく政略結婚か。多分、王家が貴族筆頭の公爵家とつながりを持ちたいとかか」
「まさしくその通りだな。公爵家は下手すると王家よりも力を持っておる。しかも、同じく王国有数の貴族である辺境伯閣下とも仲がいい」
「典型的な図だな」
「うむ。自分の幸せは二の次になるのが貴族社会のやっかいなところだな。まあ、レナルド様も今からどうするか考えたほうがいいかもな」
「どうするか?」
「王国の貴族の子弟は十五歳になると王立高等学園に入学するだろ。2年間だがな。第1王子は1学年上。第2王子はレナルド様と同年だ」
「あ」
「来年じゃねえか」
「ジャイニーとスキニーもだぞ」
「入学は絶対なんか? 辞退できんか?」
「できん。ジャイニー。お前には何度か説明したよな」
「うーん、人ごとに聞いてたからな。だって、オレ様は頭があれだろ?」
「頭があれでも入学することになるぞ。一応、騎士階級の子弟も貴族扱いだからな」
「グゲ」
「ジャイニー、俺もスキニーも学園に行くことになりそうだ。諦めろ」
「勉強したくねえぜ」
話を聞く限り、ブランシェ様はスーパーレディだ。
俺はこの手の学級委員長タイプの女性に弱いんだ。
有能秘書とか。
メガネをくいくいさせて、でも優秀さをひけらかさないようなタイプ。
俺はМじゃないが、叱られてみたいっていうか。
遠目だが、スタイルも9頭身はありそうだ。
細身だがガリガリって感じじゃない。
バランスが良さそうだ。
女神教会助手の二人とは同い年だが違いがある。
助手の二人はまだ子供っぽさを残している。
対して、ブランシェ様はすでに大人の風格があるな。
貴族らしく目はブルーで髪は淡いイエローブロンド。
髪がセミロングなのもいいな。
まあ、俺はショートが好きなんだが。
王国の女性はみんな揃いも揃ってロング一辺倒だ。
彼女には個性を認められるだろう。
多分だが、実用性を重んじるタイプか。




