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スタンピード注意報

「坊っちゃん、大変だ。辺境伯領でスタンピードの前触れあり。招集がかかったぞ!」


 ようやく流行り風邪の猛威が収まった頃。

 フィルマン辺境伯から招集がかかった。

 なんでも辺境伯領の南方で魔物が活発化しているらしい。

 つまり、スタンピードの前触れが起きているのだ。


「よし、司令官。さっそく派遣団を編成してくれ。俺も当然行くぞ」


「うむ」


「坊っちゃん、スタンピード戦はオレ達初めての経験だな。そもそもスタンピードってなんだ?」


 ここは物知りスキニーの出番だ。


「スタンピードとは、魔物の集団暴走を指します。魔素密度が高くなると発生しやすいと言われています」


「そんなに大変なことなのか」


「スタンピードでの魔物は理性を失い凶暴化します。パーサーカーとなるのですよ。普段よりも能力が5割アップすると言われています。しかも、ただの集団暴走じゃありません。数がおびただしいです。下手すると1万以上に上ることもあるそうです」


「1万の狂乱魔物が突撃してくるのか」


「ジャイニー。5割アップの魔物だ。たとえただの角うさぎだろうとも舐めてかかると足元を救われるぞ」


「ふん。オレ様の火魔法で火だるまさ!」


「いいか、個々の魔物も怖いが、それよりも集団で襲ってくるのが怖いんだ。山も野原も魔物の群れで黒く染まる。その光景は禍々しいぞ。ジャイニー、ちびるなよ」


「父ちゃん、それはないだろ。しかしそうなるとオレ達だけじゃないか、招集がかかったのは」


「ああ。辺境伯の寄り子たちは全員だな。対応を誤ると辺境伯領だけで済まなくなる。王国全域に及ぶ可能性もあるんだ。周辺の者たちは戦々恐々としてるぞ。もちろん、俺たちもだ」


 メンバーはガッキーズ、父ちゃんズと兵士100人の編成を組んだ。

 もちろん、各自自慢の攻勢魔道具と防御魔道具を装備している。

 それら魔道具は端から見ると特別なものに見えない。


 ただ、性能がばれる恐れはある。

 バレてもどうしようもないが。

 求められても売るつもりがない。

 だいたい、生産余力がない。

 盗難は発生するかもしれない。

 だが、使用者登録をしてある。

 分解すると派手に爆発する。


 ◇


 翌日の早朝、馬車を連ねて出発した。

 馬車は板バネとソファバネ付きのものだ。

 従来の馬車よりもずっと乗り心地がいい。

 この馬車は周辺に名が知れ渡り始めている。

 辺境伯閥の人たちには技術指導もしている。


「坊っちゃん、1年ぶりの辺境伯邸だな」


 例の勇者候補ディオンと決闘したのが2年前。

 それから1年後にもう一回辺境伯邸に集っている。

 懇親会最終年だった。

 その時からさらに1年が経った。


「ああ。いい思い出と悪い思い出の詰まった場所だな」


「あれ、坊ちゃま、黄昏れてます? 珍しい」


「はは。まあな」


「坊ちゃま。僕は自分の能力を判断するいい機会だと思ってます。スタンピードが起きたら、僕はやりますよ」


「お、スキニー。言うじゃねえか。もちろん、オレ様だって負けねえぞ」


「よっしゃ。三人で競争するぞ! ドベは罰ゲームな。みんな、罰ゲーム考えておけよ」


「へへ。オレ様が一番だろうからな。坊っちゃんも遠慮しないぜ」


「ああ、かかってこい!」


 ◇


 辺境伯邸までは約百km。

 この距離を2年前は馬車で2日半かかった。


 今回は。

 なんと当日お昼ごろに到着したのだ。


 馬車の性能があがっていること。

 フェーブル領の道路事情が向上していること。

 それに今回は非常事態だ。

 ノロノロ動いていていいわけがない。


 速度は時速20km程度だろうか。

 以前ならば、馬車の中は悲惨な有り様だったろう。

 しかし、強い振動がない。



「おう、フェーブル伯爵代理。昨年の懇親会以来だな。早いじゃないか」


 辺境伯邸に到着すると、慌ただしい雰囲気の中、辺境伯が俺達を出迎えてくれた。


「閣下、飛ばしてきました」


「うむ。やはり、君たち発明の馬車は優れモノだな。君たちに技術指導を受けて私達も馬車を改良してはいるが、まだまだ本家にはかなわんようだ」


「閣下。それと改良された道のお陰もあります」


「思い切ったことしているよな。道を良くすると敵の侵攻を早めるとして嫌がる人が多いんだが」


「もちろん、それはリスクとして承知してます。でも、いろいろとメリットもあるんですよ」


「確かに、敵の侵攻も早いだろうが、私達の動きも俊敏になるわけか。今回のように」


「ええ。ところでどんなもんでしょうか」


「ああ。世間話している暇はないな。フェーブル領についてはいろいろ評判が沸き起こっていてね。いろいろ聞きたいんだが、まずは眼の前のことに集中しよう。ここから南東約五十kmほどの地点にダンジョンがある。今回はそこが沸騰しているようだ」


「スタンピードの可能性は」


「半々と見ている。ほっとけば、確実に魔物であふれるだろうが、その前に対処すれば、というところだ」


「時間との勝負でもあるわけですか」


「うむ。だから、諸君らの俊足の動きは非常に心強い」



 辺境伯から離れ、俺達は一休みしていると


「レナルド。久しぶりだな」


 勇者候補のディオンがやってきた。

 あの決闘以来だ。


「その姿はおまえの信仰する神のお陰か?」


 信仰する神?

 女神様のことを言っているのか?


「何をいっているんだ? それに信仰する神?」


「レナルド、2年前とはがらりと変わったその姿。なにかよこしまなことをしているのであろう」


「何を訳のわからんことを。それに信仰する神って、それは誰なんだ?」


「ふん。邪神だろう」


「俺は女神教会の信徒だ。当然アプロティーナ様を信仰している。お前はしらんのか? アプロティーナ様を。由緒正しい女神様だぞ」


「アプロティーナ様だと? 嘘をつくな。証拠はお前の姿だ。あまりにも以前と違いすぎる。それは邪な信仰がもたらしたものだろ」


 やけに俺の外見にこだわるな。

 いや、それよりももっと気になる点がある。


「なあ、ディオン。おまえ、ちゃんと訓練してるのか?」


「は? 何を偉そうに。してるに決まってるだろ! 俺を誰だと思っている! 勇者ディオンだぞ!」


 ああ、プリプリ怒って行ってしまった。

 勇者候補だけどな。

 ツッコむとさらに怒るだろうな。



「なあ、坊っちゃん。あれ、ディオンだよな?」


「そうだ。それが何か?」


「うーん、2年ぶりに見たんだが、何かしぼんでないか?」


「ですね。僕にもそう見えます。なんだか、貧相になったような」


「おまえらもなかなか言うじゃないか。でもそのとおりだ。奴は随分とショボくれた」


「だよな。2年前はやつに勝てる気がしなかった。だけどよ、今は多分、オレのほうが強いぜ」


「僕も普通に思いました。スキがありすぎる。勝ち筋しか見えません」


「お前らもわかるか。疑いなく俺達のほうがディオンよりレベルが高い。多分、奴は冒険者クラスでいうとC級ってところか。それもDに近いCだな。ジャイニーもスキニーもB級を伺うところまで来ている。明らかに奴よりも格上になっている」


「何だよ。奴に何があったんだ?」


「単に怠けていたんじゃないのか? それか病気でもしたとか。どう見ても2年前より弱くなってるぞ」


「今、決闘したら」


「ワンパンだな」


「ま、そうだろうな」


「弱いものいじめはしないって決めたろ?」


「へっ。よく言うぜ。なんだよ、そのドヤ顔」


「まあ、いいじゃねえか。俺達、2年間けっこう頑張ったよな。ちょっと感慨深いもんを感じているんだ」


「坊っちゃま、下を見てどうするんですか。僕達はもっと上を目指してるんですから!」


「はは、スキニーの言う通りだ。俺達三人の中で一番伸びたのはスキニーだからな」


「悔しいが、坊っちゃんの言う通りだ。スキニーがまさかオレ様と身体能力でタメを張るようになるとはな」


「魔力もタメ。だが、脳みそはスキニーの勝ちだな」


「ううう、それを言ってくれるな。だけどな、オレにはゲレオン仕込みの料理スキルがあるからな! これでセリーヌの気持ちはオレ様一筋だぜ!」


「なんでだよ」


「オレ様の新作、いちごタルトは絶品なんだ。ゲレオンもびっくりのな!」


「ほう、いつの間に。ひょっとして、おまえのマジックバッグに入っているとか」


「これはダメだぜ。セリーヌへのプレゼントだからな」


「ちぇっ。じゃあ、いいや。なあ、スキニー。実はな、俺も新作のお菓子を作ったんだ」


「え、ホント?」


「チョコレートって名付けたんだが、ちょっとほろ苦くて高貴な香りのするとってもスィートなお菓子だ。もうな、お菓子の王様に認定したぜ」


「坊っちゃん! ずりーぞ! なんだよ、こっそりと」


「薬師に頼んでおいたんだ。特徴を話してな。これこれこういう植物の実があれば仕入れてほしいと。で、先日手に入った。スキーニー、後で一緒に食べるぞ」


「坊ちゃま、楽しみです!」


「ちぇっ、わかったよ。いちごタルトはまた作ればいいからな」


「最初からそう言えよ。そのかわりな、チョコレートを使ったケーキの作り方を教えてやる。いちごタルトとこれでセリーヌだろうがロザリーだろうが、倍々でハートをゲットだぜ!」


「「おおー!」」



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