スラム再開発計画と魔導自動車
前世でも都市化にスラムは付き物である。
職を求めて都市に人が集まる
→いろいろと公共サービスが追いつかない
→衛生状態も治安も悪化する
となる。
日本ではスラム街がないので実感できない。
だが、海外へ行くととんでもないスラム街がある。
フェーブル街もそうだ。
僅か一万人程度の街なのに、スラム街がある。
俺に言わせると街全体がスラムだ。
掃除をするようになってかなりマシになった。
それでもちょっと気を抜くとすぐに元に戻る。
その中でも非常に貧しい一角がある。
掘っ立て小屋が並んでいる。
その小屋に一家が住んでいる。
狭すぎて寝るときも横になれない。
座りながら寝る。
小川が流れているが、汚染されている。
生活排水で極めて臭く不潔だ。
飲用水は遠くから汲んでくる。
住民の多くに職はない。
多くが昼間から通りでブラブラしている。
金はないのに、何故か酒をかっくらっている。
ギャンブルも定番だ。
遠目からでも栄養状態が悪い。
目に生気がない。
虚ろで濁った目をしている。
俺はそのエリアを再開発することにした。
街の犯罪の温床、そして汚濁の中心である。
浄化しなくては街の発展はない。
それにスラムの中心には女神教会があるのだ。
かつてはそこが教会の唯一の拠点だった。
段取りは
街の外にキャンプ設立して住民をそこに
→スラム街を更地化
→高層集合住宅建設
→生活便利魔道具の設置
→住民を住まわす
この世界では土木や建設に費用がかからない。
魔法で済ませてしまうからだ。
それでも、無料ではない。
低額ながら家賃をとる。
土地代は無料ではないしな。
そのために職を与えた。
普請事業だ。
道路・治水・清掃が普請事業の柱である。
前世で言う公共事業にあたる。
また、住居の維持管理を命じた。
特に掃除のできない住民は領を追放すると告げてある。
領追放=死刑に近い
のたれ死ぬしかないのだ。
これは脅しではない。
余った土地には病院と学校を建設した。
スラムの中心にある女神教会は今も機能している。
そこを拡充して、病院と学校とした。
学校については、十五歳までに半年間通うことを義務づけた。
最低限の文字と計算ができるように。
毎日ではない。
週二回、1日二時間程度だ。
それ以上は生徒側にも負担がかかるし、講師も不足している。
成人でも希望者は通えるようにした。
また、見込みのある者はより高度な教育に移行した。
女神教会門前街の学校に連れて行くのだ。
そこで主に文官修行をさせる。
奨励金を与え、家庭に負担のないようにした。
【魔導自動車の開発】
さて、街を汚す最大のものは排泄物だ。
急ピッチで排泄物分解魔道具を製造。
住民に貸与している。
それとともに、馬車の乗り入れを禁止した。
やつらは馬◯を垂れ流すのだ。
そのかわりに公共の乗り物が必要になった。
そこで開発したのが魔導自動車だ。
「坊っちゃん、とりあえずはこんなところか」
担当させたのは、ドワーフのゼリオン。
自動車の機構は簡単だ。
風魔道具で車を浮かせて走らせるのだ。
ホーバークラフトである。
モーター音がないのでかなり静かだ。
完全には浮上しない。
以外に燃費が悪いのだ。
だから、車輪は付けたまま。
乗り心地を確保するために板バネと座席のスプリングを開発してもらった。
「板バネといい、スプリングといい、坊っちゃんの発想はたいしたもんだな」
いや、それは前世の知識。
「この二つは秘密でも何でもないから、漏れてもいいからね」
ただ、風魔法魔道具は秘匿案件だ。
魔素充填機構と風魔法魔道具自体が画期的なものなんだ。
便利生活魔道具と同様にね。
のこの世界の他の魔道具は非常にレベルが低い。
例によって位置特定魔法がかかっている。
使用者登録もしてある。
仮に分解・分析しようとすると魔法陣が消滅する。
場合によっては自爆する。
その旨、警告として魔道具に記載してある。
時速は五km程度。
歩く速さと同じ。
一台で乗客は五人乗り。
軽自動車より若干長めの大きさになる。
街の道路も整備して車が走りやすいようにしてる。
乗り合いバスのような形になり、運賃は一回百ギルだ。
それでも、住民は珍しがって自動車に乗りたがる。
街だけではなく、随時村にも整備していった。
道路状況がよくなったところから優先して配置したのだ。
また、領内間の交通も馬車に替わるようになった。
【懲りない犯罪者】
「坊ちゃま、ほんの出来心で!」
「いえ、これは誤解なんです!」
「お許しください! うちには年老いた両親と妻と幼い子供、猫がいるんです!」
はあ。
もう何度聞いたろう。
こいつらの寝言。
これは生活便利魔道具の話。
あれだけよそに売り払うな、と言っておいたのに。
魔道具を貸与した住民の1人がとある商人に売却。
そして、他領の貴族に転売。
昔はもっとガチガチに契約魔法を結んでいた。
でも、このところ数があまりに多すぎる。
簡易的な秘密保持契約魔法で済ませているんだ。
今、俺の眼の前にいるのはその住民と商人だ。
「鉱山奴隷として売っぱらうね」
「!」
「いえ、違うんです! 私は巻き込まれただけです!」
「君たちさ、とある貴族に売っぱらったよね。その魔道具、どうなったかわかる?」
「「「いいえ……」」」
「分解しようとして爆発したとさ。貴族邸は消滅。死傷者多数。まあ、このままでも貴族からの報復があるかもね、君たちに」
「ええ、そんな」
「警告文をのっけておいたんだけどね。分解したら爆発するって」
「お願いします! 助けて下さい!」
「鉱山奴隷が嫌なら、処刑にしようか?」
「「「ひぃぃぃ!」」」
ああ。
毎週のようにこういうバカどもが湧いてくる。
こういうのに時間を割かれたくない。
俺は超忙しいんだ。
次からは自動的に処刑しようか。
そこまで行かなくても、
「いくらでも出す。売ってくれ」
こういうのが本当に増えた。
市販はしていない。
あくまで女神様から賜ったものとしている。
しつこい奴には、【強欲者】の刻印が額に。
盗難もある。
位置特定魔法がかかっている。
すぐに場所が特定されて犯罪奴隷となる。
◇
魔導自動車は改良を続けている。
一年もたつと時速二十kmまで出せるようになった。
定員も十名程度まで可能となった。
「坊っちゃん、これでレースやんねえか?」
ジャイニーがそう提案してきた。
うむ。
確かに面白そうだ。
「ジャイニー、もうちょっと待て。まだ遅すぎる。もう少しスピードを出せるようになったら検討してみよう」
数年後、この話はボートレースとして結実する。




