桃園の誓い1
「いいか、魔法の発動は人に見せびらかすなよ?」
「なんでだよ。周囲に自慢して回りたいぜ」
「ジャイニー、僕達がいきなり魔法を、しかも魔道具なしで発動したら、どんな騒ぎになるか」
「そうだぞ、ジャイニー。スキニーの言うとおりだ。少なくとも、見せかけの魔道具を身に着けてから魔法を発動するように」
「あー、むずむずするぜ」
「じゃあ、次の話。これから話す内容、これからの行動、バレたら困ることばかりだ。魔法の話以上にだ。俺はお前らを信じる。だから、おまえらも俺を信じて、ここで誓いを立てる」
「「誓い?」」
「そうだ。三人の秘密を他人に漏らさないという誓いだ。破ればペナルティがある」
「ひょっとすると、契約魔法ですか?」
「ああ。俺は契約魔法を発動することができる」
現在、俺の発動できる魔法・スキルは四属性魔法にとどまらない。
契約魔法はその一つで、両者の合意をもって発動する。何らかの制約を課して、それに違反した際にペナルティを与える魔法である。発効すると契約紋様が指定した体の部位に浮かび上がる。
「坊っちゃん、全然問題ないぜ。むしろ、魔法で縛ってもらったほうがいい。この魔法、誰かに見せたくって仕方がないからな」
「ですね。漏らすつもりがなくても口に出してしまうこともありますからね」
「うん、ありがとう。じゃあ、この木の下で誓いを立てるぞ。秘密は他には漏らすことができなくなる」
これはただの楠に似た木だった。
でも、俺的には『桃の木』だ。
「じゃあ、三人でこの木を囲んで」
「よし」「いつでも」
「では、契約魔法を発動するぞ」
瞬時に俺達は光で包まれた。
お互いの上腕に契約文様が浮かび上がる。
「よっしゃ、完了だ。俺はこれを『桃園の誓い』と呼ぶ。三人のチーム名もこれだ」
「とうえん?」
「桃のことさ」
「桃なんて一本も生えてないだろ」
「いいんだよ。そういう神話があるんだ」
「ふーん」
「じゃあ、魔法についてだが、これから魔力増強の訓練に移る」
俺は暇があれば行っている魔力増強訓練を教えていった。
「まずは、一時間ほど訓練してみるぞ。瞑想の時間だ」
「こんなんでいいのか? 基本的にボーっとしてるだけなんじゃ」
「やってみてその結果を実感してみろ」
「「おお」」
……一時間後
「よし、どうだ?」
「気持ち良かったぜ」
「なんだか、温かい風の中、フワフワと浮かんでるような気分だった」
「それで魔法を発動してみてくれ。多分だけどな、四属性魔法の進捗には得意・不得意が出てくるんだ。得意魔法はすぐにわかると思う」
「確かに。オレは土魔法っぽいな」
「僕は風魔法みたいです」
「「発動!」」
「本当だ。さっきよりも魔法の勢いが増している」
「たった一時間の訓練なのに」
「効果、わかったろ?」
「話によると、魔法の訓練って結構キツイって聞くけど、こんなんでいいのかって感じだな。目を瞑ってるだけだもんな」
レナルドは昔魔法の訓練を受けていた。
非常に退屈かつ集中力のいるものだった。
だから、あっという間に放り投げてしまった。
ちなみに、この効果は俺がいるからこそ。
これもグルスキルの一環だ。
「訓練は早朝と夕方。俺と一緒だ。続けられるか?」
魔力増強スキルは俺がいないと発動しない。
「問題なし! というか、進んでやりたいぜ。こんなに気持ちよく訓練ができるなんて」
「本当です。一日中でも訓練したい気分です」
「まあ、それなりに疲れるから適度に行ってくれ。さすがにやりすぎると気持ち悪くなるみたいだから」
俺は一度魔法訓練をやりすぎてダウンした。
魔力枯渇症だ。
「「了解!」」