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女神教会ギルド 黒パン 領内統一価格

「では、領主代理会議を始めるぞ。まずは、領軍に関する領民の態度はどうかな?」


「毎日の訓練に加えて、ワシらが定期的にぶっ放す例の大規模魔法。みんな、ビビりまくってますな」


「でもですね、大規模魔法映像は『映画館』では人気コンテンツになってますよ。一番は兵士の魔物討伐ですが、二番が兵士の魔法訓練風景。三番が大規模魔法映像。遠距離からの動画が多いのが残念ですが」


「詳細は秘匿する必要があるからな。それでも見栄えしますな」


「でもよー、気に食わないのは女がキャーキャー言ってることだな」


「領兵にはファンクラブみたいなのもあるみたいですな」


「チェッ、オレだって女にもてたいぜ」


「ジャイニー、縁談とか舞い込んでますでしょ」


「それがよ、訳アリの貴族とか商人とかなんだよ。釣られるわけにはいかねえだろ。父ちゃんからもしっかり言われてるしな」


「まあな。父上である伯爵を隠遁させて思ったんだが、やっぱり貴族はダメだと思うんだよ。貴族ってさ、いばってばっかりというイメージがあるだろ?」


「中には礼儀正しい貴族もいますがな」


「ごくごく一部だけどな。でな、いばってるばかりで魔法の訓練もせず惰眠と飽食に明け暮れる貴族に未来はあるかっていう話だよ」


「うーむ。坊っちゃんが言うとうなづけるものがあるな」


「俺の両親とか昔の俺の姿だな。商人だってそうさ。今は金持ちかもしれない。でも、フェーブル領の商人ギルドを見てみなよ。随分と力を落としてきたろ?」


「ああ。たった一年であっという間の没落ぶりだな」


「商人ギルドのバックには真実教会がついているんだが、真実教会にしても女神教会に押され気味だ。このままいくと来年はどうなる? 再来年は? 将来は簡単に見渡せる気がしないか?」


「ああ。まったくだ」


「奴らからの嫌がらせも増えた。しかし、現状ではたかが知れてるな」


「オレたちには最終兵器黒猫様がいるからな」


「黒猫様はチートですからね。裏からの陰湿な動きには大変強いものがあります」


「ただな、ジャイニー。それ以前におまえは貴族は無理だぞ」


「なんでだよ、父ちゃん」


「あのなー、貴族の会話って難しいんだぞ。確かに王国語を話している。しかし、裏がありまくりで儂ら脳筋にはチンプンカンプンだ。しかもだ。ジャイニー。おまえ、敬語さえロクに話せんだろ」


「ああ、父ちゃん。それを言ってくれるな。敬語話そうとすると、舌を噛むんだよ」


「だいたい、ジャイニー。おまえ、シスター助手のセリーヌにぞっこんじゃないのか?」


「おう、おう! セリーヌは最高だぜ!」


「言いつけるぞ、彼女に。ジャイニーは女の子にもてたがっているって」


「ああ! 頼むからやめてくれ! ただの戯言じゃねえか。今までの会話、ナシナシ。男同士の会話をチクるなんてフザケ過ぎだぞ」


「まあ、ジャイニーのことはほっておこう。でな、本日の議題は、女神教会ギルドだ」


「女神教会ギルド?」


「領には様々なギルドがある。それらのうち、販売・製造系のギルドを統合しようと思ってな」


「ということは、冒険者ギルド以外すべてってことだよな」


「うむ。前から言ってるが、現ギルドにはいい面と悪い面がある。いい面は粗悪品が出回らないとか粗暴な製造者や商人が市場から排除されることとかだな」


「ああ。ただ、悪い面が目立ってきていると」


「価格統制とか新規参入規制とかだな。あとは、親方中心のギルドばっかりだ。消費者目線になっていない。ギルドも貴族や現行商人と同じで将来性に乏しい」


「だからこその女神教会ギルドというわけか」


「ああ。シスターには名前の利用について許可をもらっている。女神教会の名がついているからといって、信徒しか加入できないわけじゃない。要はもう少し時代にあったギルドを作りたいわけだ」


「当然だが、利権に切り込むことになる。背景にいる権力者、特に教会の逆鱗にも触れることになるな」


「そうだ。だからこその領軍強化という意味もある」


「なるほど。坊っちゃんが領軍整備に一生懸命な理由の一つのわけか」


「ああ。最悪、彼らと内戦になるからな」


「そこまでですか」


「スキニー、覚悟しておけよ。利権の切り崩しには血が盛大に降るからな」


「うわっ。黒猫様でもダメなのかよ」


「黒猫たちは質は高いが、量的に不利なんだよ。真正面から数にものをいわせてこられると不利だ。黒猫の供給には制限があってな。特定の地域にまとまった数を投入できないらしい」


「うむむ」


「でな、女神教会ギルドの第一弾としてだ。黒パンに手を出したい」


 黒パン。

 雑穀パン、特にライ麦パンをさす。

 小麦パンに比べると味は落ちる。

 しかし、栄養と保存性に優れている。


「黒パンか。焼き立てはまあまあなんだが、固くなると噛み砕けないほどになるからな」


 保存性と引き換えに黒パンはすごく固くなる。

 食べるのにお湯にひたすとか牛乳で煮るとかする。

 王国では小麦パンは高いので、貴族でも黒パンを食べる。

 フェーブル邸でも普通に食べている。


「そのパンだが、ギルドの事業として製粉・製パン・販売に進出する」


 パンには小麦の栽培に始まり製粉、製パン、販売にはそれぞれギルドがある。

 王国では主要なギルド群である。


「目的は黒パンの価格統一。そして、領民、特に街の住民に安価で美味しい黒パンを提供することだ」


 製粉するにはおもに水車で臼を引く。

 その使用料を領やギルド(教会)に払う必要がある。

 製パンも同じだ。

 窯の使用料がかかる。

 結局、パンは高いものになり、貧しいものはパンを食べられない。


「坊ちゃま。ということは民衆を味方につけるわけですね」


「さすが、スキニー。旧ギルドと民衆。どちらを味方にしたほうがいいか、ということだ」

 

 虐げられる領民という構図は王国にはあてはまりにくい。

 俺が一揆で火炙りに処せられるのがいい例だ。

 住民も不満がたまれば一揆を起こす


 対して、権力者側は備えがない。

 常備兵は金がかかるから普段は少数だ。

 いざというときは領民を徴兵する。


 その領民が歯向かってくるんだ。

 普段の領民は弱っちいうさぎの群れだ。

 てんでんばらばらの烏合の衆。

 しかし、餓死の恐怖が領民を団結させる。

 一揆を起こす段階になると領民はほぼ死兵となっている。

 彼らにはあとがないんだ。

 そうなれば、数の少ない領軍は持ちこたえられない。

 領民に対抗できたとしても、領民の数が減れば領は衰退する。


「安定して安くパンが食べられれば、領民は大歓迎でしょうな」


「ああ。これが軌道にのれば、次はフライドポテトとかグラノラとか本丸の小麦パンに進出する」


「小麦パンか。贅沢の象徴のような存在だもんな」


 小麦パンは庶民で口にするものは少ない。

 小麦は換金穀物であり、専ら貴族や富裕層にわたる。

 小麦を作っている農民でさえ、小麦パンは食べないのだ。


「この小麦パンこそ、利権の象徴でもある。背景にはがっつり権力者、特に教会が控えている」


「血の雨が降るってやつですね」


「ああ。ただ、それまでに奴らの力を削いでいくつもりだがな。目に見える力勝負じゃないんだ。もっと戦略的な争いが必要だ」


「で、坊っちゃん。価格の統一という話ですが」


「まずは農村改革。穀物の増産を目指す」


「肥料とか農機具魔道具とかですね」


「そうだ。今は数が少ないが、主たる村では試験で投入している」


「ああ。オレもこのまえ村に行ってきたぜ。村人たち、興奮してたな」


「うむ。評価は上々ってところだな。それから、製粉・製パン魔道具を製造する。ここに魔道具の実物がある」


 俺はマジックバッグから魔道具を取り出し、実演してみる。


「ほう。なんというきめ細かな粉。しかもまじりっ気がないですな」


 普通、穀物粉には砂利やゴミが混じっているものだ。


「なかなかやるだろ。ただな、これはあくまで実験機でコストがかかるし、もっと改良が必要だ」


「やはり、行き着く先は人手ですか」


「そうだ。製粉してもパンをこねて発酵させ焼き上げる必要がある。ここまでくると人海戦術になる。それも熟練した作業員が必要だ」


「魔法でチャチャッというわけにはいかんのですな」


「特に食い物はな。全面的な魔道具化は難しい。だが、俺の改革を進めると巷にパン関係の失職者が溢れるだろう。彼らを呼び込むつもりだ」


 パン職人は通りに1人以上という単位で存在する。

 街では各家庭はパンをこねてパン職人に焼いてもらうのだ。

 今後は彼らの失業を視野にいれる必要もあるのだ。



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