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新警備体制

 このところ、領北西部でワイバーンの被害が拡大している。

 北西部に広大な森があり、そこから飛来してくるのだ。

 ただでさえやっかいな空飛ぶ魔物。

 冒険者ギルドランクでもB級に分類される。

 それが十数頭の集団でやってくるのだ。


 襲われたら村は半壊。

 今のところ、人的被害は少ない。

 残念ながら初期には人がさらわれたこともあった。

 が、すぐに情報を共有。

 魔物対策の地下室に逃げることにしたのだ。


 村人はただ地下で息を潜めているだけ。

 ワイバーンがあきらめて去っていくのを待っているのみなのだ。



「坊っちゃん、いよいよ新開発の兵器出陣ですな!」


 とある村からワイバーン襲来の一報。

 それが転移魔法陣を通じてリアルタイムで伝わる。


「へへへ、今までは練習ばかりだったからな。腕がなるぜ!」


「ジャイニー、新兵器を操作するのは領兵達だぞ。俺達はあくまで補助」


「えー、殺生な」


「ジャイニー、補助も重要なポジションですよ。僕達も何度か練習したでしょ」


 俺達は基本的には表に出ない。

 特に俺は領主代理だからな。

 最前線に出るわけにはいかない。


 しかし、新兵器の初実戦投入は是が非でもみたいのだ。


「仕方ないですな。坊っちゃん、くれぐれも無理をせず。儂らの言うことをよく聞いていくださいよ。特にジャイニー」


「ちぇっ、いつもオレばっかり」



 さて、その新兵器とは。

 形はバリスタ。大型弩級だ。

 ただし、矢弾ではなく、土魔法バレットが飛び出す。

 しかも連続発射可能。

 有効射程距離も百mをゆうに越す。


「バリスタだけじゃないぞ。お披露目は。新型結界ドームも参戦だ」


 新型結界ドームとは。

 個人携帯型の結界で、半径数mの結界を個人を中心に張り巡らす。

 従来の結界の欠点は外から攻撃を防ぐかわりに、内からの攻撃をしにくいことがある。

 結界に隙間をあけて攻撃せざるを得なかったのだ。


 その結界を改善した。

 登録した個人の魔法攻撃を結界は素通りさせるのだ。

 


「よーし、すぐに展開するぞ!」


 村に到着すると、すでにワイバーンの群れが群がっていた。

 なんとか、村の結界がそれを防いでいる。


 俺達は結界に通り道を作ってもらい、結界の外に出た。

 すぐに新型結界を張る。

 持ってきた新型バリスタは三台。

 ワイバーンは十二体。



「準備ができたチームから随時攻撃せよ!」


 バリスタチームとは。

 索敵係兼バリスタを動かす係二名

 射出係一名

 の計三名からなる。


「一班、準備できました! 発射します!」『ドンドンドン!』


 だいたい一秒間隔でバレットが発射される。

 バレットは直径三十mmの大型スラグ弾を模倣した。

 弾頭の先に重心を置き、ライフリングすることで命中率を高めている。


『グギャー!』「やったぞ!」


 距離は百mほど離れている。

 が、連続してバレットがワイバーンに吸い込まれ、落下していく。


「よっしゃ、俺達も!」


 次々と新バリスタを展開させ、ワイバーンを狙い落としていく。



『ギャー!』

 

 五体ほど落としたところで、怒ったワイバーンが俺達に向かってきた!


「よし、俺達の出番だぞ! ジャイニー、スキニー、いいか!」


「へへへ、そうこなくっちゃ!」「いつでも!」


 俺達補助員の役割は、バリスタのうち漏らしたワイバーンが攻めてきたときに対処する係だ。

 無論、俺達だけじゃない。

 バリスタ係以外の領兵も魔道具を握りしめ待機する。


 バリスタは重くて取り回しが難しい。

 近接戦闘には向いていないのだ。

 その代わり射程距離が広い。

 俺達はその逆だ。



「先頭の一体。狙え。発射」


 俺達の攻撃は三種の魔法を混合させる。

 俺が火魔法。炎裂弾。

 ジャイニーが土魔法。バレットブラスト。

 スキニーが風魔法。乱風刃。


 それぞれ範囲攻撃である。

 ショットガンのように近づいた敵を攻撃できる。

 


『『『グギャー!』』』


 次々と俺達はワイバーンをほふっていく。


『ドガーン!』


 それでも撃ち漏らしたワイバーンが結界に突撃してきた。

 しかし、結界はワイバーンの体当たりを跳ね返す。



『グギャー!』


 結局、俺達はすべてのワイバーンを殲滅させた。

 時間にしてわずか数分の話だった。



【とある村長の独り言】


 ある日、やつらはやってきた。

 隣の村の話だ。

 ワイバーン。

 空飛ぶ魔物。

 隣村の奴らは逃げ惑うばかりだったらしい。


 結局、二人の村人が連れ去られた。

 建物はほぼ全壊。

 現在は領主代理が先頭にたって村を修復している。


「うちにやってきたらどうすんだ?」


「代理様から言われているのは二つ。すぐに地下室に逃げること。転移魔法陣ですぐさま領軍に伝えること」


 最近、領がどんどん変わってきている。

 領主様が病気で隠遁、息子さんのレナルド様が領の指揮をとっておられる。


 村にも変化がやってきた。

 まだ先になるが、女神教会を建立する予定だ。

 これで病気・怪我は安心できる。


 さらに、警備兵を駐屯させることになった。

 ただ、残念なことに人手不足で領兵は常駐できない。

 そのかわり、村の自警団を改めて編成した。


 もちろん、昔から自警団はあった。

 しかし、今回のはかなりの重武装だ。

 何しろ、武装魔道具が凄い。

 村で魔法を使えるものはいない。

 そのかわり、複数の魔道具を渡された。

 この魔道具はバンバン攻撃魔法を放つ。

 しかも、自動的に魔力が充填されるんだと。


「絶対の秘匿武器だからな」


 ワシらは秘密保持魔法契約を結んでいる。

 そうでないと、この武器を貸してもらえない。

 村の若い連中はこぞって武器をとって訓練している。


 それでも、ワイバーンには力不足だった。

 威力はともかく、空飛ぶ敵に当てるのは難しい。

 まず当たらない。


「ワイバーンがきたらまず避難。そして領軍にすぐ連絡」


 何度も念を押された。

 不用意に動くなと。

 心強いのは、結界魔道具で村が防衛されることになった。

 どこまで持ちこたえられるのかは未知数だが。


 ◇


 ある日、突然やつらは村にやってきた。


『『『グギャー!』』』


 この世の終わりのような声を上げながら。


「みんな、すぐに退避! 領軍に連絡!」


 農作業やってた連中は真っ青な顔で村に駆け込んできた。

 結界の入口は狭い。

 なれないと結界にぶつかってしまう。



 領兵はすぐにやってきた。

 時間にしてわずか五分ほど。

 転移魔法陣様々であるが、即応体制をとる領軍も素晴らしい。


 ◇


「おーい、いいぜ。出てきなよ」

 

 領兵がきてからワシらは地下室で震えて待ってるだけだった。

 長い時間に感じた。

 でも、たったの数分たっただけだった。

 領軍の指揮官が声をかけてくれた。


「は? ワイバーンは?」


「あそこ」


 村の広場にはワイバーンの山盛りができていた。


「!」


 腰を抜かした村人もいた。


「へへ、今夜はワイバーン焼き肉祭りだぜ」

 

 ワイバーンを食べる?

 剛毅な人ばかりだ。

 でも、ワイバーンが美味いって話は聞いたことがない。


「今な、坊っちゃんが肉を熟成させてるんだ。ちょと待ってな」


 レナルド坊っちゃんが肉を熟成?

 熟成ってなんだ?

 そういえば吊るされたワイバーンが三体。

 血抜きされているようだ。

 その横で坊っちゃんが手から光を出している。


「肉の酵素で肉を柔らかく分解するんだと」


 酵素? で分解?

 腐敗させるのと違うのか?


「全然違うらしい。腐敗は目に見えないバイキンが引き起こすんだと」


 そう言われても理解できない。


 ◇


 夜は焼き肉大宴会が始まった。

 肉なんて滅多にありつけない。

 ありつけても固いか臭い。

 ワシはあんまり好きじゃない。


「うめえ!」「美味すぎる!」


 ほうぼうから絶叫がおこった。

 ワシも思わず叫んでいた。

 美味すぎる。

 これが本当の肉というものか?

 まず、焼いた匂い。

 これがお腹を刺激する。

 香ばしい匂いもする。


「ショウユの焦げた匂いさ」

 

 ショウユってなんだ?


 焼き肉を口にする。

 肉汁がぼたぼた滴り落ちる。

 なんとふくよかな味なんだ。

 柔らかくて臭みなんて全然ない。

 夢中で貪り食った。


「慌てずに食べなよ。いくらでもあるんだから」


 村人は二百人。

 一人五百g食べたとして百kgの肉。

 

 結局、ワイバーンは二体分が村人の腹に収まった。

 そういや、残りのワイバーンは?


「坊っちゃんのバッグの中さ」


 意味不明だ。

 もしかすると、マジックバッグというやつか?


「正解。容量無限に近いらしいぜ」


 ふーむ。

 最近、坊っちゃんは賢者じゃないか、という噂が駆け巡っている。

 確かにそうだ。

 転移魔法陣、結界、各種武装魔道具、バリスタ。

 全部坊っちゃんの開発だと聞いている。


「坊っちゃんだけじゃないけどな。魔道具だったら、あそこにいるスキニーがなかなかやるぜ」


 賢者集団だということか。

 

 驚きはこれだけに留まらなかった。

 村というか領はどんどんと大変身していったからだ。



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