今後の方針と女神の加護
今後の方針と女神の加護】
今後の目標は。
決まっている。
火炙り回避、魔王回避、次元の狭間回避だ。
わかりやすい期限としては火炙り。
火炙りは俺が二十歳のときに起こるらしい。
今は十二歳。八年の間にどうにかする必要がある。
女神はこう言った。
『未来は変えることができます。今、貴方は強大な力を獲得しました。その力で悲惨な現状を改善し、明るい未来、それを是非ともその手で掴み取ってください』
周囲の環境を良くする。
要するに、周囲の俺に対する評価を好転させる。
いや、俺だけじゃない。
フェーブル家全体に対する評価を好転させる。
「(だが、どうやって?)」
女神は仲間を作れ、というのだが。
【部下というか友人】
「じゃあ、会議を始めるぞ」
「どうしたんだ、レナルド坊っちゃん」
「そうですよ。かしこまって」
「うむ。これからの俺達についてだ」
この場にいるのはジャイニーとスキニー。
彼らの父親は伯爵家に仕えている。
二人共騎士だ。
領軍の指揮官という立場だ。
彼らは伯爵家のすぐそばに住んでいる。
俺達三人は毎日のようにつるんでいる。
仲間というか、悪さ仲間だな。
通称ガッキーズ。
前世ではガッキーといえば有名な女優がいた。
でも、こっちのガッキーたちは鼻垂れ小僧だ。
そして、この場所は俺達の秘密の場所だ。
「これからの俺達?」
「ああ、そうだ。おまえたち、先日の辺境伯邸でのできごとを覚えているだろう」
「もちろんさ。坊っちゃん、もう体のほうは大丈夫なのか?」
「そうですよ。あの憎きディオンの野郎め。坊ちゃまをあんな目に合わせて」
「まあまあ。ディオンの件は横においといてだ。俺はあのあと、不思議な体験をした」
「不思議な? 坊っちゃん、確かにあれ以来ちょっと変だよな」
「ですね。随分と無口になられました。それに随分と落ち着いたと言うか」
「まず、これを見てくれ」
俺は指を一本立て、火魔法ファイアを発動した。
「坊っちゃん! いつのまに火魔法を使えるように!」
「ていうか、魔道具なしで魔法を発動!?」
この世界では魔法を発動するには魔道具が必要だ。
魔法陣を刻んだ魔道具をもって、魔法を発動する。
「今、俺は四属性魔法すべてを魔道具なしで使うことができる」
「え? 四属性すべて? いろいろと規格外すぎます! 坊ちゃま、先週まで魔法の魔の字もなかったのに。 というか、魔法の練習は嫌いで逃げてたじゃないですか」
「そうだぜ。それが、いきなりまるで賢者のようなふるまい!」
魔道具無しで魔法を発動できるのは魔法上級者だ。
しかも四属性を発動できる者も限られている。
「これだけじゃない。俺はもっと強い魔法を発動できる」
俺は手のひらを前に出すと、
「風刃!」『シュタッ!』
風刃は真空の刃を射出する初級風魔法だ。
俺は風刃を太さ十cmほどの木に放った。
「おおっ、すごい! 木を切断した!」
「これは立派な攻撃魔法! 坊ちゃま、本当にいつのまに?」
「俺は魔法を覚えたのは辺境伯邸でだ。そして、それ以来ずっと魔力向上の訓練を重ねている」
「えー、坊っちゃん、ずるいぞ」
「でも、辺境伯邸で魔法を習う時間ありましたっけ。いや、仮に時間があったとしてもありえなさすぎる」
「いいか、これから話すことは秘密の話だ。誰にもしゃべらないと誓えるか?」
「なにを水臭いことを言ってるんだ」
「そうですよ。僕達の仲じゃないですか」
「いや、これから話すことはかなり信じられない話なんだ。俺は辺境伯邸で女神様にあった」
「は?」「え?」
「そして、俺は神の御業をいくつも身につけた」
「いや、それは……」
「うーん、確かにすぐには信じられません」
「女神様の話は横においておいてもだ。俺のスキルにはこんなものもある。グルだ」
「グル? 耳慣れない言葉だな?」
「グルって先生とかそんな意味ですよね。確か、教会用語だったはず。まさか、魔法を教えられる?」
「スキニーは物知りだな。そのまさかさ。俺はお前たちに魔法を習得させることができる」
俺は魔法取得訓練を重ねるうちに、『グル』というスキルが芽生えた。
「いや、オレ達は坊っちゃん以上に魔法の才能がないぞ。俺達の両親だって魔法の才能はあまりないぞ」
「いいから、俺の言う通りにやってみろ。まずは、草むらの上に座って、三人で手をつなぎ合おう」
俺は二人の手を取った。
「まず、深呼吸をして気持ちを落ち着けろ」
「「スーハースーハー」」
「気持ちが落ち着いてきたら、背筋を伸ばし脱力するんだ」
「よっしゃ」「はいです」
「肩の力が抜けたか? そしたら、指先に意識を集中させろ。すると、指先が温かくなってこないか?」
「おお!」「温かくなってきました!」
その後は、二人共無口になっていった。
内部で起きている現象に集中しているからだ。
三人が一体化するような感覚になっていたのだ。
温かい風が三人を包み込むような感じである。
俺は四属性魔法の根源を二人に伝授していく。
二人に魔法の根源が根付くのを確認した。
「どうだ?」
「おお、すっごく気持ち良かったぜ」
「まるで春のお陽さまにあたっているような感じでした」
「よし、じゃあステータスを見てみろよ」
【ステータス】
氏 名 ジャイニー・レポルト
種 族 人族
性 別 男
年 齢 十二歳
スキル 四属性魔法
その他 女神の加護(小)
【ステータス】
氏 名 スキニー・アレオン
種 族 人族
性 別 男
年 齢 十二歳
スキル 四属性魔法
その他 女神の加護(小)
この世界では簡単な自分のステータスを見ることができる。
HPとかMPといったものはないようだ。
「おお! すごすぎる! 四属性魔法が記載されてるぞ。しかもだ。なんだ、これ『女神の加護(小)』って?」
「僕のステータスにも燦然と!」
「魔法だけじゃなくって、女神の加護がついたのか? 俺にもあるぞ」
俺のには(小)はついていないが。
「凄いな。女神様の話は本当だったんだな」
「ですね。僕にも女神様の加護。嬉しすぎる! 女神様、有難うございます!」
「じゃあ、魔法を発動してみようか。指を立てて、そこに意識を集中させろ。そしたら使える魔法が浮かんでくるはずだ」
「……ああ、ホントだ。四属性魔法のファイア・ウィンド・ウォール・ウォータの項目が浮かんできたぞ!」
「僕もです!」
「発動してみな。ああ、ファイアするなら指から少し離せよ。じゃないと火傷するぞ」
「「よし、ファイア!」」
二人の指先に火が灯った。
いわゆるチャッカマンだ。
「おおお! 人生初魔法だ! アチチ!」
「ジャイニー、坊ちゃまの言う事聞かないから」
「うるせ」
「それにしても、本当に感激しました!」
「どうだ、俺の女神様の話、信用するか?」
「ああ、信用するぜ、坊っちゃん!」
「魔法を伝授するなんて聞いたことありません! しかも魔道具なしで! いきなり魔法上級者になったようです。まさしく神の御業。女神様の話、信用します!」
あの女神は何度も強調した。
『仲間を作りなさい』と。
正直、俺は親友に裏切られ婚約者を寝取られた。
人間不信でもある。
だが、仲間を作る必要があるのは理解できる。
ただでさえ、ワケのわからない世界にいるのだ。
そんな中で俺一人の力なぞ、たかが知れてる。
孤立して女神から授かった力を披露すればどうなる?
強大であればあるほど、俺は周囲から浮き上がるだろう。
女神は言った。
ついには魔王認定されると。
それは脅しでも何でもないことはすぐに理解できた。
『仲間を作る』
まずは、ここから始める。
今の俺には心の奥で痛むものがあるが、気にしてはいられない。
仲間の第一弾として、俺はこの二人を選んだ。
女神が俺に見せた俺の火炙り刑。
それだけじゃない。
そこにいたるまでの俺の半生も俺に刻み込まれた。
まるでフラッシュバックのように。
俺の周囲、家人も領民も俺たち家族に牙を向いた。
刑場の周囲を埋め尽くす彼らの血走った目。
だがジャイニーとスキニーは俺を裏切らなかった。
最後まで俺に付き従ったのだ。
ひょっとしたら、俺と悪さをしていたためか?
それで転向できなかっただけなのかもしれない。
どうであろうと、二人は俺を裏切らなかった。
それは事実だ。
もっとも、二人は俺が処刑される前に群衆により命を落とすわけであるが。
そんな彼らの未来を俺共々回避するぞ。
【密かな俺だけの目標】
ところで、現状の俺。
「(この体型はありえんだろ)」
ちょっと醜すぎる。痩せたい。
顔の脂性も肥満故だろう。
痩せれば、まともな見た目になるんじゃないか。
こちらは目処がたっている。
鍵は魔法の練習だ。
一般的に、魔法使いは痩身だ。
魔法を使うと魔力も使うが体力エネルギーも使う。
運動したのと同じ効果があるのだ。
だから、ちゃんとした魔法使いに肥満はいない。
逆にいえば、太った魔法使いは馬鹿にされる。
俺の両親が典型的だ。
二人共、元来優秀な魔法使いである。
しかし、怠惰な生活のために激太りした。
魔法使いとしても軽蔑の対象となっている。
レナルドは魔法の練習は嫌いでしょうがなかった。
何しろ、練習をしても効果が出ない。
練習は辛い。
好きになる要素がない。
「(今は違うぞ。魔法は憧れなんだ。それに、やればやるほど魔法がうまくなるし楽しくて仕方がない)」
楽しすぎて、練習をセーブする必要がある位だ。
「(それにな、レナルドの両親はクズだが、元々ルックスは最高だったんだ)」
現状では俺は確かに醜い。
だが、両親の美形DNAを受け継いでいるはずだ。
痩せれば、俺も美形になるんじゃないか。
前世では俺は平均的な見た目だった。
芸能人なみの格好良さに憧れがないわけじゃない。
かわいい女の子から称賛を浴びたい。
外見だけじゃないけどな。
問題は山積みだ。
両親の問題。食事の質向上。
魔法以外のスキル向上。女神教会への訪問。
いくらでも出てくる。