領軍の充実 住民の会話
「では、第二回領主代理会議を始めるぞ」
出席者はガッキーズの二人、領軍トップである父ちゃんズ。
「前回は領政のざっくりしたテーマを話した。本日は、個別の安全保障について話したい」
「要するに領軍の話ということですな」
「そうだ。前回では外敵からの守りとして領軍を充実させたいという話をした。今回は、領軍を内なる敵への備えから見ていきたい」
「内なる敵ってなんだ?」
「領内で活動する様々な組織、それから犯罪者といった奴らだな」
「犯罪者は当然として、組織とは教会、ギルドってとこですか」
「そうだ。俺は利権に切り込んでいくつもりでいる。当然、その利権に関わるものが対抗してくる。血みどろの闘いになるだろう」
「ですな。おまんまの食い上げですからな」
「現状では俺は甘く見られているだろう。さらに、領軍の力も測りかねているだろう」
「領兵は訓練のお陰で見違えるほど力が向上してますが、それを示す機会がありませんやね」
「ああ、そこでだ」
・領軍は最低でも三百人体制にする。
・武装魔道具を充実させていく。
・郊外に広い訓練場を整備する。
「でな。軍事訓練は見せるわけにはいかない」
「手の内をさらけ出してしまいますからな」
「ああ。だから、遠くからでも領軍がおっかなそうだ、ということを示したい」
「どうするんで?」
「そこでだ。クレール・レポルト司令官とセザール・アレオン副司令官の二人にヒーローになってもらう」
「「は?」」
「ここに二本の魔道具がある。試射したいから、少し郊外に行こう」
俺達は転移魔法陣を使って、郊外に出た。
「ここは俺が訓練場予定地にしている場所だ」
「坊っちゃん、手回しがいいですな。で、それが新型の魔道具ですかい」
「そうだ。まず、これは爆発系の魔道具だ。みんな、これを被って目と耳を覆ってくれ」
俺はハーフヘルメットを渡した。
これにはバブルシールドと耳当てが付属している。
バブルシールドとは顔を保護する透明の覆いだ。
材質はとある植物の樹液。
固化プラスチックのような性質を持つ。
「随分と格好いいな……坊っちゃん、こうか?」
「そこには、対物理・魔法衝撃を和らげる防御魔法がかかっている」
「これが新しい領兵の装備なので?」
「ああ。これだけじゃないが、頭部についてはこんな形にしたいと思っている。俺達の周りは結界ドームで防御されるが、眩しかったりするからな」
「「「準備完了!」」」
「よし、では発射するぞ。エクスプロージョン」
『ドン……ズガガガーン!!!』
五百mほど離れた場所から閃光、爆音、爆風、
そしてモクモクと沸き立つキノコ雲。
「おおおお!なんて衝撃!」
「これが新型の爆発系魔法魔道具だ。続いて、新型風魔法魔道具」
「ブラストストーム!」
『ゴオオオ!!!』
あたりが暗くなったかと思うと、見たことのない激しい渦巻きが立ち上り、次々と地面の様々なものを巻き上げていく。
『バラバラ』
吹き上げられた石がこちらまで降ってくる。
結界がすべてを遮断していく。
結界がなくて直撃したら大事故につながるだろう。
「なんだ、これ。石だけじゃないな。こぶし大の雹までふってきたぞ!」
「想定よりも攻撃力が強かったな。まあ、こんなもんだ」
「こんなもんって。こんなの敵に向けたら、一発で相手は全滅じゃないですか」
「ああ。いわゆる戦略武器だな」
「これなら伯爵の魔法と同等以上ですな。凄まじい」
「うむ。だがな、この武器の戦略的効果は外敵に対してだけじゃない」
「? ああ、なるほど。これを見たものは全員がビビりますな」
「そうだ。ここは領都から数kmほど離れた場所だが、領都からでも見えているはずだ」
「今頃は領都は大騒ぎということですか」
「そうだろうな。でだ。この魔法を使ったのが領軍だとわかったら?」
「なるほど。坊ちゃま、抑止力が半端ないですね」
「ああ。そしてだ。爆発系魔道具を扱うのが司令官、そして竜巻魔法魔道具が副司令官だ」
「儂らが?」
「そうだ。領軍には父上同等以上の魔導師が二人いるとアピールするんだ」
「それが坊っちゃんの言ってたヒーローってやつですか」
「ワシら、以前よりも魔法が使えるようになったとはいえ、人並みでしかないですが」
「いいんだよ。領軍の強さの象徴として君たちに活躍してもらう」
「それにしても、魔道具を使えば超一流魔導師が即席で完成ということですか」
「王立騎士団に所属する魔導師たち。著しく価値が落ちますな」
「魔道具は子供でも扱えることができるからな。まあ、無闇にもたせると管理上の問題が出るから、信用のおけるものにしか渡せないが」
「確かに」
「それから、兵士にもたせる通常の攻撃魔道具。これも一斉射撃すればそれなりの音がする。というか、練習中はあえて音を大きくする」
「なるほど。音で威嚇するわけですな」
「ああ。何やら領軍は凄い魔導師が揃っている。その中にとんでもない魔導師もいる。そう印象づけることができれば成功だ」
「それが戦略的な意味ということですな」
「その通り。使用よりも抑止力としての効果が大きいだろうよ」
【住民の会話】
「先日はおったまげたな」
「ああ。西の空に沸き立つキノコ雲」
「びっくりしたなんてもんじゃない。天変地異の前触れかと思ったわ。あれ、領軍の司令官が放ったらしいぞ」
「司令官が? 確か、剣は達人級だが魔導師としては並という話だったが」
「実力を隠していたのか」
「隠遁されてるフェーブル伯爵クラスの攻撃だっていうじゃねえか」
「それとな、おぞましい竜巻もまきおこってたろ?」
「ああ。その後に雹が降ったやつな」
「結構でかいやつがな」
「あれな、竜巻魔法の結果らしいぞ。発動したのは副司令官」
「じゃあ、何か。伯爵クラスの魔導師が領軍には二人いるってことか」
「伯爵だって、王国では有数の魔導師と言われていたんだ。とんでもない戦力だな」
「それだけじゃねえぞ。ここんとこ、領兵がバンバン魔法を放っている音が聞こえるだろ?」
「以前から領兵の魔法訓練は有名だったがな」
「それがな、以前よりも強力な魔法を放っているって専らの噂だぞ」
「そうなのか?」
「だってな、新しい領軍訓練場。前よりずっと遠いところにある。それでもこれだけ音がするんだ」
「あー、なるほど。見に行ってみたいな」
「結界で遮断されてて近づけねえ。そのかわりにな、訓練風景の一部が女神教会の映画館で上映されているらしいぞ」
映画館は動画を公開する場所として設けた場所である。
「あそこ信徒しか見れないじゃねえか」
「だから言ったろ。信徒になれって」
「何度かチャレンジしてるんだが、はねられちまうんだよ」
「へ、どうせシスターにお近づきになりたいとかエロい気持ちがあるんだろ」
「それのどこが悪い! あんな美形がいれば是非とも御姿を拝見させてもらって、できれば握手の一つぐらい、と思うだろが」
「おまえ、まさかそれ以上のことを考えていないよな?」
「は? か、考えるわけ無いだろ? ば、ば、馬鹿なことをいうな」
「ああ、滝に打たれて修行してこい。そうじゃなきゃ、おまえは一生信徒になれないぞ」
「はあ、殺生な」




