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呪いを解く・マルコシアス・メイド達のおしゃべり

「呪いの鏡ですか? 確かに、『アンチ・カース』という呪いを解呪する精霊魔法があります」


「シスター、あるんですか!」


「残念ながら、未だ私はその魔法を覚えておりません」


「ああ」


「ただ、その鏡を見せて頂けませんか。ひょっとしたら魔法が発現するかもしれません」


 ◇


「なるほど、この鏡ですか。確かに瘴気がただよっていてただ事ではなさそうな鏡ですね」


 シスターはお供を連れて母上の部屋に来ていた。


「どうでしょうか」


「今しばらくお待ち下さい。女神様と交信いたします」


 シスターは瞑想に入った。

 俺は改めて感嘆した。

 実に美しい。

 ルックスが綺麗ということも当然ある。

 それ以上に部屋の中が浄化されていく。


「……ああ。交信しました」


 ちなみに、女神様と実際に話しているのではない。

 感覚的に波長が同調したような感じを受けるのだ。

 俺も初級ながら、神聖魔法が使えるからな。


「では、やってみます。アンチ・カース」


 ああ、見える。

 シスターの手から浄化された波動が放たれ、鏡を包んでいく。

 それとともに鏡を覆う黒い瘴気が薄れていく。

 そして、完全に瘴気がなくなり鏡は光で包まれた。


「!」


 光が薄れると、鏡ではなく1人の女性がたたずんでいた。

 鏡の中の母親の若い頃の姿だという美しい女性だ。

 

「……」


 母上は目を瞑ったまま、微動だりしない。

 その瞬間、母上は床に崩れ落ちた。


「「「!」」」


 慌てて数人のメイドが母上を抱きかかえ、別室に連れて行った。



「ここまでが私の限界です。魂がこの世界と同調しておりません。ですから、正気が戻るには時間がかかります」


「シスター。それともう一つお願いがあるのですが」


「はい、何でしょうか」


「一度、父上もみてもらえませんか。俺は不思議なんです。父上は昔はちゃんとした人だったといいます。しかし、ある時点で全く真逆の存在に変わったと。父上は何か禍々しいものに触れたのでは、という気がするんです」


「わかりました。では行きましょう」


 ◇


「ああ、そばによるな、その女性は悪魔だ、たのむ、そばによるんじゃない!」


 父上は奴隷契約をしたので、拘束は取れている。

 そして、父上はシスターを見た瞬間に怯え始めた。


「ああ、確かに。閣下も何らかの呪いを受けていますね。ただ、こちらの呪いは強力そうです。今の私ではいたずらに閣下の体力を消費させるだけのようです」


「では、どうすれば」


「まずは私の実力が上がること。ただ、時間がかかりそうです」


「ふむ」


「もう一つの解決法はこの呪いをかけた術者がいるはずです。その術者を討伐するしかないですね」


「術者なんて、簡単に見つからないんじゃないですか?」


「そのとおりです。砂浜に落ちた特定の砂粒を探すようなものです」


「ですよね」


「ただし、解呪げじゅしようとするとその行為は術者に跳ね返ります。強い苦しみとともに。呪いの倍返しという現象です」


「ほお」


「私が定期的に閣下の呪いに解呪魔法をかけましょう。解呪はできないでしょうが、術者は強い苦しみゆえにこちらに寄ってくるかもしれません」


「いや、それはシスターを襲うためではないですか?」


「そうです。苦しみを排除したい、つまり私を排除したいということですから」


「いや、それはいかんでしょ」


「問題ありません。おそらく術者はよこしまな存在でしょう。並の存在ではありません。人ではない可能性が強いです。ですから、私は女神教会で相手と対決します。女神様の加護がありますから、大丈夫です」


 おお。

 いつもはおっとりとしたシスターが人が変わったようだ。


 ◇


 結論を言おう。

 術者は捕まった。

 なんと俺に。

 やつは悪魔だった。


 女神教会に立てこもるシスターは強敵すぎて近寄れなかったのだ。

 そこで、俺をのっとって反撃しようとしたらしい。


 ところが、俺は女神様の加護持ち。

 術者の攻撃を全て無力化したのだ。

 悪魔は女神様が苦手らしい。


 俺はすぐさま奴を拘束。

 拘束したことを伝えると、黒猫が飛んできた。


『御主人様、流石ですね。悪魔の処置法は我らがよく知っておりますので、まかせて頂けませんか』


 ◇


 悪魔の名前はマルコシアスだという。

 黒犬の姿をしているが、人間の言葉をしゃべる。

 黒い大きな翼があり、普段は身体に収納している。


「どうだい、例の悪魔は」


『はい。大人しく私達の処置部屋で裁きを受けています。まあ、1日中叫び声をあげていますが』


 そういうのは大人しいというのか。


 悪魔は殺しても悪魔界で生き返るらしい。

 生き返るとレベルとかスキルは初期状態になる。

 それでも悪さをしに再び人間界に戻って来る。

 

 そういう悪魔を裁くには。

 なんと、回復魔法をかけることだという。


 回復魔法は悪魔にはとんでもない苦痛らしい。

 人間的に言えば、煉獄の炎で焼き尽くされる痛みに相当する。

 その分、魂が浄化される。

 死にはしない。


 そして、最も効果的な回復魔法がリジェネ。

 体力の継続回復をする魔法。

 リジェネで悪魔を長期間『浄化』する。


 浄化されてようやく悪魔を『討伐』しとたみなされる。

 つまり、伯爵が呪いから開放される。



「どのくらい?」


『通常は数ヶ月といったところですね』


「どのようにして浄化されたかを判別するのかな」


『魂が浄化されていくのは視覚的にも嗅覚的にもすぐにわかります』


 悪魔の真っ黒な魂は初期ではまさしく焼け焦がれる炎とニオイがするという。

 やがて炎とニオイがおさまり、白い光を放ちだすと浄化終了らしい。


 この悪魔への裁きは結局数年間に及んだ。

 格の高い悪魔であるらしい。



【メイド達のおしゃべり】


「きゃー! 奥様が! お館様が!」


「ちょっと。いつまでパニクってるの」


「これが落ち着いていられますか!」


「もう終わってから半日は経ってるでしょ」


「だって。衝撃的な事件が二つも同時に!」


「奥様の件さ、メイドの誰かが冗談ぽく言ってたよね。魔道具の鏡に吸い込まれるって」


「ええ。私も聞いたわ。まさか、本当になるとは」


「その鏡、誰か見た人いる?」


「あ、私が第一発見者。全然信じられなかったわ。だって、物凄く綺麗な人だったのよ? スタイルもスリムだったし。奥様とは別人だったわ」


「奥様じゃなかったの? 何がなんだかわからないわね」


「奥様の昔を知るメイドが何人かいるから判別できたのよ」



「で、お館様は何をやったわけ?」


「わからない。でも、何か取り返しのつかないことをやったのよね?」


「でもさ、それであっさり捕縛されるわけ? お館様って、王国有数の魔導師だって話はどうなったの?」


「とんだ見掛け倒しってことだったんでしょ。第一、お館様が訓練しているところ見たことがないもの。あれで魔力が下がらないなんてずっと不思議に思ってたわ」


「ああ、私も。ぶくぶく太っている魔導師って、普通いないもんね」


「だとしてもね、坊ちゃまがお館様を制圧したってことでしょ? いくら実力が下がったとは言え、坊ちゃまの実力って私達が考えているより高いってことでしょ?」


「あくまで噂なんだけど。冒険者ギルドではB級認定されたとか」


「待ってよ。まだ十三歳よ。それに、一年前は魔法のまの字もなかったのよ!」


「でも、ここ一年の訓練はハードだったでしょ。時々気絶したりしてたし」


「だとしても」


「お館様の血を受け継いだってことよね」


「血と言えば、顔とかもエントランスの肖像画そっくりになってきたし」


「あれ、驚きよね。めちゃイケメン、美少年すぐる」


「ホント、別人よね」


「お館様は今は地下室に幽閉されている?」


「そうみたいよ。奥様と一緒に」


「女神教会のシスターに相談するって話みたい」


「はあ、どうなるのかしら」


 ◇


「メイド長と執事の話、聞いた?」


「聞いた、聞いた! 奴隷に落とされたってね!」


「それも、坊ちゃまが!」


「凄いわね、実の父親を隠遁に追い込んだと思ったら、間も開けずに、メイド長と執事の横領の証拠を暴き出し、有無もいわさず奴隷に落とす。顔もイケメンだけど、行動も領主の風格あり、ってことね」


「確かに。でも、本当に坊ちゃまの指揮で行われたの? 領軍の二人の指揮官は?」


「今ね、坊ちゃまは領軍を完全に手中にしてるわよ。当初はお館様とともに裁きを受けるつもりだったみたい。でも、坊ちゃまが説得したんだって。二人がいないと領がガタガタになるって」


「うわ。若いのに凄い現状分析力ね」


「うん、それと説得力」


「領軍も掌握してるしね。領兵の坊ちゃまへのリスペクト、見たことない?」


「あー、兵士たち、キラキラした目で坊ちゃまを見てるわね」


「領軍指揮官の二人にしても、坊ちゃまを軽く見てる風情なんてこれっぽちもないわ」


「というか、礼儀もそうだけど、仲もすごくいいわよね」


「うん。あと、女神教会ともね。女神教会と領軍と坊ちゃま、そしてジャイニーとスキニー。彼らがこれからの領の主流になりそうよ」


「噂だけど、代官なんかもバシバシ追求するみたいよ」


「一気に膿出ししてるわけね。あー、真面目に働いていて良かった」


「ま、私はメイド長に仕返しするけど」


「私もする。ホント、腹たってたから。仲良かった娘もストレスで病んで辞職したのよね」


「坊ちゃまも遠慮なくこき使えって言ってるし」


「坊ちゃま、私たちの気持ちをよくわかってるわ」



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