子供たち先生になる・子どもを集める
女神教会孤児院の子供たち。
全員が算盤三級レベル以上になった。
十分以上に即戦力というか、この世界では過剰戦力だ。
だから、算盤の講師になってもらうことにした。
子供たちも承認欲求が満たされて得意満面だ。
喜んで講師をしている。
「こりゃ、大人よりも子どもに絞って教えたほうがいいな」
「孤児のほうがいいね」
特に農村だと子どもも貴重な労働力だ。
学校に通わせるのに抵抗感のある親が多い。
その点、孤児はそんなことはない。
だから、そのうち孤児を集めるようになった。
世話係として、寡婦やお年寄りを雇用。
孤児を教育しているのは福祉事業の面も確かにある。
でも、むしろ職業訓練の側面が強い。
王国では強い計算力の持ち主は即戦力なんだ。
多くの人が一桁の加減算を指を折って計算する。
掛け算・割り算なんて教えたもらったことがない。
帳簿があるのかどうかわからない。
あっても間違いが頻出する。
もちろん、複式簿記なんてのはない。
家計簿レベルがせいぜい。
そういう世界の中で子供たちの計算力は非常にありがたいのだ。
そして、算盤のできる子は事務作業全般にも強い。
もちろん、即戦力として期待している。
また、子供たちに魔法を授与するのも忘れない。
子供たち的にはこちらがメインでもある。
王国では魔法の強さはそのまま地位の高さを示す。
庶民では魔法が発現しても生活魔法程度で終わることが多い。
ちゃんとした攻撃魔法レベルにまで上達するのなら就職に困らないし、それなりの扱いを受けるのだ。
まあ、ゆくゆくは魔石魔導具を流行らせて、魔法の強さがポイントにならない世界にするつもりだけど。
【孤児を集める】
女神教会に最初からいた十五人の孤児たち。
卒業予定のジョルジュを始めとしてみんな予想外に伸びた。
魔法力と計算力は王国の子どもとしては飛び抜けているだろう。
いや、計算力に関してはチートレベルにある。
偶然能力のある子が集まったわけではないだろう。
普通の子が多いと思う。
それでもこの結果。
王国の人達にはかなりのポテンシャルがある。
それは、後から参加した二十人の孤児たちも同様だ。
早くも才能を見せ始めている。
全員に魔法が発現したし、算盤はすでに五級をクリアするレベルだ。
「これだけ孤児達が結果を出すと、欲が出てくるな」
「お坊ちゃん、ほうぼうから孤児を集めますか?」
「孤児院は経営の厳しいところが多いですから各所の孤児院に打診してもいいかもしれませんね」
「あと、シングルマザーとか」
「ああ、女手ひとつで頑張っている女性も呼びかけてもいいかもしれない」
「その女性にも訓練してもらえれば、就職に有利かも」
「というかさ、女神教会の引きが結構あるだろ? それと、領の出張所も欲しいし。見込みに対して文官が全然足りてないんだよ」
文官だけじゃない。
薬師、魔導具師も不足している。
間に合いそうなのは、鍛冶師と料理人、酒関連。
要するにドワーフたちだ。
来たがっているドワーフが大勢いるらしい。
「奴らは酒飲みたいだけじゃん」
「多分な。でも、奴らの技術への情熱は侮れんからな。政治的な色もないし」
「オレたちへの侮蔑もないぞ」
「ああ。ない、というか関心がないんだろうな、いろいろとスキャンダルとか」
「教会的には回復魔法のできる人が増えてほしいのですが」
「シスター、回復魔法は痛し痒しですよね」
「ええ、困ったものです」
回復魔法が発現したと聞くと真実教会が飛んでくる。
他の組織に雇われていても強引に連れ去ることもある。
そして、教会で馬車馬のように働かされる。
最後はボロ雑巾のように捨てられる。
それはあくまで噂ではあるが、庶民の間では強く信じられている。
だから、回復魔法が発現しても黙っている人達が多いとされる。
「女神教会は真実教会と違うことをもっとアナウンスできればいいんですけど……」
「PR手段は新聞とかポスターとか口コミとかありますが」
実は、俺はドワーフたちとビッグな魔導具を研究中だ。
それは動画撮影と再生装置だ。
黒猫には動画撮影・再生スキルがある。
そのスキルをなんとか魔導具に落とし込めないか。
俺も前世の知識が多少なりともある。
それに、ひょっとしたらそのスキルも発現する、そういう期待を持っている。
【生涯教育の場】
子どもたちに積極的に教育を与える一方、大人対象の講座も開くことにした。
読み書き・計算ができると職につきやすい。
シングルマザーの女性は必須。
喜んで学習する人が多い。
あと、兵士も最低限の読み書き・計算は必須。
→能力のある人はどんどん昇進。
希望があれば文官転職も可能。
こうして成人向けのいわば生涯教育の場を設けると、やはりこちらでもどんどん手狭になっていった。
生徒の増加に講師の数・質がおいついてこない。
「もう少しすれば卒業生を中心に講師の数も増えると思うんですけどね」
人員不足は多方面にわたっている。




