獣人レッドの独り言
ボクの名前はレッド。
現在十三歳。
獣人で両親とともにスラム街の獣人エリアに住んでいる。
他の獣人がそうであるように、ボクたちも貧しい。
とにかく、まともな職がないんだ。
ボクも六歳ぐらいには働いていた。
ゴミ拾いとかそういうの。
ある日、女神教会で清掃員の募集をしていた。
街を綺麗にしたいという。
ああ、それならボクにもできる。
なんとか、定員に潜れ込めた。
仕事は超楽だった。
浄化魔道具で街の汚物なんかを浄化していくだけ。
あっけないほど簡単だった。
この浄化魔道具。
凄すぎる。
だって、ボクは魔法が使えない。
魔力がないんだ。
だから、魔道具は使えないはず。
ところが、この魔道具は関係ないという。
誰でも使えるという。
とんでもない性能だ。
だから、秘密保持魔法契約を結んでいる。
よくわかる。
この魔道具が革命的なものだってことは。
ゴミさらいとか下水の掃除とかはキツくても給料が安いってのが相場。
女神教会で清掃員、ぶっちゃけ日給はよくない。
三千ギルだから。
でも、回復薬をもらえた。
これは今、巷を賑やかしている。
安くて性能が高いって。
それでも、一本二百ギルするから、なかなか買えない。
ボクたちは食べ物でさえも満足に買えないんだ。
それに、三千ギルでも全然文句はない。
楽だったし、一週間分の仕事がある。
普通、溝さらいだときつくて五千ギルぐらい。
溝さらいは次の日、身体の動かないことがある。
その位重労働なんだ。
でも、こっちの仕事は楽勝。
どちらがいいか、と言われると三千ギルのほうがいい。
最終日、給料をもらった。
そのときに担当の人、というかボクと同い年ぐらいの子供なんだけど、その子に言われた。
ちょっと女神教会まで来てって。
ああ、なんかやらかした?
ドキドキしながら女神教会に行く。
すると、信徒にならないか、と言われた。
え。
女神教会の信徒って希望者は多いけど、なかなかなれないって聞く。
ボクたちは端からあきらめていた。
獣人だからだ。
王国では獣人差別がある。
むちゃくちゃ酷いわけじゃないけど、真実教会なんかは門前払いだ。
女神教会も同じだと思っていた。
ボクは戸惑った。
彼はいう。
獣人とか関係ない。
振る舞いがどうか、が全てだと。
そして、ボクは仕事ぶりが評価されたらしい。
誠実に仕事をこなしたと。
ああ。
ボクは真面目だけが取り柄だと思っていた。
でも、それを評価してくれる人がいる。
感激した。
スラムのさらに底辺に住まうボクを見てくれた人がいる。
もちろん、了解した。
喜び勇んで両親に報告した。
両親とは手を取り合って喜んだ。
後日だけど両親も信徒にさせてもらえたんだ。
でも、喜びはこんなもんじゃなかった。
ボクは女神教会の学校? でいろいろ勉強した。
なんと、ボクにも魔力があった!
そして魔法が使えるようになったんだ!
先生であるシスターが言うには、獣人にも魔力は備わっているという。
ただ、それを表に出す仕組みに障害があるらしい。
その障害をシスターは取っ払ってくれた。
そして、ボクは基礎魔法のファイアを発現した!
「獣人では初めてのケースかもしれませんね」
そう言われた。
言われるまでもない。
今まで、獣人が魔法を発したなどと聞いたことがない。
ボクの両親もたいそう驚いていた。
いや、獣人街のみんなに瞬く間に噂が広がった。
その日の夜はボクを見に来る獣人がたくさんいた。
魔法のやりすぎで魔力欠如を起こしてひっくり返ったぐらいだ。
今、ボクが両親と一緒にやっていることは、獣人の紹介。
人間性の良い獣人を教会に連れてきて信徒にすること。
噂を聞いて自己推薦してくる獣人がたくさんいる。
でも、ボクは忖度を排して人を選んだ。
恨まれても決して自分を見失わなかった。
ボクには責任があるのだ。
そして、すでに十人三家族の獣人を紹介した。
住まいも変わった。
大荒野の女神教会門前街に転居した。
目抜き通りから少し離れたところにある三階建ての集合住宅。
とんでもない住宅だった。
生活便利魔道具がいっぱい。
冷暖房があり、温水冷水使い放題でトイレは分解してくれる。
冷蔵庫、灯り、コンロ、その他いろいろあって、しかも全て魔力が自動補充される。
これらも秘密の魔道具だ。
秘密が漏れると非常にやばい代物。
それだけ革新的先進的なものなんだ。
食べ物も凄い。
見たことのないものが毎日食べられる。
集合住宅には食堂があって、ボクたちは無料で食べられるんだ。
で、ボクたちは獣人の紹介をしつつ、兵士の訓練もしている。
武器も魔道具。
物凄く強力。
両親も魔法を使えるようになったけど、ボク達の魔法レベルは基礎レベル。
それが、この武装魔道具を使うと一流の魔導師なみの兵士に変身する。
他の獣人たちも同じ訓練をしている。
ゆくゆくは教会や領の兵士か警備兵にさせたいみたい。
もちろん、ボクは大賛成だ。
男で兵士に憧れないやつなんていない。
しかも、領軍の兵士なんて、簡単にはなれない。
獣人には生まれつき格闘技の素質があるらしい。
人族は魔法が強いけど、近接戦闘なら獣人に分がある。
だから、積極的に獣人を領軍に引き込みたいという。
ボクの父ちゃんはもちろん、母ちゃんもやる気だ。
仮に近接戦闘が苦手でも、この魔道具ならば遠方から攻撃できる。
体力のない子供、女性、老人でもすぐに立派な兵士になれる。
ましてや、母ちゃんは獣人で体力的に優れている。
人族の兵士が驚くぐらい。
ある日の夕方。
いつものように坊っちゃん達と瞑想をしていた。
「あれ?」
いつもと感じが違う。
一瞬だけど、オーラに包まれたような気がした。
「!」
ステータスを見てみろと言われた気がした。
疑問に思わずステータスを見てみると
『女神の加護(小)』
なる文字が燦然と輝いていた!
大騒動になった。
シスターたちや坊っちゃんたちが女神の加護を得ているのは知っている。
ボク達の中にも授かるものがいるかもと言われていた。
ボクは人ごととして聞いていた。
まさか、ボクがそんな栄誉に与れるとは思いもしなかった。
「おめでとう。おまえの誠実さが証明されたな」
レナルド様からそんな言葉をいただいた。
選ばれるのは才能とともにその人が信用たるかどうか、と言われた。
レナルド様の言葉に力を感じる。
それはボクの心の底にずっしりと響いた。
※獣人レッドは俺達の仲間となる。
つまり、ガッキーズの一員になったのだ。
魔法は得意ではないが、魔導具でいくつか使えるようになる。
頭もいい。
獣人で身体能力は折り紙付きだ。
しかも魔力は身体強化魔法を発現させた。
その結果、黒猫とタメを張るような身体能力を得ることになった。
俺達と同じ年であるため、俺達は4人揃って王立高等学院に入学するが、それは先の話。
レッドのおかげで質の高い獣人をスカウトできるようになった。
その一人が信徒の獣人デニスだった。
20歳ぐらいの男である。
いつも通り、信用度チェックをしてみた。
お金を机の上においたまま部屋を出る。
その掃除をさせるのだ。
デニスは合格だった。
俺はデニスと新たに契約魔法を結んだ。
魔法を伝授してみたが、ダメだった。
種族的なものなんだろう。
しかし、身体能力はぴかいちで剣士のスキルを授けてみるとスキニーと同じ剣士(拳士)が定着した。
そして、領兵とともに鍛えてみると物凄い勢いで剣も格闘技も上達したのだ。
ちなみに彼は二十歳ぐらいではあるが、算盤もこれまたセンスがいい。
そして何よりも人の上にたつリーダー気質を彼から強く感じた。
実際、彼は獣人から慕われていた。
自然と彼は獣人の指導者的ポジションについた。
俺はどしどし獣人を紹介してもらうよう頼んだ。
獣人とはいえ、信用できないのもいる。
そういうのはデニスチェックで弾かれる。
俺の元に来る獣人はみな素晴らしかった。
デニスが紹介されてから半年以内に獣人を二十人も雇い入れた。
大荒野村の一角には獣人たちのエリアができつつある。
もう少し散らばって欲しいが彼らは同じ種族で寄り集まる習性があるらしい。
狭い部屋に何人も押し込まれて寝たりすると非常に落ち着くらしい。




