付近の農村から出稼ぎ3&獣人
【とある農民視点】
女神教会での職場。
最高すぎる条件だ。
なのに、不満を言う輩が出てくる。
「おまえ、もう帰れ。この場には不要だ」
1人、不満を言い募る奴がいた。
事あるごとに不満を辺りに撒き散らす。
現場監督は即日、奴に首を宣告した。
「現場の空気が汚される。お前みたいなやつはどの現場にも欲しくない」
「はあ? ふざけてんのか?」
「ふざけてなんかない。一応、今日までの働き分は出す。即刻出ていけ」
こいつは村でも不平不満をはきまくり。
しょっちゅう揉め事を起こす
質の悪いことに、腕っぷしが強い。
そして、極めて短気だ。
対する現場監督。
またもや子供だ。
ここで働いているものはほとんどが子供である。
早く逃げろ。
ギタギタにされるぞ!
「ああ? クソッタレ」
案の定だ。
やつは顔を真っ赤にしている。
そういうが早いか、少年監督に殴りかかった。
だが、驚くべき光景が。
監督はその殴りかかった男をひょいとかわすと、
『ボガッ』
腹に一発、拳を叩き込んだ。
「ウゲ……チ、ク、ショウ……ああ、ダメだ」
もどしてやんの。
きたねーやつ。
それにしても、レナルド様を始めとしてスーパーな子供ばかりが出てくるな。
「鍛えてますから」
幼い顔をしながらドヤ顔をする。
この子もどうだろう、十二歳ぐらいか?
十歳になったウチの子の少し上って感じだ。
反吐を戻した男が顔をようやく顔を上げた。
すると額に
『不平不満男』の刻印が。
オラ達は大爆笑だった。
後で聞いたところによると、黒猫たちのいたずららしい。
この黒猫、剛腕だそうだ。
なんと、レナルド様たちの指導もしているという。
なんなんだ。
女神の使徒様ではないか、との噂もでている。
「村で彼が困っているようでしたら、一ヶ月ぐらいで刻印は消えると伝えてやってください」
別に消えなくてもいいけどな。
今回の騒動で、多分村八分か村追放になるんじゃないか。
◇
さて、道路は順調に延伸していき、
一ヶ月後に予定された道路は全て完成した。
やはり、魔道具は偉大だ。
これ、手作業だったら何ヶ月かかる?
いや、何年かかる?
しかも、怪我人もなく。
僅か一ヶ月で、しかものんびりと。
オラは去り難かった。
ここは天国だ。
こんな生活を与えられたら、もう村には帰れねえ。
「みなさん、お仕事ありがとうございました。で、ですね、現在門前街では移住者を募集しております。もし、希望がありましたらおっしゃってください」
おおお!
何も考えることはねえ。
オラはすぐに手を揚げた。
ああ、家族の了解も必要だが、妻も子供も嫌とは言うまい。
横にいるオラの馴染もすぐさま手を揚げた。
というか、ここいる全員がすぐに手を上げた。
「皆さん、ご希望は伺いました。ただ、すぐに移住、というわけには行きませんでしょう。ご家族や村との話し合いも必要だと思いますから、一旦は村に戻ってもらいます」
ああ、確かにそうだ。
「そしてやはりこの街に引っ越したい、ということであれば、後日村に伺いますので、よろしくお願いします」
いや、こちらこそ。
そういや、いつもよりも労働者の人数が少ないが。
「私どもはですね、仕事ぶりや誠実さなどを毎日みてまいりました。女神教会への帰依も果たしてくれました。そして、あなたたちは私どもの基準以上のものがありました」
オラ達は一ヶ月の間で女神教会の信徒になった。
いや、ここにきて数日で信徒になった。
強烈だったのは、天国と地獄の動画だった。
アレにはたまげた。
で、人数が随分と少ない理由は?
「ここにいない方は、私どもの街には合わないということでこのままお帰りになりました」
うわ。
出稼ぎに来た村人は五十人。
ここに残ったのは十人足らず。
それを喜ぶべきか。
村に帰ったら、どうやって顔を合わそうか。
オラはただの農民だ。
それも下手すると水飲みと言われるような貧乏さだ。
もうこのまま死ぬまでこんな生活が続くんだと諦めていた。
オラの取り柄は真面目さ。
逆に言えば、真面目さを取れば何も残らねえ。
だが、オラは生まれて初めて光明を見た。
いや、この一ヶ月光明を見続けて来た。
オラたちはあのお菓子を食べるたびに、歓喜を味わった。
あのお菓子を妻や子供たちにも食べさせてやりてえ。
【獣人】俺視点
こんな具合に、周辺の村々を中心にして移民を募っている。
しかし、村との兼ね具合もある。
家族の反対もあるかもしれない。
移民の増加ペースはさほど早くない。
こちらも急いではいない。
というか、急増してもらっても困る。
そんなある日、黒猫が俺に提案してきた。
『(御主人様、実直で真面目そうなやついないかなって言ってましたよね)』
「おお」
『(いましたよ、お勧めが)』
彼は信徒で犬系の獣人だという。
名前はレッド。
黒髪黒目の逞しい少年だ。
年齢は俺たちと同じ。
獣人は外見は人間と変わらない。
犬耳や尻尾は退化している。
わずかに痕跡を残すのは犬歯と毛深さ。
それと異常に耳や鼻が効く。
獣人は魔法が使えない。
魔法優先の王国では獣人は侮蔑の対象となる。
あからさまに見下されているわけではない。
ただ、言葉の節々に現れてくる。
頭は悪くない。
身体能力はかなりある。
俺はいつもやっている信用度テスト
机の上にご銭をおいて掃除させるテスト。
そのほかにもいくつかの信用度テストを考えた。
彼はいずれのテストも合格している。
期待して成長を見守りたい。




