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俺の部屋と現状 メイド達のおしゃべり

 夕食後、俺は二階にある俺の部屋に。

 ちなみに、両親の部屋は一階だ。


 すでに夕方と言える時間は過ぎていると思う。

 が、まだ外の景色が見える程度には明るい。

 白夜というやつだろうか。


 窓をあけて空を眺めると、大きな月。

 イメージにある月よりも数倍大きい。

 しかも、その隣には小さい月。

 つまり、この世界には大小の二つの月がある。


 そういえば、この窓にはめられてあるガラス。

 牛乳瓶の底みたいだ。

 分厚くて歪んでいる。

 辺境伯の屋敷でもそうだった。


 窓全体は十cm角程度の格子に区切られている。

 そこに歪んだガラスがはめられてあるのだ。

 遠目にはデザイン的といえる。

 しかし、近くによれば低品質ガラスが目立つ。

 これでも高級品らしいのだが。


 部屋の壁は漆喰だろうか。

 ところどころにひび割れが生じている。

 長年、手入れされてないようだ。


 床は凸凹した木のフローリングだった。

 大きな節が目立ち歩くとギシギシいう。

 日本ではあまりお目にかかれないような低品質だ。


 部屋にはベッド、そしてタンスと机・椅子。

 装飾もない、地味なものだ。

 だから、全体としては俺の部屋は貧相だ。

 一階は全体的に高級感にあふれるのだが。


 まあ、概して両親は俺に興味がないからだ。

 それが俺の部屋に現れている。


 便利な面もある。

 部屋備え付きの洗面所があるのだ。

 俺は立ち上がり、洗面所に向かった。

 そして、顔を洗うついでに鏡を見た。

 鏡は銅鏡だった。


「醜い」


 そこには蒲生兼人の顔はなかった。

 栗色の髪・青目。

 顔がパンパンに膨らんだこすっからい顔。

 目が脂肪に埋もれている幼い少年の顔。

 レナルドだ。

 

「まるで豚じゃないか」


 俺は丸々と太っていた。

 顔には性格の悪さが浮かび上がっていた。

 それを脂ぎったニキビが彩っていた。



「それにしても、辺境伯からの帰りはいろいろ酷かったな」


 俺は辺境伯の館からの帰り道を思い出していた。

 馬車で三日ほどの距離だ。

 まず、馬車の乗り心地の酷さに閉口した。


 道中では領民から強い反応はなかった。

 俺達には多少眉を潜まれるぐらいだった。


「酷かったのは、領地に入ってからだ」


 俺の乗る馬車だと知ると、領民が大慌てする。

 そして踵を返し家に駆け込んで扉を閉めてゆく。

 カーテンの隙間から睨んでくる人までいた。


「レナルド、お前、一体何をしたんだ?」


 それは館に戻っても続いた。

 流石に使用人は俺から逃げはしない。

 しかし俺を見た途端に顔を強張らせる。

 そして、おどおどとお辞儀をする。


 執事などもっと露骨だ。

 俺を見た瞬間に露骨に蔑む目をした。


 いや、厳密には態度にあらわしたわけではない。

 だが、俺は日本で経営者の末席に連なっていた。

 人の顔を読むのには慣れている。

 そして、俺はすぐに気づいた。

 執事の目の奥に潜む蔑視あるいは嫌悪感に。


「俺って嫌われすぎだろ」



 改めて思い出す。

 あの悪夢。

 俺が火炙りの刑に処せられる夢だ。


 実に生々しい夢だった。

 我が家はわがままし放題だった。

 その結果が家の使用人を含む領民からの一揆だ。

 そして、俺達は捕まり処刑されてしまった。


「レナルドの性格と容姿。最低クラスみたいなこと言ってたな。容姿は確かにひどい。でも、レナルドの性格ってそんなに悪いのか?」


 俺は、レナルドの記憶の奥を覗いてみた。

 

「うわっ」


 出るわ、出るわ。こいつの悪行。


 レナルドはかなりのワガママで癇癪持ちだ。

 レオナルドは領主の息子という地位に安住していた。

 そして、無理難題を周囲にぶつけてきた。


 ああ。具体例が山のように出てくる。

 とてもじゃないが、口に出せない。

 ひどすぎて。


 俺は頭を抱えた。

 俺は心身ともに醜い。

 


 しかもこの少年。様々なステータスが酷い。

 確かにゲームのようにステータスが数値となって表示されるわけじゃない。

 それでも俺の記憶の中のレナルドという少年の能力。酷い。


 一桁の足し算でも指を折りながらする。

 無論、掛け算・割り算は無理。

 剣を振れば足元がぐらつく。


 そのうえ、勉強が嫌い、剣の修行も大嫌い。

 おまけに素行が地を這う。


「(なんだ、このガキ。最低のカスじゃないか)」


 蒲生兼人としての俺は勉強も運動もそこそこ。

 交友関係だって悪くなかった。

 容姿も、人並み程度だったたと思う。



「これは何の罰ゲームなんだ?」


 改めてそう思う。

 会社と婚約者を親友と思っていた奴に奪われ、死んだと思ったら次元の狭間とやらに放り出され、転生したら最低最悪のクソガキになっちまった。

 しかも、両親はあの通りだ。 


 で、なんだと?

 女神が言うには、俺達の本来の未来は火炙り。

 ちょっと間違えると魔王になると。


 唯一の正解は仲間作り。

 仲間って言葉にはトラウマがあるんだが。

 嫌なら、次元の狭間に逆戻り。


 ぞっとした。俺は天を恨んだ。

 どうやら神はいるようだが、俺は神など信用していない。


 地獄じゃないか。

 俺が何をしたっていうんだ?


「まずい」


 現状を知れば知るほど俺には焦りが募る。 


「あの光景が夢だとしても、このままでは女神のいう通り正夢になりかねない。火炙り一直線だ」



 俺はじっくりと思い出してみた。


 あの火炙りの記憶。

 火炙り直前に頭の中を駆け巡った俺の半生。

 あれは死ぬ前に見るという走馬灯ではないか?


 処刑台のレナルドの隣には父親と母親がいた。

 親子揃って俺達は火炙りに処せられた。


 俺達を囲む怒りに震える民衆。

 それらを率いるのは。

 あの少年だ。

 俺を殴り倒したディオンという少年。


 奴に率いられた領民が一揆を起こしたのだ。

 彼らはフェーブル家が治める領民なのだ。

 俺達の悪政に堪忍袋の尾が切れ、一揆を起こして俺達を捕まえたのだ。



 では、ディオンは悪人か。


 違う。俺の見た夢によると。

 奴は英雄だ。

 魔物や他国の襲撃から何度もこの地域を救った。

 もともと平民であったディオン。

 その恵まれた才能により辺境伯の養子となる。

 ゆくゆくは勇者として王国の先頭に立つのだ。


 そして、レナルドはディオンと対立していく。

 理由はわかっている。


 単純にやつが羨ましかったのだ。

 ほぼ同い年。

 やつは称賛され、レナルドはクズ扱い。


 もう一つある。

 レナルドは明らかに婚約者に惚れていた。

 その婚約者はディオンと仲良くなっていった。

 ついには俺に婚約破棄を通告した。

 だから、むやみやたらとディオンにつっかかった。

 あらゆる面で到底かなわないにも関わらず。



 それにしても、レナルドはエレーヌのどこを気に入っていたんだろう。

 レナルドの記憶の中ではエレーヌは並ならぬ美少女だった。

 俺も初めて見たときはそう思った。

 レナルドの記憶に引っ張られたのかもしれない。


 しかし、翌日見たときは地味な少女だった。

 というよりも、意地の悪そうな顔をしていた。


 あの美しさは恋する者の欲目が見せた幻想だったのだろうか。



【メイド達のおしゃべり】


「みんな! 聞いた? 大事件が立て続け!」


「まずは小さい方の事件から。帰ってきたときの坊ちゃま」


「そうよ。私たちにご苦労さまだって。明日天気は大荒れよ!」


「これって本命事件の衝撃で錯乱したのかしら」


「そうかもね。本命の大事件! 婚約破棄!」


「衝撃っていうか、痛快っていうか」


「坊ちゃま、エレーヌ嬢にぞっこんぽかったものね」


「錯乱したのなら錯乱したままのほうがいいわ」


「そうよ。普通なら帰ってくるなり怒り狂って大変なことになるところよ」


「まあ、明日になればまた元通り?」


「あー、憂鬱。辺境伯邸から帰ってこなけりゃ良かったのに」


「そうよ。でも、ある意味当たり前よね」


「そうそう。エレーヌお嬢様ってすっごく可愛かったでしょ? まるで不釣り合いだったもの」


「ね。まるで屠殺場に引き立てられる牛さん状態だったわ。本当にかわいそうだった」


「まあ、落ち着くところに落ち着いた?」


「でもさ、子爵家側の事情が取り立たされていたでしょ。魔鋼鉱山狙いだとか」


「うん。あれ、いいのかな」


「なんだか、風雲の巻き起こる感じ?」


「えー、子爵って悪い意味で文系ってタイプだし、やるとしたら陰謀?」


「さあ。どうなんでしょう」


「あの……」


「どうしたの、小声で」


「いえ、私変なのかなあと思って」


「何が?」


「私さ、遠くから見てたからかもしれないけど、エレーヌお嬢様って美少女に見えなかったのよね」


「えー、それは薬師に行ってお薬もらうべき!」


「そうよ。あんな可愛い子見たことないってレベル」


「うーん。私には地味顔っていうか、私たちと同程度っていうか」


「ないない。体調でも悪かったんじゃないの?」


「うん、風邪ひいてたから、遠くから眺めるしかなかったんだけど」


「そのせいじゃない?」


「でも、私、無駄に目はいいのに」


「はいはい。嫉妬かもね、美しさに対して」


「えー、でもやっぱり体調が変だったかしら」



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