付近の農村から出稼ぎ1
大荒野女神教会の発展。
教会建設だけじゃなくて門前街も建設したい。
周囲に農場・牧場も作りたい。
そのために人員募集をかけることにした。
「ようこそいらっしゃいました」
俺達はフェーブル街近郊の村を回る予定である。
貧しい村をピックアップしてある。
丁度一番めの村の村長に挨拶を受けたところだ。
出稼ぎ労働者を募集するためだ。
募集要項は以下のとおり。
募集 季節土木作業工
場所 女神教会門前街
期間 約一ヶ月
一日八時間労働。
基本は魔道具で作業。
魔力属性不問、魔力有無不問。
三食、宿舎付き。
風呂随時利用可能。
甘味毎日配当。
日当は八千ギル。
年令不問、性別不問、経験不問、
契約魔法あり。
募集人員五十名まで、早いものがち。
「ほお、素晴らしいですね。これ、本当なんですか?」
「もちろんですよ。嘘ついてどうするんですか」
「ああ、申し訳ございません。あまりにも条件が良すぎて」
「で、どうでしょう。人が集まりそうでしょうか」
「もちろんです。多くの村人が応募するでしょう。何しろ、これから冬を迎えます。冬を乗り切れても春先は収穫前の春窮と呼ばれる季節となります」
貧窮している村では普通に餓死者が出る。
餓死に至らなくても冬は風邪の流行る時期だ。
せめて初級回復薬でも購入できれば。
なお、金銭感覚は日本と同じような感じだ。
つまり、八千ギルは八千円相当。
八時間労働は異例だ。
日の出から日没まで。
これが農民の労働サイクルなのだ。
しかも、食事・宿舎付き。
なお、王国に日祭日はない。
この世界の人々はとてもタフだ。
◇
「はい、申込みは終了!」
募集人員五十名。
募集をかけたその日、午前中で募集を締め切った。
一村だけで人が集まったのだ。
村長の言う通り、破格の条件らしい。
「真面目な人が来てくれればいいんだけど」
正直言えば、村人には多少の不信がある。
以前無料で治療をした村の件があるからだ。
【とある村人】第三者視点
秋の収穫が終わった。
来年の春に収穫予定の穀物も播種が終わった。
さて、これから長い冬が始まる。
当分は食料は問題ない。
しかし、冬を乗り切るには薬も買いたい。
他にも必要な備品もある。
また、冬を乗り切った後が一番心配だ。
食料が底をつく。
春の収穫はまだだ。
この時期が一番餓死者が出る。
「おーい、みんな集まれ。出稼ぎの募集だぞ!」
ほう。
出稼ぎか。
街の溝さらいかな。
昔やったことがあるが、あれは臭くて重労働だ。
その割に賃金は安い。
でも、仕事があるだけマシか。
「みんな、いいかよく聞け。これが労働条件だ」
村長は紙に書かれた条件を読み上げる。
オラ達は字が読めないものが多いからな。
「それ、ホントか?」
「信じられん。好条件すぎるぞ」
「おまえら、驚いている暇があれば応募しろ。早い勝ちだぞ!」
「はい!」「はい!」「オラも!」
あっと今に五十人が集まった。
最後の十人はくじ引きになったぐらいだ。
不安は魔導具を使うことだ。
魔力属性不問、魔力有無不問とあるんだが。
村人で魔力を持っているやつなんていないぞ。
【出発】
オラ達は集合日の早朝、村の広場で待っていた。
兵士二人と何故か子供三人、それに黒猫が三匹?
がやってきた。
「皆さん、おはようございます。私は領主の長男であるレナルドといいます。これから皆さんを女神教会門前街まで案内します」
オラ達は顔を見合わせた。
領主様の御子息。
あの悪辣で有名な?
確か、醜いエロ豚というあだ名がついていた。
だけんど、眼の前の少年は醜くなんかないぞ。
見たことがないぐらいの美少年だ。
その隣の二人の少年もなかなかキリッとした顔をしている。
それに、ふんぞり返ってないぞ。
普通に話をしている。
腰は低いんだが、声に力がある。
自信を感じさせるものだ。
若いのに場慣れしているんだろうか。
「では、皆さん行く前に秘密保持契約魔法をお願いします。これから行く場所は貴重なものが多いですので」
まず、最初は契約魔法。
街での出来事は他言無用だと。
えらく、厳重だな。
まあ、募集要項にも書かれたあったからな。
「ではいきましょうか。お昼すぎには着く予定です」
村から街までは二時間ほど。
そこから現場までは五時間ほどだという。
◇
「みなさん、魔物が近づいています。兵士の二人に集まって!」
今日は朝から快晴で多少風が強いがのどかな気候だ。
オラ達はのんびりと草原の一本道を歩いていた。
突然坊ちゃまが叫んだ。
魔物?
どこにいるんだ?
「ファイアボール!」『ドォォン』
おお、坊ちゃまの隣にいる大柄の少年が魔法を放った。
火魔法か。
久しぶりに見た魔法攻撃。
「おおお、すげーな」「あんな少年が魔法を」
しかも、五十mぐらい離れたところに着弾した。
本当に魔物がいたのか?
「みなさん、一角ウサギです。まっ黒焦げですけど」
大柄の少年が走って黒焦げの物体を持ってきた。
一角ウサギ。
頭に角の生えたウサギ。
雑食性で人間を見ると襲ってくる。
恐ろしく素早くてやっかいだ。
農作業中にこれに襲われて亡くなる人が年に何人もいる。
「あんな離れてて一発でしとめるなんて。というか、よく魔物の場所がわかりましたね」
オラは思わず質問してしまった。
「ああ、百mぐらいの距離ならいけます。魔物はスバシッコイのが多いですから、近寄らせるとやっかいなんですよ」
大柄の少年、彼の名前はジャイニーという。
「オレたちはみんなこの程度の腕はもっていますから、安心してください」
兵士二人はわかる。
坊ちゃまも横にいる小柄な少年も凄腕なのか。
「いやいや、坊っちゃんたちほどの腕は私どもにはありませんぜ」
二十代と思われる兵士二人はにこやかにそういう。
三人の少年はかなりのやり手なのか。
そういえば、領主様は物凄い魔導師だという。
王国でも有名な。
その息子さんのレナルド様ならわかる。
が、脇の二人も凄いのか。
どうみても、成人前の少年なのに。
◇
街をすぎたあたりの草原で一旦休憩だ。
そこでオラ達は早めの昼食をごちそうになった。
黒パンだったが、焼き立てで美味い。
それと飲み物が甘くて美味しいなんてもんじゃない。
「それ、うちで製造している回復薬なんですよ。女神教会の特産品」
ああ、聞いたことがある。
女神教会のシスターは聖女と呼ばれている。
なんでも死者蘇生もするんだと言われている。
「いやいや、死者蘇生は無理ですよ。シスターでも。でもちょっとした体の欠損ぐらいなら復活できますよ」
死者蘇生は大げさとしても、指一本ぐらいなら再生するという。
確かに聖女様だ。
オラ達はそんな聖女様の街を綺麗にするために呼ばれているんだ。
急に元気になってきたぞ。
「その回復薬は飲むと元気になりますから、それもあるのでしょう」
この回復薬、最近、村でも話題になっている薬だ。
一本二百ギルぐらいで安価。
なのに、薬師ギルドの初級回復薬より効能がすぐれているらしい。




