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女神教会 広報活動2

 いろいろ領主代理として未熟な面を露呈した俺。

 その反省からイメージビデオの製作を考えた。

 その準備は着々と進行している。

 だが、騒動はまだまだ続く。


 シスターの回復魔法の技量の高さと彼女の美貌。

 回復薬の効能の高さ。

 その噂が領を越えて広がり始めたのだ。


「とある御婦人がいた。

 足に怪我をおい、長年歩けなかった。

 それがシスターの回復魔法で一発で治癒した」


「目の見えなくなった農夫。

 彼もシスターのお陰で見えるようになった」


「高熱で助からないと見られていた少女。

 回復薬で一発で治った」


 そういう噂がまたたく間に広がったのだ。

 王国では人の往来は盛んではない。

 村を出ると魔物や盗賊が出ることもある。

 そういうこともあり村人は村を出たがらない。

 

 それでも、冒険者や商人を中心に噂が広まった。

 なにしろ真実教会で治療は大変高額なのだ。

 庶民レベルでは初級魔法ぐらいしか利用できない。


 ところが、シスターの治療は真実教会の百分の一。

 しかも効能は上だ。

 となれば噂が広まるな、というのがムリだ。


「治療現場を見ていたんだが、シスターが手を体にあてると光がパーと溢れてそりゃ神々しかったぞ」


「間違いない。長年出現しなかった聖女様だ」


「蘇生もできるらしい」


「しかも、無料で治してくれるらしい」


 噂に尾ヒレがついている。


 ◇


「あ”? 金をとるだと? 俺はタダだと聞いてきたんだ。ひょっとすると差別してんのか?」


「というか、貴方様は女神教会の信徒ではありませんね?」


「だからー、信徒契約を結ぼうっていうのにおまえらが拒否するんじゃないか」


「信徒になるには、心の底から納得した上で契約を結ぶのです。貴方様にはその用意がまだできていないようです」


「なんだと、この野郎!」


 黒猫の目がぴかりと光り、その男はふっとばされた。

 フラフラと起き上がると男の額には『不敬者』。

 何度も見た光景が繰り広げられる。


 もうね、次々と無料で薬をくれ、無料で診療しろ。

 そういう輩が湧いてくるのだ。

 

 早くあのイメージビデオを完成させねば。


 ◇


 ビデオの撮影は天国パートから始まった。

 有名な吟遊詩人にも依頼したのだが


「まあ、なんて素敵な曲たちね! あなたは天才作曲家?」


 俺の知っている名曲を何曲か口ずさんでみると、吟遊詩人はえらく感激してた。

 決して俺は歌は上手くないんだが、これも曲の偉大さのおかげか。

 周囲からも絶賛をもらってかなり照れた。

 俺が作曲したわけじゃないからな。


 特に反響が多かったのはカッシーニ作曲と言われているアベマリア。

 実はソ連の作曲家の作品なんだが、それを架空の人物の作品として世に出した。

 退廃的と言われて弾圧されるのが怖かったのかもしれない。


 吟遊詩人の声は素晴らしい。

 ソプラノで声がよく伸び透明感がある。

 声がきれいなだけじゃない。

 表現力があり、歌に感情をのせることができる。

 確かに王国でも有名なだけはある。


 俺の不満だったのは伴奏楽器であるリュートだ。

 王国では和音が生まれたばかりのようで、単純なメジャー・マイナーコードしか知らないようだ。


 そこで、俺が前世の知識を披露した。

 俺もピアノやギターを習っていた。

 和音についてもある程度の理論は知っている。


「これがセブンスコード? それが四種類もあるの? ああ、確かに音が複雑な響きになるのね」


「いや、これが基本のコードで、ここからどんどんと展開していくんだ」


 おれはテンションコード、サス四などのコードを次々と披露していった。


「なんてこと。こんなに豊かな響きになるわけ?」


 俺は和音理論を説明してみたんだが、どうも理解してもらえない。

 だから、俺が曲ごとに和音をつけ、リュートの運指を考えていった。


「素晴らしいわ! これで伴奏のレベルが数段あがったわ! これ、吟遊詩人仲間にも教えなくっちゃ!」


 吟遊詩人には技術を秘匿するってことは考えないのかな?

 まあ、リュートは運指を見れば一発でわかるからな。


 ◇


 あまりにも吟遊詩人の歌が良かったため、ライブを開くことにした。


「なんて、美しい曲なんでしょう」


 シスター始め、みんな涙を浮かべている。

 演目は

 カッシーニ アベマリア

 シューベルト アベマリア 

 グノー アベマリア

 パッヘルベル カノン

 バッハ 主よ、人の望みの喜びよ

 バッハ G線上のアリア

 など

 詩は吟遊詩人が自由に付けたもの。



「レナルド様、本当にありがとう。これで私の吟遊詩人のランクが数段あがったわ。というか、私、この女神教会の専属になりたいんだけど」


 ああ、彼女が気に入ったのは歌だけじゃなかった。

 俺が開発中の甘味もムシャムシャ食べていたのだ。

 

 専属歌手の件はシスターたちも喜んで応じた。


 ◇


 地獄の動画はジャイニーがノリノリだった。

 彼は本来は土魔法が一番得意なんだが、


「やっぱり魔法と言えば火魔法。見栄えが違うぜ。だけどな、なかなか披露することがないからな」


 火魔法は危ないから。

 街なかとか森とかだと火事になりかねない。

 狭い場所だと煙や酸欠で大変なことになる。

 だから荒野まで出かけていってぶっ放すしかない。

 でも観客がいない。


 この頃になると、四属性魔法について俺は上級、ジャイニーやスキニーは中級魔法が発動できるようになっていた。


「フレア!」「イオナズン!」


 これら爆発魔法は某ゲームから名前を拝借した。

 魔法のイメージと合致すれば、名前は何でもいいんだ。


「スーパーノヴァ!」


 これは俺の上級爆発系火魔法。

 轟音とともにでかい火球が爆発。

 猛烈な爆音についで吹きあれる爆風。

 天にも届かんとするキノコ雲。


「坊っちゃん、ずりいぜ。坊っちゃんが火魔法を唱えたらオレ達のが霞むじゃねえか」


「ジャイニー、そのかわり火魔法と土魔法の合体技があるじゃないですか」


 フォローするのはスキニーだ。


「へへ、まかせろよ。ラーヴァ!」


 これは地面から溶岩を噴出させる魔法だ。

 広範囲にわたりグツグツとした溶岩で覆われた。


「じゃあ、ここに木を放り投げて……」


 スキニーが用意していた太さ1m長さ二十mもある巨木を溶岩に投げ入れた。

 距離にして五十m以上の投擲だ。

 スキニーは俺達の中では一番小さいが、身体能力は一番高いかもしれない。

 何しろ、一番得意なのはステゴロだからな。


『ボオッ!』


 巨木が溶岩に達すると瞬時に火に包まれ真っ黒こげになった。



「どうかな、地獄の表現」


『(いい絵がとれました。あとはちょっと編集しましょうか)』


 黒猫には簡単な動画編集スキルもある。

 

 それにしても、この動画関係のスキル。

 俺も魔法に昇華できそうな気がするんだが。

 撮影のメカニズムは俺も知らないわけじゃない。

 アウトラインはわかっている。

 それを魔法に落とし込むだけなんだが。


 まあ、将来の課題としよう。


 ◇


 試写会は女神教会で行われた。

 観客は俺達、シスターたち、黒猫たち、

 父ちゃんズや兵士も全員呼んだ。

 それから信徒も数名。


「……!」


 天界の場面ではみんなが優しい顔をしていた。

 花畑に美女・美少女3人が戯れる。

 そのバックで美しいメロディが。

 うっとりと画面に魅入っている。


 それが地獄の場面では一瞬にして反転した。

 俺達と黒猫をのぞく全員が息を飲んだままフリーズしたのだ。


「なんという爆炎、轟音、爆風、そして身の毛のよだつあの雲」


「地面は一面が煮えたぎる溶岩」


「これはまさに地獄……!」


「これを坊っちゃん達が演出した……!」


「坊っちゃん、驚きましたぜ。坊っちゃん達の魔法が優れているのは知ってましたが、いままでのは百%じゃなかったんですな」


「うん、する必要がないのと、訓練場では場所がないからね」


「ジャイニーとスキニーもこんなに凄いスキルを持っているんだな」


「へへ、父ちゃん、スゲーだろ」


「馬鹿、そこは謙虚にみせるとかっこいいんだぞ。しかし、謙虚だと嫌味に見えるかもな。すごすぎて」


 この上映会は大成功だろう。

 信徒の皆さんなんか、腰を抜かしてたからね。

 思わず地面にひざまづいて祈りだした人もいた。



「で、坊っちゃん。おの映像をどうするつもりなんですか?」


「女神教会で信徒さんに見てもらうつもり。ゆくゆくは村人たちにもね」


「そりゃ、みんなビビりますが」


「でさ、おまえらどっちの世界に行きたいか、問うわけ」


「そんなの答えはきまってまさぁ」


「いや、天国に召されるのには条件があるんだよ。みんなにこう問いかけるわけ」


  親に孝養をつくしましたか

  兄弟・姉妹とは仲良くしましたか

  夫婦はいつも仲むつまじくしていますか

  友だちとはお互いに信じあって付き合っていますか

  自分の言動をつつしんでいますか

  広く全ての人に愛の手をさしのべていますか

  人格の向上につとめていますか

  法律や規則を守り社会の秩序に従っていますか


「守れていない人は地獄かもって脅すのさ」


「坊っちゃん、無理言わないでくださいよ。地獄行きにきまってるじゃないですか」


「だから、毎朝掃除をして身の回りを清め、女神教会で祈りましょう。とやるわけ」


「なるほど。そりゃみんな従うわ」


「まあ、あの腹立つ村には一番先に上映会を開くけどね」


 俺は反省のできる男だが、しつこい。



 その話通り、村で上映会を開くとパニックがおきた。

 俺達は地獄へ行くのか、この体が燃え尽きるのか、

 神よ、今までの行動を悔い改めます、

 どうか、どうか、見捨てないでください!


 女神教会の信徒契約は全員が希望した。

 そして一人の脱落もなく、契約が結ばれた。


 その後もちゃんと村の掃除をしてお祈りを捧げているようだ。

 何しろ、不信心な村は村ごと地獄に落ちると脅したからな。

 怠ける奴は村人全員から叩きのめされるらしい。



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