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女神教会 広報活動1

 村での無料治療の失態。

 俺はこれをカバーする方法を考えていた。


 食と安全の充実。

 これはなかなか達成できるもんじゃない。

 そもそも、俺はいまだ領主でもなんでもない。

 貴族ではあるが、ただの子供なのだ。

 食と安全の充実なんて到底無理な話だ。


 それと、人間は欲望の存在だ。

 どんどんと欲望は加算していく。

 お腹が膨れるようになれば次は質。

 より美味しいものが食べたい。


 前世アメリカの暴動を見ろ。

 奴らは一応は食は毎日取れてる。

 たいていは餓死するほどじゃない。

 セーフティネットもそれなりに用意されている。

 危険なエリアが多いとは言え、戦時下ではない。

 魔物に襲われる危険もない。


 それでも、ああなるんだ。

 台風が来れば商店を襲う。

 万引きが軽犯罪となれば堂々と万引きをする。


 フェーブル家は確かに悪辣だろう。

 そして、火炙りになったのは自業自得であろう。


 だが、一揆を起こした領民たちはどうなんだ。

 一方的な被害者だったのか。


 俺は知っている。

 重税にあえいでいるといいつつ、隠し畑を持っていることを。

 過酷な毎日、といいつつさほどでもない農民が多いことを。


 俺は父ちゃんズや兵士達から様々な教えを頂いている。


「坊っちゃん、農民たちはですね確かに貧困者も多いのですが、そうじゃないのも多いのですよ」


「そうなの? 領の重税に困っているんじゃないの?」


「これはお館様には内緒にしていただきたいのですが」


「おお、秘密保持契約にかけて」


 俺達には秘密保持の魔法契約を結んでいる。


「大抵の農民はですね、申告の倍程度の畑は持っているもんでさ」


「倍? 隠し畑ってやつ?」


「そうです。代官に賄賂を送ったりしてですね、巧妙に隠してるんですよ」


「そうなんだ」


「領の税は七公三民とか言われていて、王国でも重税で有名なんですが、実際は三割程度しか税を収めてません。三公七民なんですよ」


「だから、なんとかやっていけるんでさ。もちろん、税が三割だと言っても決して楽ではありませんけどね。そもそも生産性が低いですから」


「うーん」


「ついでにいうと、領の代官なんかもかなり抜いてますね」


「抜くって、税を?」


「ええ。正直言って、お館様はケチと言われていますが、計算がお得意じゃない。税に関しては物凄くザルなんですよ」


「え、まさか」


「坊っちゃん、それを教えるのは、将来坊っちゃんが領主になったときにもっと効率的合理的に領経営をして欲しいからでさ。今の領経営は経営と呼べるもんじゃねえです。儂ら王立騎兵団の文官らしきこともやってましたから、少しはわかるんで」



 考えることだらけだった。

 まず、領民が善意の被害者、なんてことはない。

 領民は領民で強かな部分がある。


 その反面、未だに貧困にあえぐ領民が多いのも確か。

 というか、やはり全体として食と安全の充実というテーマは永遠であろう。


 それを追求していくと、俺は王国の様々な利権につながる。


 パン一つとっても小麦ギルド、製粉ギルド、製パンギルド、商業ギルド、貴族、教会など多くの組織に忖度する必要がある。

 

 聞いた話だが、食堂を経営するには十以上のギルドに挨拶する必要があるという。


 バカバカしくないか?

 俺はより安くて美味しい製品を提供したい。

 いや、提供すべきだ。

 そうじゃないと食の充実なんて達成できない。


 回復薬も魔導具もそうだ。

 この世界の常識を断ち切る製品を俺は作れる。

 利権団体に忖度していたら、領民に便利なものを届けられない。

 


 俺がやろうとしていることは、これら利権団体に喧嘩をうることだ。

 利権がからむため、下手しなくても血が流れる。

 領民の支持を得ることで女神教会をもり立てて、ついでに俺の支持率も爆上げしようという計画なのだ。

 

 めんどくさいからと俺が考えることをやめたら。

 例えば、俺が王国から逃げ出したらどうなるか。


 消極的な解決を女神様はよく思わないだろう。

 というよりも女神教会を救えという女神様の願い。

 それはこの世界を変革せよということに等しい。

 多数の貴族、ギルド、そして真実教会。

 俺はそれらの利権に切り込んでいくのだ。

 

 おれはそこから抜け出せない。

 運命が俺に絡みついている。

 そういうプレッシャーをひしひしと感じるのだ。

 

 俺は疑問に思わないでもない。

 ただの一個人であるのに。

 そうは思うのだが。


 ◇


「(もっと即効的な解決方法はないか)」


 あの村でやらかした俺は事後処理を考えた。

 どうしたらダメージを最小にできるか。


 まず頭に浮かぶのは広報活動。

 これは今まででも俺は適宜手をつけてきた。


 おかしな貴族とかが来たときなど、相手の領内にその貴族のバカさ加減を宣伝する。

 工作員を放って、噂を広げてもらうのだ。


 ほかになにができるか。

 チラシとか。

 物証が残るはマズイ。

 それに字の読めない人が多い。


 などと考えていたらひらめいた。


「いっそのこと、イメージビデオを見せたらどうだ?」


 黒猫のスキルに動画スキルがある。

 彼らに手伝ってもらって動画魔導具か動画魔法を作れないか。


 ◇


『にゃあ(動画スキルですか?)』


「ああ、教えてもらえないだろうか」


『にゃあ(うーん、私どもの撮影スキルは魔法じゃないんですよ)』


「魔法じゃない?」


『にゃあ(ええ。例えば、御主人様は目が見えますよね。それは魔法ではないですよね)』


「ああ。生まれつきのもんだな」


『にゃあ(それと同じで、私どもも持って生まれた能力として動画撮影スキルが備わっているんですよ)』


「ええ、そうなんだ。がっくり」


『にゃあ(御主人様、がっくりしなくても。私どもがお手伝いすれば解決するんじゃありませんか?)』


「あのさ、女神教会を守立てるために、天国と地獄みたいな動画を取りたいんだよね」


『にゃあ(なるほど。天国は花で溢れた素晴らしい世界で、地獄は炎に包まれたような非常に過酷な世界というようなイメージですか)』


「うんうん、まさしくそれ」


『にゃあ(それなら、魔法でそれっぽい雰囲気を再現して動画を撮りましょう)』


「どうやって再生するわけ?」


『にゃあ(魔石が動画の保存媒体になるんですよ。魔石の大きさで動画容量が決まります。その魔石に保存された動画を壁とかに再生します)』


「なるほど。ちょっとやってみて」


 黒猫に見本を見せてもらった。

 再生は二十インチサイズ程度の大きさしか無理だった。

 これ以上はぼやけてしまうのだ。


『にゃあ(もっと大きく再生したいわけですか。ちょっとお待ちを。動画関係に強い猫を選別してみますね)』



 結局、天界でオーディションしてもらった。

 手当たり次第に天界の猫を集め、一番優れたスキル持ちに来てもらった。


「おお、凄いな!」


 その黒猫の映像は百インチサイズでもぼやけなかった。

 百インチは畳一枚よりも一回り大きいサイズだ。


 欲を言えば映画館サイズの映像が出せるといい。

 まあそれは欲張りすぎるというものか。

 テレビが売り出された当初は大きいサイズでも十インチ。

 そのテレビが街灯に設置され、プロレスとかの実況放送では黒山の人だかりができたそうだ。


 であるならば、この世界の人々ならば百インチのカラー放送なんて目の玉が飛び出るほどの驚く映像だろう。


 天国の表現はお花畑でシスターやシスター助手たちが戯れているだけで十分だろう。

 最上級のルックスだけじゃない。

 まとっている雰囲気が上質な清潔感に溢れている。

 目にするだけで心が洗われるのだ。


 BGMは王国で有名な吟遊詩人に頼もう。

 俺が前世の有名な曲を吟遊詩人に教えてもいいな。

 バラード調のクラシックとかポップスとか。

 この世界の人にも馴染みやすいだろう。 


 地獄の表現は、爆発魔法とか火炎魔法とかでまさしく地上を地獄の光景にすればいいだろう。

 殺伐とした荒野に大規模な爆発。

 キノコ雲が立ち上り、地上はグツグツとした溶岩状になる。

 そこに大木を放り込む。

 瞬時に火がつき黒焦げとなる。

 そんな映像は人々を恐れさせるに十分だろう。



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