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シスター、村々を廻る

「ああ、これでかねてからの夢が実現できそうですわ」


「夢ですか?」


「ええ。教会を設置した村を中心に各所を回って病や怪我に苦しむ人々を救うという夢です」


「なるほど、それはシスターらしい素晴らしい夢ですね。ただ……」


「承知いたしております。無料にしないこと、ですね? でもですね、今回だけは無料で治療を行いたいのですが……」


「うーん、そうですか。なるべくシスターの意思を尊重したいのですが……」


「ムリでしょうか」


「まあ、無料でやってみましょうか。俺も領民の民度を見てみたいです」


「ありがとうございます」


 ◇


 場所はフェーブル村に近い◯村。

 人口三百人ほど。

 ごく平均的な村だ。


 俺達は医療施設団を結成した。

 シスター、シスター助手、文官、黒猫十体、そして俺達三人。


 展開は俺の想像を越えてきた。


 まず、無料と聞いて村人ほぼ全員が押しかけた。

 これは読んでいた通り。

 ただ、村人を並ばせるのに難儀をする。


 俺たちは神聖魔法の回復魔法が発現している。

 健康体かそうでないかがすぐにわかる。

 異常箇所が発光するからだ。


「あなたは健康体です」


「いや、俺には異常があるはずだ。しっかり見てくれ!」


 とごねる村人が続出。

 これにはシスターの美貌のせいもある。

 みんなシスターの近くに寄りたいんだ。


 あっという間に大混乱だ。

 さすがにシスターたちもダウンした。

 診察した人数は百人以上。

 言うことを聞かない村人多数。

 魔法が枯渇、体力的にも限界が来たのだ。

 残りは回復薬の販売で切り抜けようとしたのだが、


「いやいや、回復薬じゃなくてちゃんと診察してくれ! おまえらにはその義務がある!」


 そうかと思うと、


「俺は診察してもらったが、回復薬はもらってない。不公平だ! 俺の権利を奪うな!」


 などと俺達を囲んで大ブーイング。

 何回も説得したのだが、全然聞きやしない。

 診察されて当たり前っていう顔をしている。

 ああ、この光景を見たのは二回めだ。

 あの大雨の時が一回目。


 俺はこの光景にイライラし始めた。


「俺たちはおまえらのことを思ってこの村に来ている。それが何だその対応は」


 ところが、これが村人の怒りに油を注いだ。


「なんだ、その言い草は。おまえらが勝手にこの村に押しかけてきたんじゃないか! 俺達はお客様だぞ! 偉そうにするな!」


 村人はますます詰め寄ってくる。

 俺達は一方的になじられっぱなしだ。

 俺も頭に血がのぼった。


「わかった。この村へは一切の診察を拒否する」


 と怒りにまかせて宣言した。

 さらに大ブーイングが拡大したので


『ドガーン!』


 俺は空に向かって爆発系火魔法をぶっ放した。

 みるみるうちに静まる群衆。


「本当に見下げた奴らだな。なんて依存心の強い奴らなんだ。俺はがっかりした。村長以下心からの謝罪のない限り、おまえらには一切のサービスを停止する」


 ひょっとして俺はやらかしたか?

 だが、怒りが収まらない。



 さらに問題は継続する。

 診察したものには簡単な契約魔法を結んでいる。

 治ったら村の清掃をするという取り決めだ。

 現金収入の少ない人をおもんばかった処置だ。

 簡易契約魔法魔導具の腕輪をはめてもらっている。

 始めての試みで腕輪の試運転も兼ねている。


 契約魔法腕輪の動作は

  快癒

  →三十という数字が手のひらに

   三十日という意味だ

  →カウントダウン

  →その間に村の清掃を一定時間行うと契約履行

  →数字がゼロになると約束不履行の文字が額に


 殆どの村人が履行しなかった。

 むしろ、詐欺とかそういう声が上がる。

 勝手に村にやってきて勝手に治療しておいて義務(清掃)を強制させる。

 それはどういうことだ、という理屈だ。


 ◇


「なんで、俺達の無償の行為が詐欺なんだ?」


 もう、俺はこの村を見放した。

 勝手にやってろ。


 やはり、無料にすると碌なことがない。


 前世地球でもお隣の国が無料ときいてしばしば大騒動に発展していたし、アメリカでは約十万円以下は軽犯罪とやったらどんどん商品が万引きされて数多くの小売店が倒産・撤退したり、台風が来たら多数の住民が店を襲っていたり。


 中世よりも民度が高いと言われている現代地球でもそんなもんだ。

 この世界の民度なんてどれほど低いか。



「だけど、坊ちゃまもまずかったですね。ちょっと短気すぎたというか」


 そう苦言を呈してくれるのはスキニーだ。

 こいつは口調は丁寧だが、あんまりおもねったりしない。

 

「うーん、やっぱりそうか?」


 俺も頭が冷えてちょっと反省した。

 いちいち怒りにまかせて行動してどうする。

 もう少し丁寧に行動すべきだった。

 俺は昔から短気だった。

 レナルドも俺に輪をかけて短気だったようだ。

 いたずらに女神教会の評判を下げてしまった。

 俺は別に教会の代表じゃない。

 それなのに、代表みたいな顔をしたことになる。



「シスター、申し訳ありませんでした」


「レナルド様、謝罪の理由がわかりません。事の経緯は私の我儘から出たもの。こちらこそ申し訳ございませんでした。こんな風になるなんて」


「いや、シスター。俺も甘く見てました。これは一種の集団心理で普段はもっとまともだと信じたいですが」



 現代地球にせよこの世界の住民にせよ、民度の低さには貧困が背景にあるかもしれない。


 日本人は地震で壊滅してもちゃんと行列を作って補給を待っているとか民度が高いとか言われる。でも、援助が信じられなくて今日の糧にも困っていたら、アメリカとかのように暴徒化するんじゃないか。


「(やっぱり食と安全の充実というのはかなえる必要があるな)」


 俺は改めてそう決心した。



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