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女神教会出張所

「女神教会の出張所を建てる?」


「はい。村に神官を派遣してもらえないかとの請願が来てまして。求めに応じようかと」


 真実教会はたいてい主なる村にしかない。

 小さな村では祈りの場はあっても神官がいない。

 村人たちは遠い教会に行くことになる。

 或いはたまに巡回する真実教会の神官を待つ必要がある。



 ちなみに簡単にこの領の説明をする。

 フェーブル領は東西二十km、南北三十五km程度。

 これが人の住むエリアだ。


 北側と北東側は山間部。

 南東と南は平野だが、たいてい川で隣領と隔たっている。

 西側は人の住んでいない草原&森。

 ここまでが一応伯爵領とされる。

 草原の向こうが大荒野と呼ばれる最果ての地。

 

 領の真ん中に領都フェーブル街がある。

 人口約一万人で約百haほどの広さ。

 (東京ディズニーランド+シー程度、

  東京ドームだと二十個程度の広さ)

 これでも王国では大都市の一つだ。


 その周辺に人口千人クラスの村が三つ。

 さらに数十~数百人の集落や村が多数。

 という構成になっている。


 いずれも街・村の周囲は防御壁が張り巡らされており、その周囲に農地がある。


 王国での村は大抵が自治組織になっている。

 村掟という法律の元で運営されている。


 土地は領から貸し与えられる。

 それを村掟のもと村人たちが共同で使用する。

 村人は村から土地を借りて家を建てるなり畑で耕作することになる。


 畑での収穫物も個人所有にならない。

 村の所有物としてそこから税を領主に払う。

 統治コストがやすい反面、自治性が強いため一揆が起きやすい。

 

 また、村の幾つかの村は真実教会領であり、不輸不入の権により守られている。

 つまり、教会はいわば領主であって、税を払う必要はないし、領・王国の役人は村の中に入れない。


 王国では国教を決めていない。

 一応、信仰の自由が慣習として認められている。

 しかし、真実教会は事実上の国教だ。

 王国民の九割以上が信仰していると言われている。


 全ての村に教会(祈りの場)は建っている。

 しかし、神官が不足している。

 村にとっては教会は祈りの場である。

 そこに出張神官がたまにやってくる、というスタイルだ。


 そんな村で女神教会の信徒達がシスターに請願を出したのだ。

 うちの村にも女神教会のご利益を得たいと。



「大丈夫ですか?」


「神官の数は不足しておりますが、信徒の皆さんにお手伝いして頂くことでなんとかなるだろうと。教会は新たに魔法で立ち上げるつもりです。転移魔法陣を設置したりしますので秘匿すべきエリアが必要になりますから」


 神官は孤児院を卒業する孤児の中から選択する。

 孤児たちは優秀に成長している。

 神聖魔法が発現し深化を見せている者が多い。


 女神教会には祈りの書がある。

 シスターが毎日読み捧げている本が祈りの書だ。

 シスターは理由もわからずに朗読していた。

 これが天界言語のダブルミーニングとなっていた。

 俺が読むと神聖魔法について書かれてあることを発見した。

 その祈りの書を読み解いていくと神聖魔法の理解も進んでいくわけだ。


 孤児たち全員には神聖魔法を伝授してある。

 それを深化させていくにはこの祈りの書の理解が必要なわけである。



「ふむ」


「あとですね教会の出張所には売店を開こうかと。特に回復薬の販売ですね。それで神官の不足もある程度カバーできるのではないかと思いまして」


「そんなことをして、真実教会から嫌がらせがきやしませんか」


「黒猫の使徒様たちが応援を連れてきてくれるそうです」


 現在、黒猫は十体いる。

 でも、黒猫は何体でも増員が望めるらしい。


「黒猫たちが言うには、三体もいれば守りはなんとかなるだろう、そうでなくても転移魔法陣で避難はすぐにできると」


 はあ、なるほど。


 これは俺の領運営方針に沿っている。

 俺に人気がなくてもいい。

 俺に替わる求心力のあるものがいればいい。

 それをシスターにやってもらう。

 俺はそのシスターの最大の後援者。


 それと、信徒とは契約魔法を結ぶことにしている。

 信徒が増えすぎても薬等の供給が追いつかない。

 それに邪な考えを持った人をシャットアウトしたい。

 また、俺には女神様より授かった様々なスキルがあり、迂闊に口に出せない製品も多い。



 一方、この製品を戦略的にばら撒きたい、という思惑もある。

 王国人を贅沢にさせたいのだ。

 贅沢品をもって女神教会の株をあげ、間接的に俺の支持を上げようというわけだ


 その加減の言い訳に教会を使えそうだ。



 だいたい、真実教会は寄進を求めすぎる。

 そして、何をするにも高い。

 とういうよりも、余分なお金は寄進しろ。

 それが真実教会のスタンスだ。


 反面、庶民は真実教会から何が得られるのか。

 祈りだけか。

 その祈りでさえも高額な寄進をとるという。


 真実教会との勝負は簡単に決まる。

 むしろ、真実教会の妬みそねみをいかにかわすか。


 あと、真実教会は

 王国の支配者層と強く結びついている。


 俺も王国の支配者層という一員だが、かなり敬遠したい。

 王国の貴族は非常に傲慢だ。

 その最たるものがレナルドの両親とかつてのレナルドだ。


 心情的にも王国の支配者層におもねりたくない。

 だが、俺も王国のシステムに組み込まれている。

 いかにするか。

 

 ◇


「完成おめでとうございます」


「ありがとうございます。女神教会支部第一号、皆様のご助力でなんとかオープンにたどりつきました」


 場所は、領都から十kmほど北にあるルージュ村。

 人口が三百人程度である。

 

「責任重大だな。頑張ってくれよ」


 責任者の神官として孤児院出身者が赴任することになった。

 名前はジョルジュ。

 年齢は十五歳。

 俺達の教育を授けて成人を迎えた第一号である。


 かなり優秀な子で、魔法、剣、座学全てが孤児の間では一番。


 特筆すべきは、孤児の間で真っ先に神聖魔法ヒーリングを覚えたことだ。

 シスター、二人のシスター見習い、俺に続いて四人目の神聖魔法使いである。


 王立高等学院への進学も見込めるほどであった。

 ちなみに、この学院は日本での東大みたいなエリート学校である。

 

「進学よりも早く1人前になってシスターを助けたいです」


 などと泣かせることを言う。


 これで大荒野教会、領都教会、ルージュ村と三つの拠点ができた。

 これらを大荒野教会をハブとして転移魔法陣でつなげる。

 

 彼も朝と夕方の訓練には参加するため、転移魔法で大荒野教会に飛んでいく。


 護衛として新たに黒猫三体を増員した。

 販売するのは現状ではB級回復薬。

 

 心配なのは、この一年の間で随分とかっこよくなったことだ。

 村の少女達がほっておかないであろう。

 当人はまだ色気がついていないようだが。


 彼に限らず、この世界では魔法に熟達すると外見が良くなる。

 体内の魔素の巡りがよくなり、それが外見にいい影響をもたらすようだ。


 造形が大きくかわるわけではない。

 しかし、ぐっとひきしまった顔になり体の奥底から魅力的なオーラが湧き出てくる。

 イケメンオーラとも言われている。


「変な虫がつかないように、しっかり監視しなくちゃ」


 とは、見習いのセリーヌとロザリーの二人。


「おまえら、若いのに行かず後家か小姑みたいだな」


 俺がちょっとからかうと


「何言っているの。貴方なんか元婚約者があれだったでしょ。あれはいい反面教師よ」


 ああ。

 エレーヌはとんだところから攻撃を受けている。

 俺も彼女はあんまりいい子じゃないとは思っている。

 なんていうか、意地の悪そうな顔をしてるんだよな。

 あと、絶対に我儘。

 美形でもないしね。

 

 あれ不思議だよ。

 多くの人がエレーヌを王国一の美少女とか言う。

 いや、人によって好き嫌いはあるだろう。

 でも、王国の美人基準とエレーヌはかけ離れている。


 王国の理想像は顔だと例を上げれば

 橋◯環奈の顔を西欧風に寄せた感じ。

 東洋と西洋のいいとこ取りみたいなフェイス。

 スタイルはモデル体型で八~九頭身。

 ちゃんと女性らしい丸みがあること。


 具体的には理想形はまずは女神様。

 そしてシスター。

 ちょっとガキっぽいがシスター見習いの二人も将来性は抜群だろう。


「ちょっと。変なこと考えてない?」


 あ、女性特有の感の良さ。

 こりゃ、彼氏とか迂闊なことはできんな。


 それと、エレーヌの内面が美しそうじゃないのは見ればすぐにわかる。

 少なくとも人生経験のある大人なら容易に判断できると思うのだが。


「いやいや、あれはノーカンだろ。俺が決めた婚約じゃない。親が勝手に決めてきたんだ」


 レナルドもかなりエレーヌに惹かれていたみたいだけどな。

 ホント、びっくりだわ。


 この二人、わざわざ子爵領まで遠征してエレーヌを見てきたらしい。

 どこにそんな暇があったんだ。

 そういや、先々週数日間訓練にいなかったな。


「へへへ、猫ちゃんつれてちょっと旅行してた。帰りは転移魔法で一瞬だから!」


『にゃあ(レナルド様。転移魔法陣は現地においていくわけですよ。その回収は私が行いました)』


 うわっ。


「なんだよ、そんな楽しいことしてたんか。次はオレたちも混ぜてくれよ」


 ジャイニーが早速アピールする。


「そうですよ。男手があるといろいろ便利ですよ」


 スキニーも。

 勝手にやってくれ。


 ただなあ。

 彼女たち、明らかにガッキーズの二人よりも精神年齢が上なんだよな。

 このままだとアッシー君とかにされる未来が見える……



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