女神教会の建立とヒーリング
大荒野の開発が少し落ち着いてきた頃。
俺は女神教会の建立を始めた。
すでに教会は建ててある。
だが、女神教会の本部らしい荘厳さがない。
間に合せのいわば仮の建物だからだ。
新しい教会はシャルトル大聖堂を参考にした。
シャルトル大聖堂は旅行で行ったことがある。
写真でも散々見ている。
記憶を呼び起こすのはたやすかった。
それに、あそこまで装飾過多の教会を作るわけじゃない。
フォルムのみ、参考にしているだけだ。
「坊っちゃん、実に立派な教会なんだな」
「ですね。荘厳って感じですね」
「だろ? この両側の空高く伸びた尖塔、これがいいんだ。天に祈りを捧げるモニュメントって感じで」
「だけどよ、高さ五十mなんだろ? できるのかよ」
「そこはコツコツとだな。俺達の魔法力を試す意味でもやりがいがあるだろ」
「ですね。普通の民家なら一時間ほどで作れますから、物足りないくらいですもんね」
俺たちがわいわい話しているのは教会の模型だ。
これだけ大きな建物だと一人ではムリだ。
だから、土魔法の得意なものを集めイメージを共有したのだ。
◇
建築には半年ほどかかった。
これだけにかかりっきりになるわけにはいかない。
暇な時間を見つけてコツコツと築き上げたのだ。
それにしても土魔法様々だな。
これだけ大きな建築物だ。
まともに作ったら何年かかることだろう。
何しろ、一番高いところで高さ五十mほどある。
計算では二十km以上先からでも威容が見える。
もっとも、本物のシャルトル大聖堂は高さ百mを越える。
こうなると四十km離れていてもトップが見える。
この惑星が地球と同じ大きさと仮定してだが。
「あとは開口部をどうするかだな」
修正は簡単だ。
まさしく魔法様々である。
「ステンドグラスじゃないんですか?」
「できれば、大きな板ガラスをはめたいんだが」
「大きな板ガラス?」
「ああ。縦横数mぐらいあるような」
「そんなものできるんですか? 今あるガラスってせいぜい縦横数十cm程度でしょ」
「うーん、まあ、将来の課題ということで」
この教会は単なるモニュメントという意味合いが強い。
祈りを捧げる空間は一階にある。
そこだけを確保して上階はまだ手つかずだ。
◇
「ああ、なんて素晴らしい教会なんでしょう!」
シスターたちは感嘆のため息をもらす。
何しろ、王国ではここまで大きな建物はない。
もっとも、将来的には高さ百mの教会を建てるつもりだが。
「この建物に祈りを捧げたいと思います」
シスターはそういうとひざまずき祈りのポーズに入った。
しばらくするとシスターから光が溢れ出して大聖堂が輝き始めた。
「この建物を通じて私の祈りが天に届きました。そして、いくつかの神聖魔法を授かりました」
早速、ご利益があった。
この建物のおかげかどうかは不明だが、
シスターが触発されて新たな魔法が発現した。
その授かった神聖魔法。
そのうちの一つが『ヒーリング』。
その名の通り、回復・治癒魔法である。
怪我、病気、状態異常など体が不健全な状態に陥った場合に健康にする魔法。
やはり、シスターならば是非とも欲しい魔法だ。
聖魔法にも同様の魔法がある。
ただ、習熟するには人体の構造を学ぶ必要がある。
医者のように。
つまり、解剖実習が必要。
例のエレーヌはこれが嫌で回復魔法の訓練を怠った。
だから、回復魔法は未熟のままだ。
少なくとも、結婚破棄事件のときはそうだった。
しかし、流石神から授かった神聖魔法。
体の異常箇所が光って見えるという。
解剖訓練をしなくても人体の構造が自然とわかるのだ。
「グルスキルでこれを皆さんに伝達しましょう」
シスターはそういうと、シスター見習いの二人、孤児、そして俺達三人にもヒーリング魔法を芽生えさせてくれた。
「神聖魔法を伝えることのできるものは私と近しいもの。そして力を増すには適正と経験値」
ヒーリングを育てると以下のようにランクアップするという。
ヒーリングウォター 中級魔法
ヒーリングレイン 範囲魔法
セイントヒーリング 上級魔法
「この高い尖塔のおかげで神との距離が近づきました」




