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エレーヌ 女神教会

「あー、ズキズキする!」


 魔鋼鉱山で魔物に噛みつかれたのが一ヶ月前。

 私は家にもどって早速手当を受けた。

 でも、完治しない。

 治療が遅かったからだ。

 お陰で後遺症が残った。

 一ヶ月たつのに、痛みが引かないのだ。

 ホント、ディオンって使えない奴。


「この痛みは想像以上にしつこいですね。おそらく、数ヶ月以上続くのではないかと」


 子爵邸専属の回復魔導師がそういう。

 この痛みをずっと我慢しなくちゃいけないの?


「これ以上の治療は、王都まで行かれるか、それとも最近話題のフェーブル領の女神教会に行くと治るかもしれないですね」


 何だって?


「女神教会?」


 そんな教会があるって初耳。

 

「ええ、そこのシスターは聖女と呼ばれていまして。数々の難病を治療しているんですよ。このところメキメキと評判をあげております」


 聖女ですって?

 聖女は私よ。

 まさか。

 そのシスター。

 転生者じゃないの?

 十分、ありうる。

 伯爵邸。魔鋼鉱山。上手くいかなかった。

 なんだか誰かが先回りしている感じがする。

 私同様、ゲームをやりこんだ転生者がいる?

 女神教会がその証拠よ。

 女神教会はCOFにはなかった。

 転生者が後から作ったんだわ。

 やばい。

 赤信号じゃない。

 


「ねえ、その女神教会に行きたいんだけど」


「いいですが、治療を受けるには信徒になって契約魔法を結ぶ必要があるんですよ」


 は?

 私にマイナーな教会の信徒になれって?

 ダメすぎる。

 だって、私は真実教会の聖女になる予定なのよ。

 そんなおかしな経歴をつけたくない。


 ……でも、お尻の痛さには変えられない。

 ま、いいっか。

 治療だけ受けてササッと信徒をやめれば。


 ◇


 ちょっと待って。

 フェーブル街で女神教会の場所を聞いた。

 スラム街にあるという。

 嫌な予感がする。


 フェーブル街のスラムの教会。

 私の栄光へのルートにスラム街の教会がある。

 もちろん、それは真実教会。

 私が聖女から大聖女と認められるようになるイベント。

 それがスラム街真実教会で起こる。


 その教会には様々な古代(天空)魔道具がある。

 結界魔道具、転移魔法陣とかだ。

 特に転移魔法陣。

 私はこれをきっかけに魔導具師としても大成する。

 転移魔法陣を解き明かし、王国の移動に革命を起こすのだ。

 

 この技術革新をもって、私は大聖女への第一歩を歩み始める。


 だけど、それはずっと後の話。

 この段階では訪れてもイベントが起こらない。


 その教会のことが頭をよぎるんだけど……


 訪れて確信した。

 ここはイベントが起こるはずの真実教会だ!


 道順、周囲の情景、教会の形。

 すべて、ゲームのイベントに出てくるやつだ!


 真実教会であるべきはずが女神教会になってる?

 なんてこと。

 シスターが真実教会の乗っ取りを図った?


 こうしちゃいられないわ。

 中に入って真実を掴まなくちゃ。


 ◇


「残念ですが、信徒契約は結べませんでした」


 ええ、なんでよ!

 私はこの教会で奇跡を起こす大聖女なのよ!

 中に入れないってどういう事!


 スラムのど真ん中、臭くて危険な場所まで私はわざわざ足を運んだ。

 その挙げ句が契約拒否ですって!


「契約は両者が満足した意思のもとで結ばれるものです。おそらく貴方様は完全には信徒になりたいとは思っていらっしゃらないんでしょ」


「そんなこと、ないわよ!」


「いえ、貴方様のような方は珍しくないのですよ。まあ、御縁がなかったということで」


 なんだ、このクソ生意気なクソガキは。

 私と同い年ぐらいなのに、いっちょ前の口を聞きやがって。

 私の魅了も契約魔法には無力だ。


 私は泣く泣く教会を離れることにした。

 お尻が痛いのに!

 でも、私は見た。

 シスターを。


 ルックスはまあまあね。

 私のほうが断然可愛いけど。


「聖女様!」


 シスターが現れた瞬間に信徒がひれ伏せている。

 あなた達!

 その女はニセモノよ!

 何が聖女様よ。

 ごくごく普通の女よ。

 私の輝きの足元にも及ばないわ。

 そう、大声で叫びたかったけど。


 肝心なのは、その手に持つ美しい杖。

 

「魔杖だ!」


 なんてこと。

 それは私が持つべきもの。

 この泥棒猫。


「「「ニャ?」」」


 私が泥棒を睨んでいると、

 黒猫が私の周りを取り囲んでいた。

 なに?この殺気を振りまくバカネコたちは。

 ちっとも可愛くないわ。


「シャー!」


 一匹が唸りをあげる。

 うわっ、殺気が膨れ上がった。

 尻尾がパンパン。

 やばい。

 

 私はホウホウの体で教会を逃げ出した。



「エレーヌ様、大丈夫ですか?」


 私の護衛である侍女や騎士が

 私を心配そうに覗き込む。

 ディオンはどこにいるかですって?

 魔鋼鉱山のあと、喧嘩別れしたわ。

 だって、使えないんですもの。


 私は冷や汗でびっしょりだ。

 多分、顔も真っ青なのかもしれない。

 真剣に命の危険を覚えたわ。

 何よ、あの乱暴バカネコたちは。



 ああ、あの魔杖。

 この先、私には聖女イベントが待っている。

 私にとってはターニングポイントとなるべき重要なイベント。


 それに必要なのがあの魔杖なのに。

 救済措置はある。

 魔杖が取れなかったときは、王立高等学院の図書室。

 そこの地下に倉庫がある。

 その地下に魔杖の上位バージョンがあるはず。


 ただ、これは未確認。

 裏技としてネットで読んだことがあるだけ。

 開発者の忘れ物じゃないか、とか言われていた。


 いずれにしても、学院には通うことになる。

 今度は絶対にゲットよ!



 でも、あの教会に入れないとなると、数々の奇跡を私は手に入れられなくなる。

 どうしよう。

 きっと、あの泥棒猫はそのことを知って教会を占拠したんだわ。

 あの凶悪猫を使って!

 そうに決まってる!


 やばい。

 転移魔法陣を先に使われてしまう。

 結界も強化される。

 大聖女の名誉があのブサイク女にわたってしまう!



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