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女神教会での販売

 冒険者ギルドで騒動がおこっていたころ。


「シスター、女神教会の収入は寄進がメインって話でしたよね?」


 俺達は女神教会に来ていた。

 女神教会を憂いたためだ。

 俺達から見てもシスターが世間離れしている。


「そうですね。信徒様の寄進で成り立っております」


「信徒は何人ぐらいいるのでしょうか?」


「え……と、百人ぐらい?」


 ダメだ、こりゃ。

 多分、信徒数を掴んでいないな。


「シスター、ここは収入の多角化が必要だと思うのです」


「多角化、ですか?」


「はい。要するに、収入を増やすこと。そうしない限り、また借金騒動がおきますよ」


「……」


 シスター、シスター見習いの二人の少女がいる。

 そして孤児院まで経営している。

 よく持続できたもんだ。


「で、ですね。ここで薬の販売をしてはどうかと」


「薬ですか」


「ええ、回復薬です。俺が開発しました。薬師ギルドのとは製法のかなり違うものです。ちょっと試してみてください」


「……随分と甘くて美味しいのですね。あ、なんだか元気が出てきました」


 確かにシスターがほんのりと発光している。


「だれか、怪我の人いませんか」


「えと、子どもたちがいます。一人呼びましょう」


 ◇


「うわ、何これ、一発で傷口が治っちゃった!」


「すごいだろ、坊主。ついでに薬を飲んどくか?」


「いいの?……ゴクッゴク。うー、甘くてスゲー美味しい!」


「えー、ずるいぞ。僕にも」「私にも」


「まてまて、一列に並べ」


 結局、孤児十五名全員に配ることになった。

 やはり、子ども全員が少し発光している。


「シスター、この発光はですね、身体の身体強化がなされた印なのです」


「え? そんな効果が?」


「ええ。ちょっぴりですが。あと、簡単な風邪ぐらいなら一発で治りますね。これをですね、一本二百ギルで販売したらどうかと」


「二百ギルですか? びっくりするぐらい格安なんですね」


「俺達的には儲け度外視です。主眼は領民の健康ですから。同じ趣旨で冒険者ギルドにも提案しています」


「ああ、なるほど。それはぜひとも扱いたい商品ですね」


 内気な感じのするシスターであるが、

 この時ばかりは目が輝いた。


「で、ですね。この話を詰めるにあたって、秘匿することが多いですから、ぜひともご内密に。まあ、秘密保持の契約魔法を結んでいただいておりますが」


「それはもっともな話です。私でも薬師ギルドや真実教会とかからいろいろ言われそうなのはわかりますから」


 ※薬師ギルドは冒険者ギルドの件で

  おとなしくなっている。


「何か言われたりしたら、黒猫ズが追っ払ってくれますよ。なあ?」


「「「ウニャ!」」」

 

 三匹の黒猫が片手を上げて応えている。

 こいつら、とんでもなく強いからな。


「頼むぜ。遠慮不要だからな」


『にゃあ(おまかせください。それに女神教会が活発化しはじめておりますので、増員をたのんであります)』


 黒猫増員か。

 こりゃ頼もしいや。

 黒猫が言うには、黒猫は群体であって、全にして個、個にして全。全ての黒猫が一つにつながっているという。


 ◇


 さて、販売することにしたのはB級回復薬だ。

 位置付けとしては薬師ギルドの初級回復薬のバージョンアップ版。

 将来的にはスィーツや酒類なども加えたいが、今のところはこれだけ。


 あまり注目をあげても困るということもある。

 数を揃えられない。

 現状ではB級回復薬に集中せざるをえない。


「シスター、この回復薬なんですが、信徒のみに販売するのはどうでしょうか」


「信徒様だけですか?」


「ええ。信徒確保の呼び水にしたいのと、不必要に情報を拡散したくないのですよ。よからぬ輩も集まってきますからね」


「ああ、わかります」


 間違いなくやってくる。

 回復薬を転売する奴が。


 何しろ、薬師ギルドでは初級回復薬は一万ギル。

 それ以上の効能の薬を二百ギルで販売する。

 転売屋はボロ儲けだ。

 そういうのは是非とも防ぎたい。


 誠実でちゃんと必要な人に売りたいのだ。

 だから、信徒で秘密保持の契約魔法を結ぶ。

 そうした人にだけ販売する。


 ちなみに、瓶はリサイクルする。

 使用したカラ瓶と交換で新しい薬を渡す。

 割れたりなくした場合は二百ギルが余分にかかる。


 また、A級回復薬も細々と生産する。

 販売しないが、シスターに使ってもらう。

 教会に病院機能をもたせたいのだ。


 このA級回復薬。

 ちょっとした身体の欠損まで復活させる。

 指程度なら問題ない。


 病気も風邪が重症化したような場合でもいけるようだ。

 多くの疫病にも対応できるかもしれない。

 まだ臨床例が不足していてはっきりわからないが。


 推測であるが、これらの回復薬は人間の持つ

 治癒力を増大させるようだ。

 自ら治す再生機能とウイルスや細菌と戦う免疫機能を活性化させる。



 A級回復薬の治療費は一回三千ギル。

 これまた契約魔法を結んだ信徒のみが対象。


 仮に払えない人はボランティアをさせればどうか。

 俺には清浄魔導具がある。

 これをもって、女神教会の付近を浄化させる。

 何しろ、ここはスラムだ。

 汚い場所が山程あるのだ。


 ただ、B級魔法薬は一日百本。

 A級魔法は一日十本程度が限度だ。

 現状での生産能力は高くない。


 信徒と秘密保持の契約を結んでも、噂はすぐに広まるだろう。

 何しろ、死ぬ確率の高い怪我や病をなおす。

 しかも安い。

 金がなくてもボランティアで後払いできる。



「ただ、シスター。絶対に無料で治療しないように」


「うーん、心が痛むこともありそうです」


「ええ、それはわかります。でもですね、無料で喜ぶのは最初だけです。何度も繰り返すと、それが彼らの既得権益になるのです。で、次は無料で治すのが当たり前に思われます」


「ああ、そう言えば」


 シスターにも思い当たるフシがあるようだ。

 何しろ三人の保証人になり借金奴隷に落ちる手前だったからな。


「ですから、払えない人にはボランティアをさせるわけですね」


「そうです。治療には必ず対価が必要だと。それは徹底していきましょう。いや、ボランティアじゃなくて、ちゃんとした労働としましょうか」


「労働ですか?」


「ええ。対価であることをはっきりさせるためです。そうですね……王国的に言えば、普請とでもいうのでしょうか?」


 普請とは教会用語であまねく大衆に請うて労役に従事してもらうとこである。

 あ、もちろんこれは日本の言葉に翻訳した結果だ。

 王国語ではニルマーンという発音になる。

 皆でいい環境を作るという意味合いが強い。


「契約魔法を結びますから転売する奴はいないでしょうが、いたら強力に対応を。それは黒猫に頼みましょう。それから、薬師ギルドだけじゃなくて、強固手段に走る輩も生まれるかもしれません。心構えだけはしておいてください。黒猫たち、頼んだぞ」


「「「うにゃ!」」」


 今までは単なる貧乏教会だった。

 ところが、これからは金のなる木になる。

 しかも、スラム街のど真ん中にある。

 襲われないほうがおかしい。


 ◇


 回復薬を販売した。

 予想通り、あっという間に噂は広がった。

 教会前は信徒契約を結びたがる人で行列ができた。


「なんでだ、契約を結べないなんて!」


 案の定、すぐに良からぬ輩が現れた。


「貴方様が心底から契約を望んでいないからです」


「何を言う。俺は納得して信徒になろうとしているのに!」


「契約魔法は口先で結ぶものではありません。貴方様の本心を受け取る魔法なのです」


「なんだと、じゃあ俺が嘘つきかなにかと言いたいのか」


「なんとおっしゃられようと、今回は御縁がなかったということですね」


「くそったれ!」


『シュパ!』


 暴力を振るおうとした男は黒猫の一撃で撃退された。

 男の額には『不敬者』の入れ墨が印された。


 もちろん、信徒になれば回復薬を購入できる。

 信徒になるには契約魔法を結ぶ。


 だが、契約魔法は虚偽を許さない。

 お互い納得の上で結ぶ契約だ。

 騙してやろうとか考えていたら契約を結べない。

 こういう輩が一日に何人も現れるようになった。



 虚偽の判断方法だが、

 信徒が毎日行うべき義務、というのを付け加えた。


 契約魔法を結ぶと、IDカードが配布される。

 このIDカードは一種の魔導具で次の判断をする。


 毎朝、女神様へお祈りをする。

 祈りの形式はひざまずきIDカードを手をもち祈る。

 IDカードが反応するとカードが光る。


 毎朝の清掃。

 どこでもいいが、各自清掃魔導具にて掃除。

 清掃魔導具は個別登録してありIDカードと連動する。

 これにIDカードが反応するとカードが光る。


 それ以外の行為は求めていない。

 また、祈りや掃除は義務でもない。


 ただ、毎朝ちゃんと求めた行為を行っているかは、IDカードをチェックすればわかる。

 行っていなければ、気持ちがないことがわかる。

 自動的に信徒資格を失う。


 特に、掃除するという項目は貴族階級や富裕層には厳しいだろう。

 そんなことは使用人がやるもの、という習慣が根強く残っているからだ。


 現にうちのジャイニーも

 

「なんだよ、掃除なんてしたことねーぞ」


 とブーたれていた。

 

「ジャイニー、坊ちゃまだってやってるんだし、教会のシスター、それかセリーヌとロザリーも毎朝欠かさずやってるんですよ。二人に嫌われてもいいんですか?」


 セリーヌとロザリーはシスター見習いでシスターの侍女のような働きをしている。


「う……それを言われると」


 俺もレナルドならばジャイニーと同じだったろう。

 でも、元日本人だからな。

 掃除ぐらいさほど苦にならない。


 結局、信徒はほぼ庶民階級で占められることになった。


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