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冒険者ギルドと栄養剤 俺達はC級相当以上

「C級冒険者以上のレベルはありますな」


 毎朝の領兵たちとの合同訓練。

 (夕方は女神教会で訓練)

 俺たちはますます実力が向上しつつある。

 そんな中での父ちゃんズのお墨付き。


「一度さ、冒険者ギルドで登録してみたいんだけど」


「坊っちゃんがですか? うーん、領主の長男ですからな、あんまりお勧めはできませんが。冒険者ギルドはギルドとしては珍しく中立性の強いところでして」


「極力、身分を隠すから」


「まあいいでしょう。世間を広めるっていう意味でも悪いことじゃない」



 異世界と言えばやはり冒険者ギルド。

 やっぱり、覗いてみたいよね。


 一応、変装する。

 ちょっと前から簡単な変身スキルが発現している。

 髪の色と目の色を茶色にする。

 ジャイニーとスキニーも同じだ。

 これは庶民に多い色の組み合わせで、貴族には滅多にいない。


 出身は孤児院にしておこう。

 シスターと口合わせをしておいて。

 ガッキーズで登録してみる。


 ◇


「ちぇっ、隣の受付に並びたかったぜ」


 俺達は冒険者ギルドに来ていた。


「そうですよ。僕も隣が良かったです」


「おまえら、ちょっと綺麗な女性ひと見るとすぐに鼻の下をのばすのな。女神教会にいいつけるぞ」


「ああ、いまのなしなし」


「ほんのちょっとした戯れですよ、坊ちゃま」


 で、俺達が並んだのはハゲの厳ついオヤジの受付。

 おっかないんだけど。

 そのせいか、誰も並んでいない。

 そのおかげで登録は滞り無く終わった。


 続いて窓口から説明を受ける。


 冒険者ランクはF~Sまで。

 ただし、Sは名誉クラス。

 実質的にAクラスが最上級となる。


 Aクラス冒険者は数万人のうちの一人とかそんなレベルだ。


 冒険者は世間的にはあまり尊敬されていない。

 でもしか冒険者と呼ばれ、農家の三男とかがなる。

 冒険者でもやろうか。冒険者しかできない。

 だから、でもしか冒険者。

 他に仕事がないから、しかたなくやる人が多い。

 危険・キツイ・臭いの3kだ。

 臭いのは長期間身体を洗わないことが多いからだ。


 山を歩き回る。

 一度現場に出たら数日は家に帰らない。

 ホコリ・ドロまみれ。

 そのままじっとしている場合も多い。

 おむつをしている人もいる。

 ゴブリンとかオークとか、有名な性獣がいる。

 冒険者自体、犯罪者まがいのものが多い。

 特に女性は薬草採取以外での活動は珍しい。


 一番多いのはE級冒険者だ。

 活動していれば誰でもなれる。

 だが、Fは当然としてE級ではまるで稼ぎがない。


 D級でようやく冒険者として認められる。

 が、冒険者自身がどうにか生活できるというレベルだ。

 

 家族を養うには最低C級が必要。

 C級にたどり着ければ、一般的な冒険者としては終点レベルだ。


 B級以上は非常に少ない。

 そのかわり、B・A級になると収入が跳ね上がる。

 自由人としては収入最上位者になる。

 その点だけを見て、冒険者に憧れる人が多い。

 無論、B級以上は特別なセンスや才能が必要。 



「以上が冒険者レベルの説明だ。何か質問あるか?」


 ダミ声でハゲの肉ダルマ。

 いちいち押しの強いオヤジだ。


「話はそれるけど、魔鋼鉱山で討伐した魔物の魔石があるんだよ。これ鑑定してよ」


「お、そうか……む? ちょっと待てよ」


 窓口はそう伝えると急いで奥に引っ込んだ。



 しばらくして、ハゲオヤジが戻ってきた。


「待たせたな。おまえら、これどこで討伐したんだ?」


「え? とある山の洞穴なんだけど」


 俺はぼかして答えた。


「何か変わった魔石?」


「珍しい魔石だから、当ギルドの鑑定士にも見せて確認してきた。これはな、スケルトン・ナイトの魔石だ。C級の魔物だがな、その辺にいるようなやつじゃないんだ」


 スケルトン……骸骨みたいな敵だったってこと?

 獣だと思っていたけど。

 確かに、肌触りが固質だったわ。


「ちょっと、状況を教えろ」


「教会の支援者と森の薬草を取りに行ったら洞穴があって中に入ったら出くわして」


「うーむ、森の奥とかダンジョンの深層とかにいるタイプだな。どこだったか、思い出せるか?」


「僕達ではちょっと。割と森の奥だったよ」


「まあ、強い魔物が突発的に街近くに来ることもある。よく討伐できたな」


「一人、強い人がいて。元王国騎兵団にいた人」


「もしかして、レポルトさんとかアレオンさんか?」


「そうそう、その二人。有名なんだ」


「ああ、この領で元王国騎兵団にいたとなれば、真っ先に二人の名前が出る。まあ、あの二人がいれば楽勝か」


 へえ、父ちゃんズ、かなり評価されてるんだな


「おまえら、そうすると、討伐経験もそこそこあるのか」


「うん、薬草摘みついでにね。何体か討伐してきたよ。せいぜいグレイウルフだけど」


「そうか、じゃあちょっと腕を見せてもらおう。それなりの腕があるのなら、E級にあげといてやる。ギルドの裏に来な」


 ◇


「ほう、軽くD級以上の腕があるな。しかも、おまえら手を抜いてただろう。まあ、腕を見せたくない気持ちはわかる」


 窓口のハゲオヤジと軽く剣を合わせることになった。

 かなり強い。

 父ちゃんズといい勝負だ。

 と思っていたら、彼はギルマスだった。


「C級でもいけそうだが、おまえらまだ若いしギルドの規定もある。E級からだな」



 彼がギルマスなら話が早い。

 俺は冒険者ギルドに来たもう一つの案件を話すことにした。


「(ところで、ギルマス。ちょっと内緒の話が)」


 俺は小声で俺達の素性をさらけ出す。


「(なんだ、伯爵のところの坊ちゃんか。噂とは随分と違うな。体型も態度も)」


 ギルマスも俺に合わせて小声で話してくれた。


「(はは。できれば人のいない場所で話したいんだけど)」


「(いいぜ、俺の部屋にいこうか)」


 ◇


 通されたのはギルマスの部屋だった。


「実はね、こういうのを持ってきたんだ。自作の回復薬だ」


「ほう。自作とな」


「薬師ギルドの初級回復薬より効果があると思うよ。試してみてよ」


「よしわかった。ここに俺の古傷がある。これで試してみてもいいか?」


「ああ、多分いけると思う」


 ◇


「なるほど、凄い性能だな。この古傷は初級回復薬では治らず、中級か高級回復薬が必要だ、と言われた傷だ。回復薬は高いし、この古傷は滅多に痛みもないから放っておいたんだがな。しかも、このガラス容器。透明で薄い。しかも固そうだな」


「ああ。それも俺たちのオリジナル製品だ。でね、これを冒険者ギルドで扱ってもらえないかと」


「ほう」


「薬師ギルドをかわしたくって。あと、俺の両親。

見つかったら、取り上げられる」


「はは。笑い事じゃねえよな」


「女神教会でも似たような商品を扱うつもり。シスターとは交渉が済んでいる。つまり、教会がらみの製品ということで。値段もぐっとお値打ち価格だよ」


「なるほど。女神教会たあ微妙な教会を出してきたな。確かに隠れ蓑としちゃ、いけてるかもな」


「薬じゃ薬師ギルド的にはマズイでしょ。だから、栄養剤ってことでどうかな」


「ふむ。俺達は身体が資本だ。しょっちゅう、怪我をする。その怪我が元で引退したり、最悪死んだりするわけだ」


「うん」


「ところが、薬師ギルドの薬の値段の高さだ。普段使いなんてとてもじゃないが、できやしねえ。奴らは何かと言えば金の話をする。薬師ギルドにはほとほと嫌気がさしてたんだ」


「いける?」


「おお、いいものを持ってきてくれた。で、いくらだ?」


「卸値は百ギルで。あ、ガラス容器は別でね。容器はリサイクルしてもらいたい」


 ガラス瓶は保証金制度を念頭においている。


「なんだと、この高性能さで薬師ギルドの初級回復薬の百分の一だと」


「販売価格はまかすけど、二百ギルか三百ギルといったところ? ちなみに女神教会は二百ギル」


「いいのか?」


「いや、原価なんてあってないようなもんなんだ。要するに技術料だね。それに、俺には領民を救いたいっていう気持ちがある」


「ほう、見上げた心構えだな。噂と実物は随分と違うもんだ。いや、感服したぜ」



 俺達はそのあと事務的な詰めを行った。


 とりあえず、俺の作る回復薬は

  初級回復薬→B級回復薬

 とすることにした。

 薬師ギルドの初級回復薬と混同するからだ。

 中級回復薬はA級回復薬となる。


 ◇


「あとね、冒険者のレベルを上げて欲しい。俺が金を出してもいいから、常勤講師を呼べないだろうか」


「ふむ、それは俺もずっと考えていたことだ。なかなかギルド経営は厳しくってな、俺達が講師を兼任して回していたんだが、この栄養剤の売上で賄えるだろう」


「売れそう?」


「当然だろう。バカバカ売れるぞ」


 俺は自分のレベルをギルマスに審査してもらう時、他の冒険者たちの練習風景も見学してたんだ。ちらりとだけどね。


 D級冒険者もC級もレベルが低い。余分な力や動作が入りすぎている。父ちゃんズや黒猫は言うに及ばず、うちで稽古している領兵のほうがレベルが高いぞ。


 冒険者っていうのは、王国のセーフティネットだ。

 職のない人の最後に頼る手段でもある。

 そんな彼らだからこそ、実力はつけてもらいたい。


 それに、冒険者も領の戦力だからな。

 いたずらに消耗してもらっては困る。


 ◇


 栄養剤はバカバカ売れているらしい。

 毎朝納品後、すぐに完売になるほどだと。


 案の定、薬師ギルドからクレームが来たけど、


「ほっとけ」


 とのギルマスの一言でうっちゃられている。

 すると、薬師ギルドのギルマスが乗り込んできた。


 言い争いになったが、


「薬師で扱う薬ってのは、薬師指定の薬草を使い、薬師指定のレシピがあるのを言うんだろ? これは全然違った観点から作られた飲み物だ。それ以前にこれは薬じゃない。栄養剤だ」


「そこまで言うならレシピを教えろ」


「俺が知るわけ無いだろ。知ってても教える馬鹿がどこにいる。だいたい、女神教会謹製の薬なんだ」


「何? あの零細教会がからんでいるだと?」


「は? 零細などと馬鹿にしていいのか? 曲がりなりにも女神アプロティーナ様を信仰する由緒正しき教会だぞ」


「ふん。由緒正しいが聞いてあきれるわ」


「ああ、教会に伝えておくからな。おまえ、神罰が下るぞ」


「やってみな」



 その話を聞いた俺はさっそく黒猫に伝えた。


『にゃあ(許しません)』


 怒った黒猫は薬師ギルドのギルマス宅を急襲。

 ギルマスに不眠の呪いをかけたという。

 しかも、ようやく眠ると女神様から叱責される悪夢を見るという。


 そして、彼の額には燦然と『不敬者』の入れ墨が印された。



「女神様。どうか生意気な口を聞いた私をお許しください……」


 薬師ギルマスは目の下に黒黒としたクマを作り、女神教会に懺悔しに行ったそうな。


 『不敬者』の印は一旦消え、不眠もなくなった。

 だが、女神教会に対して何か邪な事を考える度に 『不敬者』の印が額に現れ、その度に女神教会に懺悔に向かうことになった。



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「世間を広める」では無く、「見聞を広める」ですね
栄養剤転売まったなし!
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