急激なレベルの向上 C級相当かも?
「一本! そこまで!」
「おおお、父上に初めて勝てた……」
「スキニー、よくやったな。今の攻撃は鋭かったぞ」
スキニーだけじゃない。
俺もジャイニーも父ちゃんズといい勝負をする場面が多くなっている。
勿論、父ちゃんズは手を抜いている。
そうじゃなきゃ、マジすぎて死人が出る。
対して、俺達は百%で向かっていく。
そういう差が俺達と父ちゃんズとの間にはある。
それに、父ちゃんズも俺達と稽古したり瞑想を組むことで力が上昇しているのだ。
「おまえら、冒険者レベルならD級は確実だな。C級程度はあるかもしれん。このまま行くと王立騎士団でもやっていけそうだな」
父ちゃんズは元王立騎士団の中堅どころだった。
「へっ、王立騎士団にはいかないぜ」
「ですね。僕も入るのなら領の騎士団にしたいです」
「おお、ジャイニーとスキニー、嬉しいこと言ってくれるな」
俺がレナルドに転生してから三ヶ月。
剣と魔法、飛躍的に実力が向上してきた。
特に魔法。
俺は中級四属性魔法を制覇し始めている。
他にも様々な魔法が発現している。
無属性バイオ魔法、蒸留魔法、醸造魔法は
俺の得意魔法になってきた。
魔道具スキルも発現してから順調に伸びている。
薬師スキルも同様だ。
ガッキーの二人は中級魔法に移行し始めた。
このレベルの向上は俺達だけではない。
俺達と一緒に訓練している領兵も同じだ。
以前とは比べ物にならないほど実力が向上している。
そして、それは教会でも同様だった。
【女神教会販売と孤児院教育】
俺は黒猫の件で、女神教会が間違いなく女神様の関連教会との確信を持った。
そこで、シスターに俺の秘密と孤児を含む全員に魔法訓練を施すことに決めた。
そのために、秘匿契約魔法を結んだ。
「これからは本当に内緒の話です。実は俺は女神様から神託を授かりました」
「え?」
俺はこれまでの経緯を話した。
「ですので、今は『女神の加護』持ちです」
「本当ですか、実は私も『女神の加護』を持っております。シスター見習いの二人も」
「え?」
この人達、何者?
女神教会に従事しているだけのことはあるのか。
「じゃあ、シスター見習いの二人も呼んで話をしましょうか」
「お、久しぶり!」「あれ以来だね!」
ガッキーズの二人はシスター見習いの二人に面識がある。
馴れ馴れしいぐらいに嬉しそうだ。
二人共とんでもない美少女だからな。
しかし、テレとかないのか。
「レナルド様は始めまして。わたしたちはセリーヌとロザリーって言います」
おお、華麗なカーテシー。
片足を後ろに引き、膝を軽く曲げて、
スカートが床につかないように少し持ち上げて。
カーテシーをスカートをつまむものと
考えている人もいると思うけど、多分それは誤り。
膝を屈することに意味がある。
もともとは窮屈な服のせいでお辞儀ができない。
だから、膝を屈する。
スカートを持ち上げるのはが汚れないようするため。
過剰なスカートの持ち上げは下品になると思う。
皇室外交でスカートを持ち上げている画像を見たことがない。
裾が汚れないからだ。
さて、三人が揃ったところで、例の瞑想を始める。
「はあ。私ってこんなに魔力があったのですか?」
驚いたのは、シスターだ。
俺達のいっちょ前の見立てではシスターの潜在能力は凄い、であった。
実際、そのとおりだった。
魔力増強訓練をしたら、俺達のようなレベルでも溢れ出る魔力を視認できた。
いきなりシスターが光り輝き止めどもなく魔力があふれる光景はみんなを驚かせた。
「シスター、ちょっとストップ!」
シスターはまるで魔力をコントロールできていない。
ダダ漏れ魔力は周りを不安定にする。
「あれですね、ちょっと瞑想をして精神修行しないといかんですね」
シスターだけ、別メニューだ。
というか、俺達と同じ瞑想を組むだけだ。
「うわっ、すっごーい!」
「まだ十二歳なんでしょ?素晴らしい魔法威力ね!」
キャッキャッしてるのはシスター見習いの二人。
相手してるのは、ジャイニーとスキニー。
二人が美少女相手に自分の魔法を自慢している。
おい、おまえら、鼻の下のびてんぞ。
彼女たちは一個上のお姉さんだ。
でも、この世界ではタメと同じだ。
彼女たちはそこそこいいところのお嬢さんらしい。
振る舞いに教養がある。
教養のある人たちというのは、一つ一つの所作がキレイなんだよね。
特に背筋。
ピンと伸びてる。
それと、所作にキレと配慮がある。
ここが教養のない人との大きな差異。
誰でもすぐにわかるぐらいの違いがあるんだ。
あ、俺っていうかレナルドは違うけどね。
悪い意味で野生児だったから。
そこに俺が転生したんだ。
良くなるはずがない。
それともう一つ。
上流層は外見が整っている例が多い。
この世界では外見は大きなポイントとなる。
例えば、戦場で号令をかけるとき。
背が高いことが重要となる。
兵士たちは背の低いちんちくりんから号令をかけてもらいたくないのだ。
社交界でも当然見栄えがものを言う。
いかに外見が美しく、振る舞いがキレイか。
これには階級は関係ない。
仮に王女だったとしても、ブサイクで所作が醜くければ相手されないし、むしろ嘲笑の対象となる。
だから、結婚では外見が前世以上に重要だ。
外見で将来の半分が決まるのだ。
ルッキズムが幅をきかせているのだ。
もっとも、女神教会の三人はちょっと例外すぎる。
シスターは女神とタメをはるほどの美人さん。
見習いの二人も同学年では飛び抜けた美少女だ。
ガッキーズの二人がデレデレなのも当然だ。
それと、三人は浮世離れしてる。
何か霞を食べているような雰囲気がある。
ただ、俺達を見ても軽蔑の反応を示さない。
俺達は領では有名な悪ガキだ。
誰もが出逢えば避けて通るし、逃げていく。
道を歩くのを見かければ家の窓を閉めてしまう。
俺達の反省と努力の結果、少し館の使用人の当たりが柔らかくなってきた、
そういうレベルなんだ。
だから、余計に二人がデレデレする理由がある。
単純に嬉しいんだ。
俺達は朝は領兵たちと訓練、夕方は女神教会に出かけるのが日課になった。
「なあ、坊っちゃん。朝も教会に行こうぜ」
「そうですよ、坊ちゃま。領兵の訓練は十分でしょ」
もう、二人は目がハートマークだ。
俺は二人の頭を叩きつつ、
「馬鹿言え。おまえら、たるみすぎ。父ちゃんズに言ってもっと厳しく訓練してもらうぞ」
父ちゃんズの訓練。
これは魔法の言葉だ。
一気に顔色を青くする二人。
そんなこんなで一週間ほど教会に通った。
シスターが魔力をコントロールできるようになってきた。
そう思えるようになったある日。
「レナルド様。私に『グルスキル』なるものが生じたのですが」
え。
グル。
これは古代語で指導者とか先生とかを指す。
俺にもこのスキルは発現している。
これで他人にスキルを発現させることができる。
ただし、本人の適性にあった魔法・スキルだけが定着する。
仮に適性に合わないものが発現しても、伸びしろに欠ける。
「シスター、すごいじゃないですか。それ、他人にスキルを発現させる能力なんですよ」
と言ったところで俺ははたと気付いた。
自分に発現していない魔法・スキルは他人に発現させることができない。
「今、私に生じているスキルは一つだけです……」
「え? 初めて聞きました」
「格闘スキルです」
は。
シスターの唯一のスキルは格闘スキル?
そんな美しい顔と細いモデル体型でアチャーとかやったりするわけ?
「訓練したつもりはないんですが、土地柄のせいでしょうか、いつのまにか生じていました」
そういや、ここはスラム。
こんな美人さんと美少女二人。
いくら教会関係者とはいえ、おかしな奴はいる。
「ただ、使ったことはありません」
後ろで黒猫たちが自慢そうな顔をしている。
わかってるって。
お前たちが影から見守っていることは。
猫たちはシスターたちの危険を感知すると石像から瞬時に起動、影移動でやはり瞬時に現場に直行するらしい。
「シスター、でも他人の魔力を増進させることはできますよ!」
今、俺がシスターたちにやっていることだ。
瞑想スキルである。
「ええ? では、レナルド様のようにやればいいのですか?」
「そうです! これで朝も瞑想してみてください。夕方は俺達が来ますから、進捗具合がはかどりますよ」
膨大な魔力の持ち主なのに、一つしかスキルを持っていないなんてバランスが悪すぎる。
それにしても、シスターにグルスキルか。
これはうまくやればシスターは大化けするぞ。
【スキニー】
スライムに気絶させられた屈辱から一ヶ月。
僕は父上にも相談して小剣と格闘の訓練を強化した。
戦闘に大切なもの。
気配察知と魔法探知、気配隠蔽スキル。
これは以前から発現はしていた。
でも、本当に基礎的な段階でとどまっていた。
それがこの訓練で随分と強化された。
以前よりも、ずっと敵の動きを察知できる。
同時に自分でも動きが軽くなっていると感じる。
で、戦闘時での僕の役割。
僕は虚弱なくせに近接戦闘の得意なスキルが発現した。
「おまえの役割は身軽さを活かした避けタンク。ひらりひらりと相手の攻撃を躱す」
そんな役割があるとは。
その役割を実感したのが一角ウサギ戦だ。
僕にはスライム戦で挑発スキルが発現した。
そのスキルが活躍し始めたのだ。
一角ウサギを視認する。
ウサギに挑発スキルを飛ばす。
眼尻をあげて突っ込んでくるウサギを交わす。
その繰り返し。
「「いいぞ、スキニー」」
二人が僕を褒めてくれる。
ジャイアンは土魔法『バレット』か火魔法。
坊っちゃんは風魔法攻撃『風刃』で攻撃する。
二人とも後方から魔法攻撃だ。
坊ちゃまもタンクをすることがある。
坊ちゃまが盾で敵を押さえ僕が後ろから小剣で攻撃する。
実力は徐々に上がってきた。
そのうちスライム、一角ウサギが僕達を避け始めた。
この世界の魔物は実力差に敏感だ。
明らかなレベル差を魔物が感じ取っている証拠だ。
そして、ある日。
「一本! そこまで!」
「おおお、父上に初めて勝てた……」
もちろん、父上は訓練用に手を抜いている。
それでも、父上に一本を取れたのは自信につながった。
「スキニー、D級冒険者は固いな。将来は王立騎士団団員か?」
と言われた。
王立騎士団に興味はない。
僕の希望は領軍で坊ちゃまの役に立つことだ。




